ちょぴん先生の数学部屋

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平成の東大理系数学 -1999年-

このシリーズでは、平成の東大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。

東大の数学の問題は、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。

(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )

 

21回目の今回は、1999年の問題です。

第1問

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三角関数の加法定理を証明する問題です。

「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」に勝るとも劣らない衝撃的な問題です。

 

ご存知の通り、三角関数の公式のほとんどはこの加法定理をベースに作られています。ですから、受験生の多くは、「加法定理さえ暗記しておけば、万一他の公式を忘れてもその場でつくればいいや」というスタンスで試験に臨むはずです。まさに、その受験生の盲点を突いた問題です。。。教科書にも載っている基本的な公式ですから、証明を一度は目にしているはず。でもそれを覚えている人はほとんどいない、、、受験生はパニックになったに違いありません。。。

 

東大からの、「公式は丸暗記せずに、ちゃんと理解して使いましょう」というメッセージでしょうね。

 

さて、前段が長くなりましたので、証明方法の説明に移ります。

 

(1)のsin,cosの定義は、単位円上の点の座標ですね。

 

(2)は、定義から、角度をマイナスにするとどうなるか?90°足すとどうなるか、180°足すとどうなるか?360°足すとどうなるかが、図形的に示せます。

 

いきなり一般の角度で考えるのは厳しいので、まずは分かりやすい角度で証明して、後で上記の公式を使って範囲を拡張するという方法で行きましょう。

 

最もメジャーな証明方法は、余弦定理を使ってcos(α-β)=cosαcosβ + sinαsinβを示す方法ですね。辺の長さを、三平方の定理余弦定理の2通りで表現して示します。

あとはα、βを色々置き換えれば、全て証明できます。

 

別解として、2つの直角三角形を用いる証明方法を載せました。これは、私が高校の先生から教わった証明方法で、余弦定理すら使わずcos, sinの定義さえ覚えておけば、中学数学だけで視覚的に証明できる簡潔な方法です。

 

<筆者の解答>

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第2問

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絶対値の条件をみたす複素数の個数を数える問題です。

 

(1)は、漸化式から直接znそのものを計算する、という方法でも行けるのかもしれませんが、以後絶対値しか出てこないので、絶対値の漸化式を作ったほうが良いでしょう。

 

ここで役立つ不等式が三角不等式と呼ばれるもので、以下のようになります。

||a|-|b||<|a+b|<|a|+|b|

証明もさほど難しくありませんし、不等式評価する際に頻繁に使います。

 

この不等式を使うと、5|zn|-1<|zn+1|<5|zn|+1となるので、各辺の漸化式を何度も使うことで(1)の証明ができます。

 

(2)は、とりあえずf(r)を調べてみましょう。

 

今5^n/4<rとなる最大のnをNとしましょう。こうすると(1)から、z1,z2,・・・,zNは全部条件を満たすので、f(r)は少なくともN個あります。となると、zN+1が満たすかどうかが気になります。

 

もし、3*5^n/4>rとなっていれば、zN+1は条件を満たさないこと確定ですが、3*5^n/4<rのときは、満たすか満たさないかは分かりません。しかし、zN+2以降は満たさないこと確定なのでf(r)は高々1しか増えないわけです。よって、N<f(r)<N+1となります。

 

Nは定義の仕方から、rの式で評価できるので、最終的にはさみうちの定理が使えます。

 

<筆者の解答>

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第3問

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四面体の各辺で、一部通行止めがあっても物資を運搬できる確率を計算する問題です。

 

問題文では「電流」となっていますが、不適切だと筆者は感じます。物理を勉強した人ならわかるかと思いますが、いくら導線が金属になっていてもそれが回路になっていなければ電流は流れません。よって電流ではなく、回路になっていなくても流れる「水の流れ」や「物資の流れ」と例えるほうが適切です。

 

(1)は、例によって「AからBに物資が届かない確率」を考えたほうが楽です。まずは辺ABを通行止めにしてしまいましょう。

 

この後、AC,ADが通行止めか否かで場合分けして考えるとよいですね。

 

最後に、これらの合計を1から引いたものが答えです。

 

(2)は、結局、「BからAに運搬でき、かつAからFに運搬できる確率」です。それぞれは対称性から(1)の答えそのものになるので、(1)の答えを2乗したものが(2)の答えです。

 

<筆者の解答>

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第4問

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半径1の球に入っていて1点だけで交わる2つの円の半径の関係性を調べる問題です。これは難問でしょう。

 

AとBの式の書き方についてですが、Pの座標を先に決めてしまったほうが楽にいきます。そして、円の中心を半径とx軸からの角度で表現するのが一番スッキリします。注意すべき点は、AとBは円「板」なので円の外周だけでなく内部もあるという点で、AとBの式は、「方程式」ではなく、「不等式」で書かれることになります。

 

これで、AとBが少なくともPで交わる状況を作れたので、共有点がこのPだけになることを式で表現します。AとBをxの連立不等式として解いたときにx=pだけになる条件を出せばよいです。これで条件(b)の処理がお終いです。

 

次に条件(a)の処理ですが、これはA,Bが結局半径1の単位円の中にすっぽり収まっていればよいので、絵を描けば処理できます。

 

ここで、この問題の最終目標は半径を最大にすることなので、AとBが単位円に接するようにしてしまいます。

 

これらをグラフの領域としてまとめてあげて、これと直線R+r=kとの交わりを考えることでkの最大値がpで表現できます。いわゆる線形計画法という手法ですね。

 

あとは、予選決勝法により今まで固定していたpを動かしてあげれば、最大値が出てきます。

 

最終的に出てくる最大値1ですが、まぁ直観的に考えればそりゃそうかと思えますね。

 

<筆者の解答>

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第5問

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二項係数の偶奇を調べる整数問題です。(2)が難問です。

 

(1)(2)いずれの場合も、N!が2で割り切れる回数が、

1~Nにある、(2の倍数の個数)+(4の倍数の個数) + (8の倍数の個数)+・・

と計算できることを使います。

 

(1)は、上の式を使って分子が2で割り切れる回数と、分母が2で割り切れる回数を比較して、前者のほうが大きいことを示せばよいです。このとき、約分しても分子の2が必ず生き残るので偶数となります。

 

(2)は、まずmが偶数の時NGなことはすぐに分かるので、奇数の時に絞って考えます。

 

小さい奇数でで実験してみると、多くのケースで、mC (m-1)/2が偶数になってしまうことが分かります。これが奇数になってくれるのは、m=1, 3, 7, 15,・・・・となっています。

 

この数列を見てピンと来た人は相当場数を踏んでいるといえますね。m=1, 3, 7, 15,はよく見ると、m=2^1-1, 2^2-1, 2^3-1, 2^4-1となっています。いわゆるメルセンヌ数2^n-1というやつです。

 

こうしてみると、答えはメルセンヌ数しかなくて、他はNGじゃないかと予想できるわけで、これを証明することになります。

 

先に挙げた、mC (m-1)/2が、mがメルセンヌ数であれば奇数、そうでなければ偶数になることを、(1)と同じような考え方で証明することができます。

 

ここまでで、mはメルセンヌ数しかありえないことがわかりましたが、これで終わりにしてはダメです。まだ、mがメルセンヌ数のときに、mC (m-1)/2以外の二項係数が奇数になることを証明していません。この十分性の確認が必要になります。

 

ここで、mCn+1とmCnの比をとってあげましょう。この比の分子に偶数が登場しなければ、mCnが全部奇数だということができます。

 

ここまでやって、求める答えが、メルセンヌ数全部だと言えます。

 

余談ですが、メルセンヌ数の中でも素数になる「メルセンヌ素数」が特に重要な数になっていて、「完全数」と深い関係にあります。このメルセンヌ素数については、後日ブログで紹介しようと思います。

 

<筆者の解答>

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第6問

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積分値の評価に関する問題です。計算力と発想力の両方が求められる難問です。

 

第一の関門は、言うまでもなく問題文の積分の計算です。指数関数と三角関数の積の形の積分は、練習を積んでいないと厳しいでしょう。

 

まずは、sinの2乗がイヤなので、2倍角の公式を使ってcosの1次の式に直します。

次によくあるテクニックなのですが、こういうときはe^x×cos2xとe^x×sin2xの2つの式を微分することで、e^xcos2xの原始関数を求めることができます。

 

さて、積分の計算が無事終わって、証明したい式を整理するとe^π>21となります。

 

eとπの近似値が与えられていますが、小数乗なんて計算をすることはできませんし、だったらとπを3で取り換えて計算しても、2.71^3 =19.902511 となって、ギリギリ届きません。

 

ということで、第2の関門はe^π>21をどうやって証明するかです。

 

ここで、突然ですが、y=e^xのx=3での接線を考えると、

e^x>e^3 (x-3) + e^3 をグラフから示すことができます。

 

そもそも微分という作業は、「関数を1次関数で近似する」作業です。こう言う場面で威力を発揮することになります。

 

これで、指数のxが消えた形になったので、

e^π>e^3 (π-3) + e^3 = e^3 (π-2) >2.71^3 × 1.14 =22.68・・>21 と具体的に計算できる形になります。

 

この近似を思いつけるかが問われました。

 

<筆者の解答>

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