ちょぴん先生の数学部屋

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オイラー=マスケローニ定数の存在証明

皆さん、こんにちは。

 

前回、超越数について紹介した記事において、

stchopin.hatenablog.com

超越数かどうかが証明されていない数として、こんな数を紹介しました。

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オイラー=マスケローニ定数といいます。

 

今回の記事では、この極限の値が収束することを証明していきたいと思います。高校数学の知識で十分に示せます。

 

最初に、極限を取る前の数列anを

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と置くことにします。

 

1. anの上限と下限を求める

 

anに含まれるΣは、ご存じ調和級数です。

stchopin.hatenablog.com

調和級数を不等式評価するには、積分を使えばよいのでした。

 

まず上限から調べると、

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赤の短冊(=調和級数)よりも青の面積の方が大きいので、

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と評価できます。これでanが常に1未満だと分かりました。

 

同様に、下限については

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赤の短冊(=調和級数)よりも青の面積の方が小さいので、

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と評価されて、anの下限がlog(1+1/n)だと分かりました。

 

両者を合わせると、

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とanを挟むことが出来ました。ガバガバな評価なので、残念ながら「はさみうちの定理」で即座にanの極限値を求めることはできませんが、上限と下限があるので少なくとも発散はしないことが分かります。

 

下限のlog(1+1/n)はnについて単調減少で0に収束します。なので、結局anの存在しうる範囲は、少なくとも

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となることが分かりました。

 

2. anが単調減少数列であることを示す

 

さて、anに上限と下限があることは分かりました。が、これだけではanが収束するとは限りません。

 

例えば、bn = 1/4 *(1+sin (n) ) なんて数列を考えると、0<bn<1は満たしているものの、bnの値はつねに振動するので収束しませんよね。

 

収束することを言うには、「anは単調増加する」ないし「anは単調減少する」が言えていれば十分です。なので、anの増減をチェックしていきましょう。

 

さて、anにはlognはともかく、Σの式が入っていてnの綺麗な式になりません。つまり「nで微分して~」って作業ができないわけです。

 

そうなった場合どうするか? 前後の差を取ればよさそうではないでしょうか。

 

実際

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と前後の差を計算すると、Σも消えたそこそこすっきりした式になります。これで微分に持ち込めそうです。

 

f(n)をnで微分すると、

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となって、f(n)が単調増加になることが分かります。

 

この情報を使って、f(n)>0ならanは単調増加、f(n)<0ならanは単調減少だと言えます。

 

f(n)が単調増加ということは、n→∞とした極限よりはf(n)は小さいはずです。

よって、

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となって、結局f(n)<0、つまり

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が常に成立します。これはanが単調減少することを意味します。

 

「anは常に0より大きく1より小さい値でありつつ、単調に減り続ける。」

 

これで振動する可能性も排除できたので、anの極限が収束することが証明できたことになります(収束先までは分かりません)。

 

実際、excelにこのanの増減を描かせると下のようになり、とある一定値に収束していく様子がはっきりと読み取れます。

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この収束値γは、γ= 0.5772・・・という値になります。

(ちなみに、収束のスピードは遅めで、小数点以下4桁が確定するにはn=5929まで粘らないといけません。)

 

そして、前の記事の通り、このγという収束値は、

それが超越数であるかどうかはおろか、有理数なのか無理数なのかすら証明されていない謎に包まれた数なのです。