皆さん、こんにちは。
今回はいよいよ「留数定理」について紹介します。私個人が大学で習った数学の定理の中で一番感動した定理で思い入れもあるので、詳しく説明したいと思います。
なお、前回の「ローラン展開」の話は既知の前提として話を進めますので、未読の方はまずこちらをお読みになってからこの先を読んで頂けると幸いです。
関数を多項式の形で書こう! ~テイラー展開・ローラン展開~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
1. 留数定理
z=αが孤立特異点で、積分経路Cの内部Dではz=αを除いて正則になっている複素関数f(z)を考えます。
このとき、f(z)はz=αの周りでローラン展開できるんでした。ローラン展開した式を次のように書いてしまいます。
さて、こんなf(z)を、積分経路Cで周回積分してみましょう。
すると、まずz=α以外でf(z)が正則なので、積分経路Cを、αを中心にして囲んだ円周経路Crに縮めてよかったので、
とできます。ここで∫とΣを入れ替えると、
となります(※例によって∫とΣを入れ替えてよいと仮定して進めます)。
ここで右辺の積分計算、実は既にやっています。前々回の(4)の計算例ですね。
コーシーの積分定理 ~微分可能な複素関数を積分すると?~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
結果だけ書くと、n≠-1のときは0、n=-1のときは2πiになります。
右辺ではnを-∞から+∞まで動かし足し合わせていますが、ほとんどのnについてΣの中身は0になり、n=-1の場合だけ生き残ることになります。
よって、積分の計算結果は、
という超絶シンプルな形で求まります。
これは、「f(z)をローラン展開したときの「-1次の係数」さえ分かってしまえば、それに2πiをかけたものが積分値になる」ことを意味します。
めちゃくちゃ凄くないですか!?
積分するのに必要な情報は、ローラン展開の「-1次の係数」、たったこれだけという事実!!
この「-1次の係数」のことを「留数」と呼び、次のように表記します。
Resというのは留数の英語Residue(残り物)の先頭3文字をとったもので、この表記で「f(z)のz=α周りでローラン展開した際の留数」を表します。
ここまでは孤立特異点が1つだけの場合について考えましたが、孤立特異点が2つ以上あっても話は全く一緒です。
コーシーの積分定理から、孤立特異点を含む領域の外周をなぞる積分は、各孤立特異点を囲む円周をなぞる積分の和で表現できるので、それぞれの特異点について留数を計算して足し合わせたものに2πiをかければ最終的な積分結果になります。
このようにして積分値を求める方法こそが「留数定理」です。
積分値を計算したければ、領域内にある孤立特異点の留数を計算して拾い集めればいい。
もはや積分の常識を覆す、魔法のような計算方法です。
2. 留数の計算方法
さて、領域内の孤立特異点の留数さえ求まってしまえば、留数定理によって積分値が簡単に計算できることが分かったわけですが、肝心要の「留数」は簡単に計算できるのでしょうか?
もちろん、原理的にはf(z)を孤立特異点の周りにローラン展開できれば、その-1次の係数が留数なので容易に計算できる気がします。
でも、一般的にはローラン展開はそう簡単にできるものではありません。そもそもf(z)自体が複雑な形で1回微分するのにすら時間がかかってしまう、なんてのもザラです。
なので、実用上もっと簡単に留数を計算できる方法が欲しくなります。ということで、ここでは留数の計算方法について考えていきます。
f(z)の孤立特異点z=αがm位の極だとします。このときf(z)が下のようにローラン展開できたとします。
m位の極なので、ローラン展開したときに登場する負の冪は-m次までです。
ここで、我々が知りたいのはc_-1の値だけであり、他の係数が何になるかには興味がありません。なので、このローラン展開の式からうまくc_-1の値だけ抽出したいわけです。
この状態でz=αを代入するとc1以降は消えてくれるものの、負の冪のせいで発散してしまいうまくいきません。なので、(z-α)^mを両辺にかけることによって発散する成分を解消してしまいます。
すると、c_-1が係数になる項はm-1次になり、その前にあるm-2次以下の項は両辺をm-1回微分すれば0になって消えてくれそうです。なので、m-1回微分してあげれば、
c_-1以降だけが生き残ります。
ここで、c_-1が入っている項は定数項で以降は全てz-αが因数として入っている項なので、あとはz→αの極限を取ってしまえばc0以降が全滅できるでしょう。
よって、
のように、c_-1だけを抽出することができました。
特に、登場頻度が高いm=1(つまりαが1位の極)のときは、より簡単に
と書けます。
これが留数を計算する実用的な式になります。
3. 留数定理を使った複素積分の例
最後に、留数定理を使った複素積分の例を1つ紹介します。
考える積分は以下で、
積分経路Cは、原点中心の半径r(>1)の円周だとします。
とすると、f(z)の孤立特異点はz=1 (2位の極)とz=i (1位の極)の2つあり、両方ともCの中に入っています。
よって、留数定理からIの値は、
で計算できます。
それぞれの留数を計算すると、
z=1 (2位の極)については、
z=i (1位の極)については、
と計算できるので、以上から、
で計算完了です。
これだけでも十分凄い留数定理ですが、その真価は「実積分への応用」において発揮されます。
ということで、次回が「複素関数論」最終回、留数定理で計算できる「実積分」を一挙紹介したいと思います。