ちょぴん先生の数学部屋

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平成の京大理系数学 -1991年-

このシリーズでは、東大に引き続き、平成の京大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。

京大の数学の問題も、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。

(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )

 

29回目の今回は、1991年の問題です。

第1問

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点の軌跡を求める問題です。

 

(1)は、問題文の条件を丁寧に処理すればs,tがpの式で書けます。

 

(2)は、(1)の式でpを消せばよいのですが、s,tの取りうる値の範囲には注意しましょう。

直線PQの式を求めると、その傾きが、Qの軌跡となる曲線のx=sにおける微分係数になっていることが分かります。

 

<筆者の解答>

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第2問

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1次変換に関する問題です。

 

(1)は、点(s,t)にfを適用すると、常にl上に移ることが分かります。これは、fが逆行列を持たないために起こる特殊な現象です。

 

(2)は、まずQを(q, -2q)と文字で置くことで、平方完成によりqがxとyの式で書けます。

fによってQに移る点はP'(x', y’) は、q=x' - y' と書けるので、これまたx'^2 +y'^2が最小になるように平方完成を使って、x', y' をそれぞれqの式として求めます。

 

(3)は、(2)の結果からgを表す行列が求まりますので、素直に行列の掛け算を実行しましょう。

 

<筆者の解答>

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第3問

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対辺が垂直な四面体の各辺の中点の性質を調べる問題です。例のごとく、空間図形なのでベクトルを使います。

 

Vの頂点をO,A,B,Cとすると、3組の対辺が垂直だという条件から、OA, OB, OCのうち2つのベクトルの内積が全て等しくなることが分かります。

 

各辺の中点をOA, OB, OCで表現して、Vの重心Gが(OA+OB+OC)/4と表せることを利用して、各中点とGとの距離が全て等しくなることを証明しましょう。

 

<筆者の解答>

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第4問

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不等式評価の問題です。左側の証明と、右側の証明では全くアプローチが異なるのでやや難しい問題と言えます。

 

左側は比較的素直な証明方法で、中辺^2 - 左辺^2 をひたすら計算計算してプラスであることを証明します。

 

tanの半角の公式が必要になりますが、これはsin, cosの半角の公式から自力で作ることが可能です。

 

右側ですが、単純な右辺 - 中辺の計算では、おそらくうまくいきません。右辺がtanaとtanbの1次式なのに対し、中辺はtanaとtanbの1/2次式になることが予想されます。次数が違う上に文字が2つある式を処理するのは骨が折れそうだと想像がつきます。よって、別のアプローチが欲しいです。

 

ここは、以前東大の1995年第2問で紹介した、「凸性の利用」が一番スッキリする証明方法でしょう。tanxは0<x<π/4では下凸の関数なので、y=tanx上の2点を繋いだ線分は、必ずy=tanxのグラフより上側にあります。これにより、右側の不等式の証明も視覚的に証明できました。

 

<筆者の解答>

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第5問

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取り出した玉と白球を交換する作業を繰り返すときに赤玉を取り出す確率を考える問題です。

 

(1)は、赤がi個あることと赤を取り出すことを同時に考えるとややこしいので、まずは赤の個数に特化して考えてしまいましょう。

n回目の操作を行うときに赤がi個ある確率をqi,nとすれば、

pi,n = i / (N+3) qi,n となりますので、先にqi,nの漸化式を作って、後でpi,nの漸化式に変換するとよいです。

 

今回の設定では、赤の数は、一回の操作で変わらないか1個減るかの2択しかありません。

 

(2) (1)で作った3本の漸化式を全て足せばpnの漸化式になるので、これを解けばよいです。

 

<筆者の解答>

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第6問

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複雑な微分方程式に関する問題です。発想力の問われる難問です。

 

(1)は、まず条件2を微分しましょう。右辺は、tにf(x)を突っ込んだうえで、f'(x)をかけます。かなり複雑な微分方程式になります。

 

再び条件2の式に戻ってx=0を代入すると、右辺= 0 という関係式ができます。ここで、e^(-t^2/2)は、ガウス関数という統計の分野でお馴染みの関数で、積分を机上で計算できない関数の最も卑近な例になります。よって、積分の計算を実行することは残念ながらできません。

 

かといって諦める必要はありません。右辺の積分の中身は、よく見ると常にプラスの値を取ります。常にプラスの関数を積分すると0になる、そんなことが起こるためには、積分区間が両端一緒になるほかありません。よって、f(0) = aと無事に求まります。

 

(2)以降は、発想力の必要な難問です。

 

まず、(1)で求めた微分方程式をf'(x)について解くと、0<f'(x)<1は簡単に分かります。

f'(x)の式の分母には、多項式÷指数関数 という形の関数が存在しますが、これが無限大に発散してしまうと(イ)が言えず美味しくありません。しかし、この形の関数は必ず最大値を持つので、その最大値をMとすれば、f'(x) > 1/(M+1) と下から押さえることができます。よって、b=1/(M+1)と置きなおせば、(イ)が示されたことになります。

 

同様に、(1)の微分方程式を使って、f(x)(1/f'(x) - 1) を計算すると、またしても多項式÷指数関数が登場します。その最大値をcとすれば、(ロ)も示せたことになります。

 

(3)は、(ロ)を使って、f'(x)をサンドイッチします。するとf(x)の分数関数ができますが,

(イ)から、f(x)は常にb以上の増加率で増えていくので、f(x)は無限大に発散することが分かります。よって、はさみうちの定理を使うことでf'(x)の極限が計算できます。

 

f'(x)の最小値は、bの値を具体的に求めればよいです。

 

f'(x)やf(x)の具体的な式が分からない状態で不等式をあれこれ弄る必要があるので、発想がうまくいかないと手がつかない難問だったのでした。

 

とはいえ、実際に物理などで登場する微分方程式は大半はキレイに解くことができないので、この問題のように、具体的な関数の形が分からなくても。少しでも関数の振る舞いの情報を拾い集めていく努力が必要になります。

 

<筆者の解答>

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