皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さて、年明け早々大変なことになっておりますね。この年末年始でCOVID19の東京での1日当たりの陽性確認数が過去最多の1200人を超える勢いで増えており、医療崩壊しかかっているようです。こうした状況を鑑みて、1都3県で2度目の緊急事態宣言を発令する検討に入ったというのが現在の状況ですね。
この状況について、8割おじさんこと京大の西浦教授が以下のような見解を述べられています。
私が理解できる範囲で要点を述べると、
「実効再生産数を十分に下げないと、感染者は十分に減らず自粛期間が長引いてしまう。そのためには飲食の制限だけでは不十分だ」
という見解です。
第1波での経験を踏まえて現実的には今回は対象を絞った制限をかけるだろうとは思いますし、どの業種をどう制限するか、どう補償していくかが大きな争点となるでしょう。ここに関しては私は専門家ではないので深入りはできません。
しかし、「実効再生産数を十分に下げないと、感染者は十分に減らず自粛期間が長引いてしまう。」という見解は、全くその通りだと思います。しかも、このことは簡単な指数関数の知識で理解することができます。
2021年最初の記事では、これについて解説したいと思います。
「実効再生産数」とは、患者1人が平均して何人の人にウイルスを感染させてしまうかを表す量です。一般に、この数字が1より大きければ感染が拡大する、1より小さければ感染拡大は収束するということができます。
数式にすると下のようになります。
第n日目の新規感染者の人数をan人、実効再生産数をc(>0)とすると以下のような漸化式が立ちます。
an+1 = c×an
これは等比数列の漸化式なので、簡単に解くことができて
an = a0 × c^n
と一般項が書けます(a0は初期値です)。指数関数の性質から、n→∞にしたときの収束性は以下のようになります。
1. c>1のとき、無限大に発散する
2. c=1のとき、a0で一定
3. c<1のとき、0に収束する
感染拡大を止めるには、当然ながらc<1となるように対策を打つ必要があります。ここまでなら誰も異論はないでしょう。
問題はここから。cを1より小さくするのはわかったけど、「どの程度まで下げればよいのか?」です。
この問いに関して、西浦先生は記事の中で4種類の実効再生産数の数値を挙げています。0.95, 0.90, 0.80, 0.65の4つですね。0.95が現状の対策を維持した場合(白)、0.90が現在政府で検討されている飲食のみの制限(青)、0.65が4月並みの制限(赤), 0.8が青と赤の中間程度(黄)、となっています。
それぞれの数値の場合で、an = a0×c^nのグラフがどうなるかをプロットすると下のようになります。パーセント単位で数字が分かりやすくなるよう、a0=100としています。
一口に指数関数と言っても、cの値が違うだけで減少の仕方が全く異なることが分かります。例えば、anの値を初期値から20%に下げようとすると(緑線)、
c= 0.95 →n=31
c= 0.9 →n=15
c= 0.8 →n=7
c=0.65 →n=4
といった感じにかかる日数nが7倍以上も違ってきてしまいます。
さらに言えば、累積の感染者総数も調べておくと、無限等比級数の公式
S=a0 / (1-c)= a0 ×R (R=1/(1-c) )から、
(Rは、初期の感染者数から最大何倍程度感染者が増えるかを表す量、と解釈すればOKです)
c= 0.95のとき、R=20
c=0.9のとき、R=10
c=0.8のとき、R=5
c=0.65のとき、R=2.8
といった感じで、cを十分下げれば累積の感染者数も激減させることができるとわかります。一方でc=0.6以下程度にすれば、Rの傾きも寝てきて効果がサチッてくるので、それ以上の自粛は過剰だと言えるかもしれません。そこは、医療現場の負担の度合いや経済の痛み具合とのバランスで判断するところでしょう。
いずれにせよ、「実効再生産数を十分に下げないと、感染者は十分に減らず自粛期間が長引いてしまう。」という西浦先生の見解が定性的に正しいということがお分かりいただけたかと思います。
自粛期間が長引くということは、それだけ長く経済活動が停滞してしまうということですし、感染者が減らないということはそれだけ重症者数も増えてしまい、入院しなくてはいけない患者さんが増えて医療崩壊につながってしまうことになります。
cを十分に下げることが、「重症者を減らし医療崩壊を防ぐ」「経済の停滞期間を短期間に済ませて早期に元通りにする」という2重の意味で大変重要だ、というのが西浦先生の見解だと私は理解しましたし、そうすべきだと感じました。
他方、西浦先生を「過剰自粛だ」と散々に攻撃してきた、京大藤井聡教授のtwitterがこちらです。
東京都の新規PCR陽性者数の推移。かなり微妙ですがひょっとしてピークアウト?かもしれません。
— 藤井聡 (@SF_SatoshiFujii) 2020年12月3日
だとしたら、このグラフのピークが11/27、感染日はその約2週間前ですから11/13あたりがピーク。
だったら小池知事の25日の時短要請は単なる過剰自粛という事になりますが……皆さんはどう思いますか? pic.twitter.com/PirlCXV30y
あたかも感染者数が減り始めた、つまり実効再生産数が1を下回りさえすれば自粛は不要だと言わんばかりの論調ですね。
ここまで記事を読んでくださった方なら、この藤井教授の主張は誤りであることがすぐにお分かりになるでしょう。1を下回るだけでは収束のスピードに大きく差が生まれるからです。収束のスピードが遅いほど、感染者ひいては重症者の数が増えて医療崩壊のリスクが減らず、その分経済がより長く傷んでしまうことになります。実際、このtweetがされてから1か月後(つまり今)に東京の感染者の推移がどうなったかはご存知の通りですね。
人の命が関わる大事な判断をしなければならないのに、「ひょっとしてピークアウトしたかも」などと科学的根拠も何もない楽観視をした挙句、過剰自粛だったと外野から後出しジャンケンで叩いているわけです。おまけに感染者が過去最多になり予想も盛大に大外ししてしまっています。はっきり言って無責任極まりないですね。
※藤井氏については、以前にも自粛を批判するために恣意的なデータを作ったと批判する記事を書いていますので、そちらもよければご覧になって下さい。
cを十分に下げないまま自粛を緩和してしまうと、患者数の低下スピードが遅くなって医療崩壊しやすくなってしまうのはもちろん、そんな状況では人々が感染することを恐れて結局経済が以前のように回らなくなってしまいます。そして、感染機会が増えれば増えるほどウイルスは変異しやすくなるので対策をより困難にしてしまうと考えます。結果として、コロナ禍を長引かせてしまうことにつながります。
私個人の意見としては、『現実問題としてCOVID19に対して有効な治療法とワクチンが確立し「インフルエンザと同程度のリスクに低減」されるまでは、少しでも感染拡大を抑制して時間稼ぎをして、その間の経済損失については政府がきちんと財政出動して補償する』以外にコロナ禍を乗り切る方法はないと考えています。
今の状態が異常なのは誰だって分かっている話ですし、早く元通りの生活に戻りたいのは、誰だって同じです。しかし、そんな心につけこむような甘い言葉を囁くデマゴーグが必ず出現します。「自粛は過剰だった」「それを主張する西浦先生は○○だ」「○○しさえすれば感染は防げるから自粛は不要だ」「コロナなんてただの風邪だ。大したことない」「コロナで死ぬのは寿命だ」などなど。しかしこんな誘惑を信じて行動することで、かえって元の日常に戻れる時期が遠のいてしまうわけです。
是非とも、皆様には扇動に惑わされることなく、自分で判断して行動するようにお願いします。