皆さん、こんにちは、
今回の記事では、円周率が無理数であることを証明します。
↓円周率に関する記事
円周率が無理数であること自体は高校でも習うと思うのですが、その証明はかなりハードなもので教科書にも載っていないと思います。
歴史的には、「円周率が超越数である」というより厳しい定理が証明されることで無理数だと証明されましたが、超高度な大学数学の知識を使わないと証明できない代物です。(超越数については、後日記事を上げます)
その証明は紹介できないので、今回の記事では「高校数学の範囲」での証明方法を紹介します。ちなみに、この証明が発見されたのは1940年代という、(数学の世界では)かなり最近の話です。
発想力と計算力が要求されるハードな証明なので、ゆっくり読み進めてみてください。
早速証明に入っていきましょう。
[Step0] 仮定と設定
証明の全体像は、例のごとく背理法です。つまり、
「円周率を有理数だと仮定して、矛盾を導く」です。具体的には以下のように仮定します。
さらに、いくつか関数と定数を導入します。
①式の仮定に登場した分母pを使って、②式のような2n次関数f(x)を設定し、
このf(x)を使って、定数Iを③式のように定義します。
ここで、今回の証明の流れを先取りで説明すると、下のような流れになります。
[Step1] 「十分大きなnに対して、0<I<1になる」を証明
[Step2] 「①を仮定すると、Iはnによらず整数になる」を証明
→Step1とStep2は矛盾する
ということで、Step1から順に証明していきます。
[Step1] 「十分大きなnに対して、0<I<1になる」の証明
②式を再掲します。
このf(x)は、先頭の係数を除けば、2次関数x(π-x)をn乗したものになります。
平方完成によって(微分でも可)、この2次関数はx=π/2のとき最大値を取ると分かるので、④式のように評価できます。
③式で、2次関数の部分を丸ごと④式の定数で置き換えてしまえば、⑤式のようにIを評価できます。
2次関数を定数で置き換えてIを上から押さえ、sinxの積分のみ計算した格好です。
すると、指数関数÷階乗の形になっているので、nを無限大に飛ばすと0に収束します。
一般に、指数関数よりも階乗の方がデカくなるスピードが速いからです。
このことは、特に、nを十分に大きく取ればIは1未満になる、ことを意味します。
また、0<x<πの範囲ではf(x)もsinxも正の値となるので、Iも必ず正の値になります。
以上をまとめると、十分大きいnについては0<I<1となるので、Iは整数にならない、と分かるわけです。
これでStep1は終わりです。
[Step2] 「①を仮定すると、Iはnによらず整数になる」の証明
③式の積分を実際に計算していきます。sinxと多項式の積の積分なので部分積分が有効です。部分積分を一回行うと下のようになります。
f(x)にx=0とx=πを代入した値が出てきて、Iと似た形(f(x)が2階微分されただけのもの)が符号違いで出てきます。真ん中の中カッコの部分は消えてしまいます。
このような規則性があるので、この計算を繰り返せば⑥式のようになります。
(※f(x)は2n次式なので、2n回まで微分ができます)
ここまで計算を進めて出てくるΣの中身が整数だと言えれば、Iが整数になると言えます。
ここで、②式をよく見るとf(x)はx=π/2で対称な関数になるので、f(x)=f(π-x)が成立します。合成関数の微分を繰り返すことによって、以下が成り立ちます。
この式にx=0を代入すれば⑦'式となります。
⑦’式を⑥式に代入すると、Iの式は次の形まで簡単になります。
よって、f(x)の2k回微分した関数にx=0を代入した値が全て整数であれば、Iは整数となりますので、この値がどうなるかを調べます。
2項定理を使ってf(x)を展開すると下のようになります。
f(x)はx^nで括れているので、n-1回微分までは、xが因数として必ず残ります。よってx=0を代入すると必ず0になります。
n回微分以上で初めて0でない可能性が出てくるので、その値を微分して調べると、
という感じに計算されます。このとき、(pπ)^(2n-m)以外の部分は整数になっていますので、pπが整数であれば、この値全体が整数と言う事ができます。
ここで、ようやく背理法の仮定①式に登場いただきます。
①式を再掲すると、
だったので、この仮定の下ではpπ=q となり、pπが整数になります。
以上から、
ので、⑧式と合わせて
となります。
以上の考察から、⑥’式から、Iはnによらず必ず整数となります。
これでStep2も完了です。
[Step3]矛盾の導出
Step1では、
「十分大きなnに対して、0<I<1になる」を証明し、
Step2では、
「円周率を有理数だと仮定すると、Iはnによらず整数になる」を証明しました。
この2つの事実は明らかに矛盾します。
これで背理法により、
「円周率を有理数と仮定したことが誤りであり、円周率は無理数である。」
が証明できたことになります(Q.E.D)
非常に長くハードでしたが、これで証明完了です(Q.E.D)。
<証明全景>
正直どうやって思いついたんだ?という証明方法で、発見した数学者はマジモンの天才だと思います。「高校数学の範囲で」という縛りがある以上、発想がどうしても必要になってしまうわけです。
※補足
Step2で、「円周率を有理数だと仮定すると、Iはnによらず整数になる」という結論に違和感を持たれた方もいるんじゃないかと思います。
あくまでπ=q/pと仮定したからIが整数になっただけであって、π=a/bとか別の文字で仮定すれば、pπは整数とは限らなくなんじゃないか?と。
しかし、Step0の記述をよく思い出して欲しいのです。
f(x)の式よりも先に、π=q/pという仮定を置きましたよね?
そして、f(x)に登場する「p」は、π=q/pという仮定ありきの文字であり、f(x)はこの仮定ありきの関数です。
つまり、例えばπ=a/bと仮定したなら、f(x)は元の式のpをbに置き換えた式で定義しないといけなくて、最終的にbπが整数か否かを議論する、という話になるのです。
だから、πの仮定の仕方によらず同じ結論になるため、「πを有理数と仮定すれば、Iは整数となる」と言ってしまって構わない、というわけです。