皆さん、こんにちは。
先日、超越数という数について紹介しました。
そして、有名な超越数の例として、「ネイピア数e」「円周率π」があると紹介しました。
今回の記事では、ネイピア数eが超越数であることを証明したいと思います。そして、おまけで円周率πについても簡単に触れます(πについては高校数学を逸脱する知識を使わないと証明できません)。
ネイピア数eについては、一応高校数学の範囲のみで証明可能ですが、以前の「円周率が無理数であることの証明 - ちょぴん先生の数学部屋」の比じゃないくらい非常にハードな証明です。ゆっくりゆっくり読み進めてみてください。
証明には「背理法」を使います。つまり「eが超越数でない=代数的数である」と仮定して矛盾を導きます。
1-1. 証明の概略
証明が長くなるので、概略を示しておきます。
最初に、「eが代数的数である」という仮定を置きます。つまりこういう事です。
そして、以下のような積分値I(t), 定数J, m次多項式関数f(x)を設定します。
ここで以下の2つの事実を証明して、その両者が矛盾することを示すことになります。
A. |J|は、pの指数関数以下になる
B. |J|は、①を仮定すると(p-1)!以上になる
1-2. |J|の上限 ~Aの証明~
まず比較的簡単なAについて証明していきましょう。
②式に注目して両辺絶対値を取ってみると、
となります。1行目では、「積分してから絶対値≦絶対値を取ってから積分」という性質を使い、2行目では、積分の中身の最大値で絶対値で全部置き換える、という操作を行っています。最終的に|J|を評価したいので、tは0≦t≦nを満たす整数だとします。
今回は、ガバガバでもいいので上限を知りたいわけです。ということで、絶対値の中身の各因数、t, e^(t-tx), f(tx)をそれぞれ独立に最大にしてしまいます。
この考え方に基づけば、
tの最大値はn, e^(t-tx)の最大値はx=0かつt=nのときe^nとなるので、
となり、さらに④を使うと、
と評価できます。絶対値の部分については「三角不等式」を使って全て2n以下に抑えています。
以上をまとめると、I(t)の絶対値の上限は、
とpの指数関数の形に出来るというわけです。
ここから|J|の上限を調べると、
となり、「A. |J|は、pの指数関数以下になる」ことが示せました。
1-3. |J|の下限 ~Bの証明~
続いて、Bの証明に移ります。こちらが非常に難しいです。
まずは、部分積分を何度も繰り返して実際にI(t)を計算してみると、
とΣの形に出来ます。1回部分積分すると、fの部分だけが微分された積分になり、f(x)はm次多項式なのでm+1回以上微分すると0になります。
この②’を使ってJを計算すると、
となり、第2項は①の仮定から0になります。結局、
となります。
さて、ここからf(x)のj階微分にx=kを代入した値がどうなるかを探っていきます。
f(x)の正体は、
というようにp乗が掛け算されたような形になっていることに注目すると、
(1) 微分する回数jが、p-1未満のとき (0≦j≦p-2)
j回微分しても、x-(整数)の形の因数が全部残ってしまうので、f(x)のj階微分に整数を突っ込んだら必ず0になります。つまりこういう事です。
同じような理屈で、j=p-1なら、因数xこそ消える項があるもののそれ以外の因数は全て生き残るので、
となります。なので、③’のΣの中身が0でなくなる可能性があるのは、j≧pの場合だけです(k=0の場合だけ例外的に、j=p-1のときも0でない可能性がある)。
よって、③’は、
のように項を削ることができるのです。
(2) 微分する回数jが、p-1以上のとき (p-1≦j≦m)
引き続き、③''のΣの中身を検討します。
今、関数h(x)を
と定義すると、f(x)のj階微分は、
とできます、第1項のx^(p-1)は、p-1階微分すれば定数になってくれます。残りのxのかかっている部分をg(x)として第2項に全部押し付けました。
このとき、x=0を代入すると、
となるので、③’’の第1項は(p-1)!の倍数になることが分かります。
そして、素数pはいくらでも大きくとって構わないので、
となるように大きくとってしまいましょう。
この⑩の条件を付けると、a0はpで割り切れないし、n!もpでは割り切れなくなります。
要するに、③’’の第1項は(p-1)!の倍数だが、p!では割り切れない整数になります。
続いて、③”の第2項を見ていきます。
一般に、xのl乗をj階微分すると、以下のようになります。
ここで重要なのは、xのl乗をj階微分した数は、必ずj!で割り切れるという点です。
今はj≧pを考えていたのですから、j!は必ずp!で割り切れます。まとめると、
xのl乗をj階微分した数は、必ずp!で割り切れるという事です。
ということは、f(x)は展開すれば整数係数の多項式になるので、f(x)をj階微分した関数は、必ずp!で括れるということになります。
つまり、③”の第2項のΣの中身は必ずp!を因数に含む整数になるので、全体としてもp!で割り切れる整数となります。
ここまでをまとめると、
J =「 (p-1)!で割り切れp!で割り切れない整数」+「p!で割り切れる整数」
となることが分かります。
このことから、Jは、(p-1)!の倍数で、かつ0ではない整数だと分かるので、
|J|の下限は、
となることが分かりました。
以上から、「B. |J|は、①を仮定すると(p-1)!以上になる」も示せました。
1-4. 矛盾を導く
以上から2つの事実、
A. |J|は、pの指数関数以下になる
B. |J|は、①を仮定すると(p-1)!以上になる
が示せました。
両者をまとめると、
となります。
さて、ここでpは十分大きな素数なら何でもいいんでした。そこで思い切ってp→∞としてしまいましょう(素数は無限個あるので問題ありませんね)。すると、
となります。なぜなら、指数関数に比べて階乗の方が無限大に発散するスピードが速いからです。ということは、十分に大きく素数pを取ってあげると、
とすることができてしまいます。これは⑬と明らかに矛盾しますね。
ということで、「eが代数的数である」という仮定から矛盾が導けたので、背理法により「eは超越数である」と証明できたことになります!!
いや~ここまで本当に長くて大変な証明でしたね。
<証明全景>
2. 円周率πが超越数であることの証明(簡単に・・・)
2-1. リンデマンの定理
これでネイピア数eが超越数であることが証明できましたので、続けて円周率πが超越数であることを証明します。
が、1から証明するのは高校数学の範囲を逸脱した知識を必要とする上に非常に難解なので、今回は「ある定理」を正しいと認めた上での簡略な証明のみ紹介します。
その「ある定理」とは以下のようなものです。
その名も「リンデマンの定理」と呼ばれるものです。本当はもっと広い内容の定理なのですが、今回はこの特殊なケースを使えば十分なので、これだけにとどめておきます。(証明もしません)
この定理を使うと、実はα=1とすれば「eが超越数」が即座に言えてしまうことになるのですが、それだとあまりに身も蓋もなさすぎるので、eについては最初に発見された上記の厳密な証明を紹介しました。
では、このリンデマンの定理を認めた上で、本題に入っていきます。
2-2. 円周率πが超越数であることの証明
今、円周率πが代数的数だと仮定します。すると、それにiをかけたiπも代数的数になります(その証明は後程補足します)。
ここで、リンデマンの定理によれば、
「e^(代数的数)=超越数」
なので、e^(iπ)は超越数でないといけません。
ところが、e^(iπ)っていう数、どっかで見覚えがありますよね?
オイラーの等式ですね。
※オイラーの等式についての記事はこちら
オイラーの等式だと、
e^(iπ)という数は-1に等しいのでした。そして、-1は整数なので、言うまでもなく代数的数です。
これで矛盾が起きました。
よって、「円周率πが代数的数」という仮定が誤りだと分かったので、円周率πが超越数であることが証明できました。
2-3. 補足
上記の証明の途中で、
「円周率πが代数的数だと仮定すると、iπも代数的数になる」という事実を使いました。これが本当なのか、確かめてみましょう。
今、
だと仮定します。(係数は全部整数)
このとき、β=iπとおいてπを消去すると、
となります。
偶数乗の部分はiが消えてプラスマイナスが交互に並ぶ形に、奇数乗の部分はiが一つ残ってプラスマイナスが交互に並ぶ形で括ることができます。iが付いている部分を右辺に移項すると、
となり、両辺を2乗してあげると、見かけ上iが消えて、
となります。
この式を展開してあげれば、整数係数の2n次方程式の形になり、β=iπはその解となっているわけです。これは、代数的数の条件をバッチリ満たします。
よって、πが代数的数ならβ=iπも代数的数だと証明できました。
<証明全景>
3. まとめ
このように、ネイピア数eと円周率πが超越数であることが証明できましたが、非常に大変でした・・・。どうやって思いついたんだ?っていう証明でしたね。こんな感じに、ある数が超越数だと証明するのは非常に難しい問題なのです。