皆さん、こんにちは。
今回は、方程式を超越した不思議な数、「超越数」について紹介いたします。
1. 超越数とは?
冒頭で、超越数は「方程式を超越している」と表現しましたが、具体的にはどういうことか?
超越数の正式な定義は、
「超越数=いかなる整数係数のn次方程式の解にもならない複素数」です。
整数係数のn次方程式とは、式で書くとこんな方程式です。
逆に、何かしらの「整数係数のn次方程式の解になる複素数」のことを「代数的数」といいます。
先に、「代数的数」の例を挙げておきましょう。
このように、整数や有理数は必ず代数的数になるので、超越数は無理数じゃないといけないことが分かります。
では無理数だったら必ず超越数なのか?そんなことはないですね。
こんな感じに無理数であっても代数的数になる数はいくらでもあるわけです。
他にも、
こんな感じに、代数的数には一部の虚数も含まれます。
そうなってくると、殆どの数が代数的数なんじゃないか?と思えてきますね。
2. 超越数の具体例
実は、上記とは裏腹に、現代の数学では「ほとんどの複素数が超越数である」ことが知られています。
無限個あるものに「ほとんど」もくそもあるか!!と思うかもしれませんが、感覚的には、
「整数の個数よりも、整数を組み合わせてできる有理数の方が種類が多いでしょ」のようなものだと思って下さい。
さて、具体的にはどんな数が「超越数」なのか?
最もキャッチーなところで言うと、
・ネイピア数e
・円周率π
は超越数です。この2つの数は以前無理数であることを証明しましたが、実は無理数のみならず超越数でもあったわけです。
他には、
・log2, log3など、自然対数に「1以外の代数的数」を代入した値
・e^2, e^3など、eを底にした指数関数に「0以外の代数的数」を代入した値
・sin1, sin2など、三角関数に「0以外の代数的数」を代入した値(※単位はラジアン)
・2^(√2) など
も超越数であることが知られています。
面白い所だと、小数点以下に自然数を順番に並べた
0.12345678910111213141516171819202122232425262728293031323334353637383940・・・・
という数(チャンパーノウン定数と呼ばれています)も、超越数であることが知られています。
こんな感じに、超越数になる数は結構多いわけです。
3. 超越数かどうかが不明な数
一般に、ある数が超越数か否かを判定するのは非常に難しい問題とされています。そのため、未だに超越数かどうかが分かっていない数がたくさんあるわけです。
例を挙げましょう。
上述したように、eとπは超越数です。しかし、それと足したり引いたり、掛けたり割ったり、べき乗しただけの数でさえ、超越数かどうかは未だに分かっていないのです。
一方でこんな数は超越数だと判明しています。
不思議ですね。
他の有名な例では、こんな定数(オイラー=マスケローニ定数)があります。
大学入試で何度か出てくるように、調和級数はnが大きくなるにつれて挙動がlognに似てくる性質があります。そして、調和級数とlognの差は収束することが知られています(その証明は別記事で取り上げます)。
しかし、その値は超越数かどうかはおろか、有理数なのか無理数なのかさえ証明されていません。
4. 超越数が絡んだ「元」未解決問題
ここまでで、「超越数ってなんの役に立つんだ?」っていう疑問が出ると思います。
そこで、超越数が絡んだ「元」未解決問題を紹介しましょう。
古代ギリシャの時代から、幾何学の問題で以下のような難問が知られていました。
「与えられた円と同じ面積の正方形を、定規とコンパスだけで作図できるか?」
中学生の時にやりましたよね?定規とコンパスだけを使って「垂直2等分線」「角の2等分線」「正三角形」「正六角形」とかを描く作業。それが「作図」です。
その要領で、円と同じ面積の正方形(あるいはその逆で、正方形と同じ面積の円)が「作図」できるかという問題で、「円積問題」と呼ばれています。
実は、長さ1から「作図」出来る長さは「2次以下の方程式の解」だけであることが知られています。
(作図は直線と円弧の組み合わせで点を次々作っていく作業のため、本質的には直線と円の交点の座標を求める=1次方程式or2次方程式を解く、のと同じです)
半径1の円の面積はπですから、同じ面積の正方形を作図しようとすると、√πという長さが作図できないといけませんね。
ところが、先述のように「円周率πは超越数」なのでした。πが超越数なら、√πも自動的に超越数となります。
つまり、作図できるのは2次以下の方程式の解、つまり代数的数の一部だけだという事実と合わせると、√πは超越数なので「√πはどうあがいても作図できない」と分かってしまったことになります。
ということで、「円と同じ面積の正方形は、定規とコンパスだけでは作図不可能」ということが証明されました。このようにしてπが超越数だと判明したことにより、円積問題は否定的に解決されることになりました。
こんな感じに超越数が役に立つ事例があるわけです。