ちょぴん先生の数学部屋

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内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その1 ~チェビシェフ多項式~

皆さん、こんにちは。

 

今回から4回に渡って「直交多項式」について紹介していきます。

後日取り上げる予定ですが、量子力学における「シュレディンガー方程式」を解く際にこの「直交多項式」たちが大活躍しますので、お楽しみに。

 

初回の今回は、大学入試の問題の背景としても頻出し、三角関数との絡みで「直交多項式」の導入として最も理解しやすいであろう「チェビシェフ多項式」について紹介します。

 

0. 直交関数系とは?

 

0-1. 関数の内積・直交について

 

「直交」というと、我々はまず図形をイメージします。また図形の概念を拡張したものに、ベクトルがありました。ベクトルの世界で「直交」は内積=0で定義されていました。

 

内積の計算は、ベクトルの各成分の積を取って全て足し上げたものでした。

で、タイトルにもある「直交関数系」とは何か?つまり関数が「直交する」とはどういう意味か?そのために、関数の世界にベクトルと同じような「内積」を定義してあげます。

ベクトルの内積が積の和なら、関数の内積は、大雑把に言えば「積の積分となります。積分が「無限に小さい量を全て足していく」計算だったので、整合性も取れています。

ただ、関数の内積の場合は、ベクトルの内積にはない要素があって、積分区間の問題と、考える関数とは関係なく一律でかけられる「重み関数w(x)」という要素があることです。

積分区間a≦x≦bや重み関数w(x)を何にするかは、文脈によって逐一変わってきます。考える状況に応じて適したそれらを選ぶというわけです。

 

こうして関数の内積が準備できたので、いよいよ「関数の直交」を定義することができます。有体に言ってしまえば、「関数の内積が0→その2つの関数は直交する」となります。そして、この定義を使うと、下のように「直交関数系」を定義できます。

要するに、同じ者同士の内積だけ0じゃなくて、違う者同士の内積は必ず0になる。そんな関数たちの集合の事を「直交関数系」と呼ぶわけです。

 

似たような話に「直交単位ベクトル系」という話があります。

 

xyz軸の方向に長さ1のベクトルをそれぞれ取ると、

のように、同じベクトルの内積は1になり、違うベクトル同士の内積は0になりました。この話の関数バージョンです。

 

0-2. 直交関数系の具体例

直交関数系の一番分かりやすい具体例は以下でしょう。

具体的に計算してみると、確かに同じ物同士の内積だけ0ではなく、違うもの同士の内積は必ず0になっています。

 

このように三角関数は最も身近な直交関数系であり、この性質は「フーリエ級数展開」などに応用されています。(バーゼル問題の証明その3 ~フーリエ級数展開を使った証明~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)この記事の中で簡単に触れています。)

 

0-3. 直交多項式

 

直交関数系の内、全ての要素が多項式となっているものを「直交多項式系」と呼びます。この直交多項式にはいくつか種類がありますが、量子力学の方程式である「シュレディンガー方程式」を解いた解として、頻繁に登場することになります。

 

そのような重要な直交多項式のいくつかを下にまとめています。

<主な直交多項式

今後このリストにある残りの多項式についても紹介していきますが、まずは、大学入試の背景としてもよく登場し、上記の三角関数と関連の深い「チェビシェフ多項式」について、この記事では紹介します。

 

1. 第1種チェビシェフ多項式

 

1-1. 定義

 

第1種チェビシェフ多項式は、以下のように定義されます。

要するに、cosのn倍角の公式を作り出す多項式です。チェビシェフ多項式には第1種、第2種の2種類がありますが、通常こちらの第1種を単に「チェビシェフ多項式」と呼称することが多いです。

 

この多項式は高校生でも理解しやすい概念なためか、大学入試の問題の背景としてもよく利用されます。ついこの間の2023年度入試では、京大の理系第6問が、このチェビシェフ多項式を背景にした問題でした。

(問題の解説はこちら。2023年度 京大理系数学 解いてみました。 - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

1-2. 直交性

 

そして、このチェビシェフ多項式は「直交多項式系」の一つとなっています。積分範囲は-1≦x≦1で、重み関数はw(x)=1/√(1-x^2)となります。

 

証明は、x=cosθと変数変換することで、前節の三角関数の場合に帰着できることで可能になります。

 

1-3. 漸化式

 

直交多項式系ではしばしば、

1. n次の多項式を逐次的に生み出していく『漸化式』

2. その多項式が満たす『微分方程式

3. その多項式系を生み出す母なる関数『母関数』

という3つの概念が重要になります。「漸化式」は言うまでもなく直交多項式の具体的な式を作るのに便利ですし、「微分方程式」は物理の方程式を変形したときに現れるものであり、「母関数」についてはこれら漸化式や微分方程式を導出するのに役立ったりします。

 

まずは、チェビシェフ多項式の漸化式を導出してみましょう。この部分は大学入試でもしばしば出題される内容です。

 

こうして出来上がった漸化式を利用することで、n次のチェビシェフ多項式が具体的に下のようになっていくことが分かります。

 

1-4. 微分方程式

 

微分方程式については、cosnθをxで微分する(x=cosθで変数変換する)ことで導出できます。

 

1-5.母関数

 

チェビシェフ多項式に関しては「母関数」が使われる場面は多くないですが、一応導出しておきます。母関数とはこういうものだ、という参考にはなるはずです。

 

導出には以下のようにオイラーの公式を利用します。

 

この式の言わんとすることは、右辺の「母関数」をtについての多項式(べき級数といいます)に書き直したときのtのn次の係数がチェビシェフ多項式Tn(x)になる、ということです。

 

1-6. 諸性質

 

チェビシェフ多項式に関し、重要な性質をいくつか紹介します。

 

(1) Tn(x)は、最高次係数が2^(n-1)の整数係数n次多項式である。

 

これについては、漸化式を利用すれば数学的帰納法で容易に証明可能です。前述の京大の問題は、実はこの性質を利用することで解くことができる問題でした。

 

(2)nによらず、Tn(1)=1である。→つまり各係数の総和は1

 

定義式でθ=0とすれば、これも容易に示せます。

 

(3)Tn(x)の定数項Tn(0)は、nが奇数の時0, nが偶数の時(-1)^(n/2) (つまり1か-1)

 

これも定義式でθ=π/2とすることで証明可能です。

 

(4)方程式Tn(x)=0はn個の相異なる実数解をもつ。

 

この性質は以下のように証明でき、結果はcosの形で全てかけます。逆にこの性質を使って特定の角度のcosの値を調べることもできます、

 

(5) Tn(x)は、nが奇数の時奇関数、nが偶数の時偶関数になる。

 

この性質は以下のように示せます。先ほどの定数項に関する性質(3)も相まって、Tn(x)はnが奇数なら奇数次だけの項で、nが偶数なら偶数次だけの項で出来上がってることも分かります。

以上の性質を使うと、こんな2つの事実も示せることになります。

 

 

2. 第2種チェビシェフ多項式

 

第1種がcosのn倍角を作る多項式なら、第2種チェビシェフ多項式は「sinのn倍角を作る多項式」になります。

こちらについては、第1種チェビシェフ多項式微分することでも作ることができる、という性質が、大学入試の背景として時々登場します。

第2種の方も直交多項式系の1つであり、同様に漸化式、微分方程式、母関数を作ることができます。証明過程はほとんど一緒なので、結果だけ載せておきます。練習問題として、自力で導出してみてください。

 

<漸化式>

微分方程式

<母関数>

特に漸化式については第1種のそれと全く同じ形をしているのが特徴ですね。

 

以上で、チェビシェフ多項式の紹介を終えます。

 

次回以降は、さらに応用上重要な直交多項式である、「エルミート多項式」「ルジャンドル多項式」「ラゲール多項式」について順に紹介していきますが、今回の比でないほどにハードな内容となります。

 

基本的な考え方はこの記事で説明しているので、分からなくなったら一度この記事に帰ってくることをお勧めします。