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二年生の夢 ~嘘のようなホントに正しい等式~

皆さん、こんにちは。

 

前回、「一年生の夢」という、それっぽいけど間違ってる等式を紹介しました。

一年生の夢 ~数学初学者がやりがちなミス、でも少しぐらい夢を見させてくれてもいいじゃないか~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

 

今回は、それに引き続き「二年生の夢」という等式を紹介します。

 

1. 二年生の夢とは?

 

二年生の夢とは、次のような等式です。

左辺の積分を、被積分関数をそっくりそのまま無限級数に置き換えたものが右辺になっています。「一年生の夢」からのレベルの飛躍が著しいですね笑

 

結論から言うと、この等式は「正しい」のです。(タイトルバレしてますが笑)

 

この被積分関数f(x)=1/x^xについて考察すると、対数を取ることで微分することができます。

結果、x=1/eで最大値e^(1/e)を取り、以降単調減少し0に収束することが分かります。

ちなみに、x=0での値も、対数を取ってからx→0の極限を考えることで1だとわかります。

 

二年生の夢は、左辺がf(x)の0≦x≦1での積分、右辺がf(1)+f(2)+・・・という無限級数になっているので、図にすると下のようになります。

青の部分の面積=赤の部分の面積、というのが二年生の夢の主張になるのですが、なんとも不思議ですね。

 

とりあえず、この等式が正しいことを証明していきましょう。

 

2. 二年生の夢の証明

 

右辺(無限級数)を直接式変形するのは難しいので、式変形しやすい左辺(積分)から変形していって右辺(無限級数)になることを導いていきます。

 

まず、x^xの形のままではどうにもならないので、指数関数の形に直します。

ここでは、x=e^(logx)という関係式を使っています。この関係式は、両辺対数を取れば正しいことはすぐに分かります。

 

この状態でも積分計算がしにくいので、指数関数をテイラー展開を使って無限級数多項式の形に変形します。

(※指数関数のテイラー展開についてはこちらの記事を参照のこと数学界のKingとQueenは、愛で結ばれた・・~世界で一番美しい数式、オイラーの等式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

さて、ここから計算を進めていくには、積分とΣの順番を入れ替えたいですね。Σが有限個の和なら何の問題もなく入れ替えられるのですが、今回のようにΣが無限級数の場合は安易に入れ替えてはいけません。

(詳しくはこちらの記事をご覧ください。「無限」には常識が通じない その2 ~積分と極限・無限級数の順番を変えると答えが変わる?~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

しかし、上の記事で書いたように、無限級数が「一様収束」する級数の場合は、積分とΣを入れ替えても答えが変わりません。そして、ここに登場した無限級数は「一様収束」する(※後で補足します)ので、入れ替えてOKなパターンになります。

 

ということで、積分とΣを入れ替えると次のようになります。

被積分関数にlogxが残ってるとうまくいかないので、t=logxと置換してしまい、積分と無関係な係数を外に出してしまいます。

今度は指数の肩が若干ごつくて扱いにくい上に、積分区間の下端が-∞で上端が0という気持ち悪い状態なので、s=-(n+1)tと置換します。その上で積分と無関係な係数を外に出してしまうと次のようになります。

さて、ここまでくると、残った積分は有名な積分の形になっています。この積分は「ガンマ関数」の形になっていて、計算するとn!になります。

(ガンマ関数についてはこちらを参照のこと(1/2)!=???  ~階乗の一般化:ガンマ関数・ベータ関数~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

これで積分が解消できたので、最後まで一気に計算を進めることができ、

ちゃんと、右辺の形になりました!これで証明完了です。

 

 

左辺の積分を、台形法というアルゴリズムを用いてpython数値計算すると、

1.29128609711833

という値が求まります(コードは下の図の通りです)

(※台形法:積分を細い台形の面積の束の和で近似して計算する数値解法です。)

 

右辺の級数が、どんな感じでこの左辺の近似値に近づくかをグラフにすると下のようになります。

今回の級数はとても収束が速く、n=4あたりでほとんど左辺の値に等しくなることが分かりますね。これで、視覚的にも「二年生の夢」が正しいことが確からしいとわかりました。

 

3. 補足 ~2の無限級数が一様収束することの証明~

 

上記の証明の途中で登場した無限級数

が「一様収束」することを、ここで確かめておきましょう。

 

「無限」には常識が通じない その2 ~積分と極限・無限級数の順番を変えると答えが変わる?~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

 

この記事で紹介したように、無限級数の一様収束性は「ワイエルシュトラスのM判定法」という方法で判定できます。

 

再掲すると、下のような感じです。

 

今回の級数に対しても、この方法を使いたいと思います。

 

 

まずは、このシグマの中身(の絶対値)を上から抑えられる数列Mnを見つけてくる必要がありますが、それは、

最大値を考えることで実現可能です。実際に微分で最大値を調べると

のように1/eだとわかります。よって、下の右辺をMnとしてしまえばよいでしょう。

あとは、このMnの無限級数が収束すればOKですが、今回の場合、級数が「指数関数のテイラー展開そのものの形」をしているので、容易に極限値が分かります。

Mnの無限級数がちゃんと収束したので、ワイエルシュトラスのM判定法から、

一様収束する無限級数だと言えました。