ここ最近は、東大・京大の過去問ばかり取り上げていたので、久々に小話系の記事を書いてみます。
今回は、「円周率」について、掘り下げてみます。
最初に、日本一有名な、東大の入試問題を紹介します。
<東京大学 2003年度 理系第6問>
この問題は、以前東大の過去問紹介の記事で取り上げていますが、2003年当時、大変な話題を呼んだ伝説の問題となりました。
(過去問紹介記事https://stchopin.hatenablog.com/entry/2020/04/09/190506)
まずは手始めに、この問題を通じて、「円周率」について考えてみましょう。
そもそも「円周率」とは何だったか?これは、小学校の時に習っているはずですが、
「円周率」= 「円周の長さ」 ÷ 「円の直径」
です。円は常に相似なので、この数は円の大きさに関係なく同じ値になります。
円という図形は建築やモノづくりで重要な図形で、それを扱うには円周率の情報が必要不可欠になります。そんな背景があったため、円周率の研究は大昔から続けられていました。既に、3000年以上前の古代メソポタミア文明の時代には、3よりちょっとだけ大きい数だということが知られていました。
古代の数学者たちは、
22/7=3.14285・・・
355/113=3.14159292・・・
あたりを近似値として使っていたようです。
しかし、3より大きく4より小さいという何とも中途半端な数だったので、当時の数学者たちは、なんとかして円周率の正確な値を知ろうと努力を重ねました。
では、円周率の値πをどうやって調べるか。定義に帰ってみましょう。
円周率πは、円周を直径で割り算した値でした。ということは、半径を1 (つまり直径を2)にしてあげると、円周は、2πと表現できます。
この円周の長さ2πを、手頃な直線の長さを使ってサンドイッチすればよいのです。
まず、安直な挟み方をしてみます。
図のように、円の外側に正方形を、円の内側に正六角形を作ります。
外側の正方形の外周の長さは8, 内側の正六角形の外周の長さは6なので、
図形的に、
(正六角形の外周)< (円周)<(正方形の外周)
⇔ 6 < 2π <8
⇔ 3 < π <4
が証明できます。
しかし、この評価はガバガバすぎて、πが3と4の間にあることしか分かりません。
もっと精度を上げていくには、挟む図形をもっと円に近づけないといけません。
円に近づける最も手っ取り早い方法は、正n角形の角数nをどんどん増やしていくことです。微分積分が発見される前の時代では、この方法での調査が主流でした。
先の東大の問題は、正12角形を使うことでπ>3.05を証明することができますので、こうした歴史的な背景を知っていると解きやすい問題だったわけです。
ちなみに、過去の数学者たちが挑戦した計算は、正12角形なんて生易しいものではなく、とてつもない角数の正n角形を使っていました。
例:
アルキメデス →正96角形を使って、3.14まで確定させた。
関孝和 →正131072角形を使って、小数点以下11桁まで正確に計算。
ルドルフ →正2^62角形を使って、小数点以下35桁まで正確に計算。
ルドルフの例なんて、もはや何桁あるかすら見当もつかない天文学的数字ですが、それでも小数点以下35桁までが精一杯なわけです。
時代は下って17世紀になると、微分積分という強力なツールが発明されることによって、円周率πは、円という図形から離れて計算できるようになりました。
その一例が、以前紹介したバーゼル問題だったりするわけです。
(バーゼル問題https://stchopin.hatenablog.com/entry/2020/02/22/182338)
ただ、この系統での計算方法も、nをうんとデカくしてあげないと、πの値は決まっていきません。
円周率の値の評価がいかに大変かが、如実に分かる入試問題がかつてありました。
<大阪大学 2013年度 理学部挑戦枠第2問>
積分を使ってπの値を出していくのですが、問題文を見てください。√3の値が小数点以下7桁まで登場しています。
ここまで精度のいい値を使わないと、πの小数点以下3桁すら満足に計算できないわけです。言うまでもなく、これを手計算で解こうとすれば、4桁×8桁なんていう大変な計算を何度も繰り返さないといけません。これだけで気が遠くなりますね。。
※この問題の解説はこちらで行っています。
円周率を精度良く計算するのは大変!! ~大阪大学の2013年挑戦枠の過去問から~ - ちょぴん先生の数学部屋
いずれにせよ、円周率の正確な値を手計算で計算することは、並大抵の努力では出来ないことがお分かり頂けたかと思います。過去の偉人たちは、電卓なんて存在しない時代にこんな大変な計算をやり遂げたのですから、天才であったのみならず忍耐力に優れた努力家でもあったことがよく分かると思います。
さらに時代が進むと、円周率πが「無理数」であることが判明します。無理数とは、分数の形で表現できない数で、小数で書けば小数点以下の数が不規則かつ永遠に続く数です。
つまり、円周率の値を正確に求めるプロジェクトに、終わりが永遠にやってこないことが分かったわけです。
※円周率が無理数であることの証明はこちらで行っています。
今となっては、円周率の計算は、専らスパコンの性能テストのために行われているといってよいでしょう。2020年現在の最高記録は、約31兆4000億ケタなんだそうです。
参考文献https://www.bbc.com/japanese/47552083
最後に、円周率πは、もともとは円という幾何学から誕生した数ですが、今の時代では、物理現象(梁の座屈現象、波に関わる現象:振動、電磁波、量子力学)や情報処理(フーリエ変換、正規分布)などを理解する・使いこなすのに必要不可欠な数となりました。
世界を支える超重要な数だけに、これからも研究が続いていくことになるかと思います。
ではでは。