ちょぴん先生の数学部屋

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2021年度 東大理系数学 解いてみました。

2021年も大学入試のシーズンがやってきました。

今回は、東京大学の理系数学に挑戦します。

 

 

<概略> (カッコ内は解くのにかかった時間)

1. 放物線の通過領域(30分)

2. 複素数の存在範囲(35分)

3. 定積分の計算(40分)

4. 二項係数を4で割った余り(40分)

5. 三角関数の増減(20分)

6. 4次式の因数分解(40分)

 

<体感難易度>

 5<1<2<6<3<4

容易く完答できる問題が一問もない、東大らしい手強いセットですね。それでも去年よりは若干易化したでしょうか。

幸いどの問題も小問に分かれているので、無理して完答を目指すよりかは、解ける小問を確実に押さえて部分点をかき集める戦略の方が良かったかと思います。

 

というか、今年も確率なしですか。2018年以来4年連続ですね。あと体積を計算させる問題も出題なしですね。その代わり第3問で超ヘビー級の積分があるわけですが。。

 

<個別解説>

第1問

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放物線の通過領域を求める問題です。一見簡単そうですが、(2)の着想が意外に難しいです。

 

(1) 2次方程式の配置を考える典型的な問題でしょう。判別式、端点の符号、軸の位置に注意して条件式を積み上げていきます。

 

(2) 通過領域を考えるのですが、目新しい点があります。よく出題される通過領域の場合、動かすパラメータが1つだけのことが多いですが、今回はパラメータが2種類存在しています。

 

通過領域を求める方法には、

順像法:xを固定してパラメータを動かしてyの取りうる範囲を調べる

逆像法:パラメータが特定の範囲に収まるようなx,yの条件を求める

の2種類がありますが、今回の場合は順像法の一択です。逆像法だと2つのパラメータが関連しながら動くので把握が困難です。

 

順像法だと方針が決まれば、xを固定してa,bを動かしてyの範囲を求めていきます。放物線の式を変形すると、xa+b=y-x^2 となって、ab座標平面では「直線」となります。

そして(1)でab平面でa,bの存在範囲を図示していました。ここでピンとくる解法が「線形計画法」です。領域と直線が交わる条件を考えることで、値の範囲を決める、という手法でした。今回の問題は、この解法に気付けたかがキーポイントでした。

 

よって、直線xa+b=y-x^2と(1)の領域が交点を持つ条件を、xの値で場合分けして調べつくしてyの範囲を求めて図示すれば、求める通過領域が求まったことになります。

 

<筆者の回答>

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第2問

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複素数の存在範囲を調べる問題です。

 

(1) 問題文の通りにf(0), f(1), f(i)を計算して連立するだけです。

 

(2) f(2)に(1)の結果を代入してあげて、実部xと虚部yをそれぞれα,β,γの式で書いてあげます。3つ変数があるのが面倒ですが、幸いにしてα,β,γは全て独立して動いてくれます。

xの式とyの式を足し引きすると1文字消去できる(残念ながら2文字以上は同時に消せません)ので、3文字それぞれについてx,yの不等式を出してあげましょう。

 

こうしてできた3つの不等式を図示してあげれば終了です。

 

[3/7追記]

別解を追記します。

x,yをα,β,γで書くところまでは一緒ですが、(x,y)=α(-1,-2) + β(3,1) +γ(-1,1) というベクトルの形にしてあげて、動かす文字を一つずつ追加していき、線分→平行四辺形(線分の通過領域)→平行四辺形の通過範囲(答え)という感じで、次々に通過領域を求めていく方法です。

 

<筆者の回答>

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[3/7追記] (2)の別解です。

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第3問

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分数関数と接線の交点、および関連した積分を計算する問題です。(1)は容易いですが、(2)の積分が超ヘビー級で、捨て問レベルだと思います。

 

(1)セオリー通りにlの式を求めて連立してあげるだけです。

 

(2) (1)の結果を代入してあげると、(6次式)/(4次式)の形の積分になります。これは見た瞬間に目眩がするレベルの超ヘビー級の積分で、ヨビノリさんの「今週の積分」であれば★5つレベルを余裕で凌駕していると感じます。積分計算のテクニックのデパートともいえるレベルに手法を総動員しないと解くことができません。

 

まず、分子の次数の方が大きい分数式になっているので、

1. 割り算をして分子の次数を下げる が最初の一手です。

分子が4次式×2次式の因数分解の形になっているので、2次式を一旦どけて4次式の部分だけで割り算を実行するとよいでしょう。すると、割り算の商の部分の積分計算は楽なので先に計算することができます。このテクニックを2回行うと、分子の方が次数が小さい状態にできます。とはいえ、一旦因数分解を解消して展開しないといけないので、かなり面倒です。

 

次のテクニックは、

2. 分子に、分母の微分系を無理やり作る です。

この操作をしてあげることで、微分系になった部分をlogの形で積分計算できます。ここまで進むと、1/(x^2 +3)や1/(x^2 + 3)^2 の形の積分だけが残ります。

 

この形を見たときの最後のテクニックが、

3. x=√3 tanθと置換する ですね。

この変換によって積分計算が非常に楽になります。1/(x^2 + 3)^2 の積分はcosθ^2の積分に置き換わるので、

4. sin, cosはできるだけ1次の式にする

を使って(今回の場合は2倍角の公式を使って)積分を進めます。

 

これだけのテクニックを総動員して、ようやく計算完了です。

試験問題としてではなく、時間をかけてもいいので自分の手でじっくり味わうように計算してみることをオススメします。

 

[2/28追記]

コメントにて、「(2)の積分は先に展開してから計算すると楽ですよ」というご意見を頂きましたので、展開したバージョンでの別解を追加しました。確かに、先に展開してからやった方がはるかに楽でした。それでもそこそこ大変で積分のテクニックのデパートであることに変わりはありませんが。

 

私が展開せずに解いたのは、分子のカッコにx=-3を突っ込むと0になるから積分の労力が減るかも、という変な思い込みをしていたからなのですが、基本的に「積分は和と相性が良く積とは相性が悪い」という傾向をちゃんと重視すればよかったですね。。

 

<筆者の回答>

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[2/28追加] (2)の別解

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第4問

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2項係数を4で割った余りについて考察する問題です。(1)は何とかなりますが、(2)以降は難しいです。(4)は(3)の結論ありきで解くことができますが。。

 

(1)合同式を使っていくとよいでしょう。K,L,A,Bの余りを全て文字で置いて検討します。

 

(2)発想としては、Aの式から何とかしてBを抽出したい、という思いで臨みます。

4a+1, 4b+1という余計な部分をどけておくと、Aの式は、(4n)!の形の掛け算割り算で書けます。ここで、(4n)!からうまくn!を抽出できればBが作れそうです。

(4n)!を、実際に書き下すと、「4の倍数」×「4で割ると3余る奇数」×「4で割ると2余る偶数」×「4で割ると1余る奇数」の繰り返しになることが分かります。

4の倍数の部分は、4を先に掛け算してしまうと4^nとn!が出てきます。4で割ると2余る偶数は2×奇数なので、掛け算を実行すると2^n ×奇数になります。

以上をまとめると、(4n)! = 2^3n × n! × 奇数 の形に出来て、見事AからBがうまく抽出できます。分子と分母で、2^3nの部分がうまく約分できるので、B以外の部分は奇数しか残らなくなるわけです。

 

(3) (1)の結果から、KとLの4で割った余りが等しいことを言えばOKです。(2)の検討からK,Lの中身をチェックして4で割った余りを調べていきます。

※この問題は、私自身確信を以て証明できていません。。すみません。この証明自体がうまくいっていなくても、(4)は解くことができるので、多少の減点は止む無しと割り切ります。

 

(4) (3)の結果を使って、数字を小さくしていくと、最終的に126C2 を4で割った余りを調べることに帰着できます。

 

<筆者の回答>

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第5問

 

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三角関数の増減を調べる問題です。このセットの中では、方針に迷うことはない一本道の問題と言えます。

 

(1) f(θ) = (θ+sinθ+α)^2 + (cosθ+3)^2 となりますので、微分して増減を調べていきます(この時にf(θ)を展開しないほうが計算が楽ですね)。今回の場合は3回微分をしないと符号がはっきりわかる形になりません。

 

(2) f'(θ)=0となるθをγとすると、(1)での検討からθ=γでf(θ)が最大になることが分かります。よって、題意を満たすには、0<γ<π/2であればOKです。(1)の検討から、θがγより小さいところではf'(θ)は正、γより大きいところではf'(θ)は負となるので、0<γ<π/2はf'(π/2) <0と同値になります。この不等式からαの条件が求まります。

 

<筆者の回答>

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第6問

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4次式の因数分解に関する問題です。

 

(1)恒等式なので、右辺を展開して係数比較をしてあげればよいでしょう。

 

(2) 一瞬なんのこっちゃ?という問題で取っ掛かりが掴みづらいですが、(1)を満たすb,c,p,q,r達に対して、pとaの関係式をうまく作って下さい、という趣旨の問題になります。

(1)を解く際に使っていなかった関係式、qr=cがありました。これに(1)の結果を代入して式を弄ると、うまい具合に因数分解出来て、問題文の様な形にできます。

 

(3)要するに、p,q,rが有理数になるようなaを見つけてください、という問題です。(2)の定義からb,cが有理数なのは明らかで、そうであればpが有理数でさえあれはq,rが有理数になることが(1)の結果から分かります。よって、「pが有理数になるaの条件を求める」に的を絞ることができます。

 

この時に使えるのが、(2)で作ったp,aの関係式です。これがpの6次方程式になっているので、pをaで書くことができるわけです。4次式の部分はp≠0では常に正なので、残りの2次式の方からp^2 = a^2 +1 が出てきます。

aが整数の時、pも整数になるので、因数分解を利用すればa=0の場合しかありえないことが分かります。

 

これで調べ尽くせたのか不安になります。(1)の途中からp≠0前提で話が進んでいたことを思い起こせば、残る金脈はp=0の場合ですね。(1)の係数比較の式にp=0を突っ込むとb=0となるので、この時点でa=-2しか候補がないことが分かります。が、他の式を検討すると、矛盾が起こってうまくいかないことが分かります。よって、p=0の場合が不適なことが分かりました。

 

以上から、答えがa=0だけだと結論付けることができるわけです。

 

<筆者の回答>

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