ちょぴん先生の数学部屋

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シグマ公式を生み出す数列 ~ベルヌーイ数~

皆さん、こんにちは。

 

高校数学で「シグマ公式」というものを習ったかと思いますが、2乗、3乗と次数が上がるにつれて式が複雑になり、しかも導出が大変になりましたよね。

 

今回は、そんなシグマ公式を一般に綺麗に表現するのに便利な特別な数列「ベルヌーイ数」について紹介します。

 

なお、途中の式変形で何回か「テイラー展開」という操作を行います。テイラー展開についてはここで簡単に説明していますので、先にそこを見て頂けるとよいと思います。

バーゼル問題の証明その1 ~オイラーの証明~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

1. ベルヌーイ数の定義

 

1-1. 母関数からの漸化式の導出

 

ベルヌーイ数の定義を紹介すると、下のようになります。

いわゆる、以前「直交多項式」の記事でも登場した、母関数による定義です。

(参考記事内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その1 ~チェビシェフ多項式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

この母関数を利用して、まずはベルヌーイ数の漸化式を求めてみましょう。

 

定義式①の左辺の逆数

を考えて、この関数をテイラー展開すると②’のようになります。

この②’と元の定義式①を両辺かければ1になるはずなので、

zの恒等式として成り立っているはずです。

 

③の左辺を展開すれば無限次の多項式になるので、右辺と係数比較すれば何かしらBnの情報が取り出せそうです。

 

③を一気に展開するのは難しいので、まずはm次の係数がどうなるかを考えてみます。

 

左の括弧からk次の項を、右の括弧からm-k次の項を引っ張ってきてかけてあげればm次の項にできるので、これらをkを動かして全部足すことでトータルのm次の係数が求まります。

このようにm=0の時が例外扱いなので、mが0か1以上かで場合分けすればいいでしょう。

m=0の場合からは、容易にB0=1が求まります。

m≧1の場合からは、二項係数を持ち込むことで漸化式がでてきます。

以上で、ベルヌーイ数の漸化式が導出できました。この式の形から、ベルヌーイ数は全て有理数であることが分かります。

 

1-2. 3以上の奇数番目のベルヌーイ数は0

 

漸化式⑤⑥を使って、試しに最初の方のベルヌーイ数を7つほど計算してみると下のようになります。

こうしてみると、n=1の場合だけ例外ですが、nが3以上の奇数ならベルヌーイ数Bnは0になりそうだと予想できます。実際、この予想は正しくて、次のように証明できます。

 

 

突然ですが、次のような関数g(z)を考えます。

第1項はベルヌーイ数の母関数そのもので、それにz/2という意味深な1次式が足されています。実はこのg(z)が偶関数だと言えてしまえば、示したいことが証明できたことになります。

 

g(-z)を計算してみると、

のようにg(z)と等しくなるので、g(z)が偶関数だとわかります。

g(z)の第1項をベルヌーイ数を使った無限級数の形に直すことで、

 

となります。ここで大事なのは、事前にz/2を足していたおかげで元の母関数の1次の項と相殺されて最終的に1次の項が消えることです。こうなるように、初めからg(z)の2項目の係数をB1=-1/2のマイナス倍にしていたというわけです。

 

こうすると何が嬉しいか?先にg(z)が偶関数だと示していました。偶関数ということは、展開した式には偶数次の項しか残らないということです。

ということは、⑦'の右辺の奇数次の係数は全て0になってないといけない、ということで題意が示せたことになります。

 

2. ベルヌーイ数とシグマ公式との関係

 

次に、ベルヌーイ数とシグマ公式との関連についてみていきます。

 

まず、p-1次のシグマ公式をp次の多項式Sp(n)とし、さらにベルヌーイ数を使って作られるn次多項式Bn(x) (=ベルヌーイ多項式といいます)を定義します。

次数が小さいところでいくつか実験してみると、

という感じで、シグマ公式を定数倍したものにある定数を足すとベルヌーイ多項式になるという規則性が見えてきます。さらに、よく見るとこの定数項がベルヌーイ数そのものになってることに気付きます。

 

まとめると、以下の関係式が予想できます。

ということで、この関係式⑪を証明していきます。

 

 

2-1. 補題⑫の証明

 

この手の証明では数学的帰納法を使うのが定番なのですが、残念ながら今回の場合はうまくいきません。ということで、今回は別のアプローチをとります。

 

⑪を証明するには次の補題が必要なので、これを先に証明します。

⑫の左辺にベルヌーイ多項式の定義をそのまま代入すると次のようになります。

2行目では都合によりkの上限を無限大までに増やしていますが、これは、二項係数nCkがk>nなら0だと定義してしまえば問題ない操作になります。

 

 

こうしてシグマの中身を計算すると、下のように「kに関する数列」と「n-kに関する数列」の積の和の形にできます。

このような形は畳み込み和と呼ばれ、次のように2つの無限級数の積に分解できることが知られています。

 

この式は、次のように母関数の積を展開することで示すことができます。

(※厳密には、途中で足し算の順番の入れ替えを行っているので、Σan, Σbnの両方が「絶対収束」するという条件が必要です。詳しくはこちら「無限」には常識が通じない その1 ~足し算の順番を変えると答えが変わる?~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)。ですが、今回扱う級数はちゃんと絶対収束する級数なので、特に心配はいりません。)

 

この畳み込み和の知識を使うことで、⑫の左辺は、「ベルヌーイ数の母関数」×「e^(xt)のテイラー展開の式」になるので、補題が示せたことになります。

 

2-2. ⑪の証明

 

これで準備が整ったので、お目当ての⑪の証明に移っていきましょう。

 

⑫でxをx+1に置き換えてあげると、次のようにtの多項式として式変形できます。

この⑬がtの恒等式なので、例のごとく係数比較を行っていけばよさそうです。

n次の係数を比較すると、

となり、xのn-1乗がベルヌーイ多項式を使って表現できることが分かります。この⑭でnをpに置き換え、さらにxに0,1,・・・,n-1を順に代入して両辺を全て足せば、

見事⑪が証明できました!!

 

この⑪をより簡潔にすると、次のようになります。

 

このように、p乗シグマの公式はベルヌーイ数を係数とした(n+1)のp+1次多項式になることが分かります。

 

実際にpに具体的な値を代入すれば、ちゃんとお馴染みのシグマ公式が出て来ます。

 

以上のように、ベルヌーイ数はシグマ公式と非常に関連が深い数だと理解できたと思いますが、実はベルヌーイ数は有名なバーゼル問題」とも深い関連のある数なんです。

バーゼル問題 カテゴリーの記事一覧 - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

 

そのあたりの話は次回の記事に回しましょう。

 

ではでは。