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フェルマーの最終定理のn=3の場合の証明(補足) ~定理☆の証明~

皆さん、こんにちは。

 

前回、フェルマーの最終定理のn=3の場合の証明を行いました。

stchopin.hatenablog.com

この証明において、「とりあえず認めてね」としていた定理がありました。

f:id:stchopin:20210911155119p:plain

 

今回の記事では、この定理を証明します。証明には、なんと「虚数」が登場します。

 

1. 十分性の証明

 

まずは十分性、「a,bがあの式で書かれているならば、a^2 + 3b^2は立方数となる」を証明します。こちらは非常に簡単で、以下のような証明となります。

f:id:stchopin:20210911155206p:plain

 

しかし、これの逆である、必要性「a^2 + 3b^2が立方数ならば、aとbはあの式の形でなければならない」の証明は非常に難しいです。

 

次のセクションで、その証明に挑んでいきます。

 

2. 必要性の証明

 

必要性を証明するには、幾重ものステップを踏まないといけません。

その証明の過程で、下記の7つの定理が必要になります。

 

f:id:stchopin:20210912153220p:plain

 

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f:id:stchopin:20210912153333p:plain

 

f:id:stchopin:20210912153352p:plain

 

f:id:stchopin:20210912153410p:plain

 

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整数の話をしていたはずなのに、定理E,F,Gではなんと「虚数」が登場していますね。

 

これらを使って最終的に定理☆の必要性を証明することになります。

 

では、順番に見ていきましょう。

 

2-1. 定理Aの証明

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こちらは、比較的容易に証明できます。

 

a^2 + 3b^2が偶数だとすると、aとbの偶奇が一致していないといけませんが、互いに素なので、両方偶数はNG、となりaとbは両方奇数と言うことになります。

 

このとき、以下の流れでa^2 + 3b^2が4の倍数だと示せます。

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このとき、a+bとa-bのどちらか一方は必ず4の倍数になります。

↓証明

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さて、次がトリッキーなのですが、4×(a^2 + 3b^2)をうまい事変形すると、

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となって、a+bが4の倍数の場合は、

f:id:stchopin:20210912154859p:plain

とうまい事変形できます。ここで、②の左辺は先ほど証明したように整数になりますし、右辺のカッコの中のそれぞれの分数も、両方整数になっていることが分かります。

つまり、

f:id:stchopin:20210912155034p:plainということ。

 

同じようにa-bが4の倍数の時についても、

f:id:stchopin:20210912155117p:plain

ってなるので、

f:id:stchopin:20210912155145p:plainです。

 

これで、証明完了です。

<証明全景>

f:id:stchopin:20210912155235p:plain

この定理Aの結論は、

「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形の偶数は、4で割っても、相変わらず

「(整数)^2 + 3×(整数)^2 」の形になるという事です。

 

2-2. 定理Bの証明

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定理Aの4を、p=q^2 + 3r^2 と一般的な数に変更したものになります。

(この定理Bでq=1, r=1とすると、定理Aになります)

 

最初に考える数式がトリッキーで、(qb+ar) (qb-ar)という式を考えてあげます。これをpで割った余りを考えると、

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と、pで割り切れることが分かります。ということは、qb+arとqb-arの少なくとも一方はpの倍数でないといけないことになります。

 

ここで、定理Aと似たような計算を行います。qb+arとqb-arのどっちがpの倍数になるかで場合分けを行うと、以下のようになります。

f:id:stchopin:20210912160224p:plain

f:id:stchopin:20210912160242p:plain

 

ここで、有理数の2乗が整数なら、その有理数は整数である」という性質を使っています。

 

いずれにせよ、定理Aと同じように、これで定理Bも証明完了です。

<証明全景>

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この定理Bの結論は、

「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形の整数は、p=q^2 +3r^2で割っても、相変わらず

「(整数)^2 + 3×(整数)^2 」の形になるという事です。

 

2-3. 定理Cの証明

f:id:stchopin:20210912153312p:plain

 

これは定理Dを証明するための道具立てになります。先ほどから、

(整数)^2 + 3×(整数)^2という形の整数がキーワードになってましたが、もしそうでない奇数xで割り切れるんだとすれば・・・という定理です。

 

証明には背理法を使います。x以外の奇数の約数が全部(整数)^2 + 3×(整数)^2の形だと仮定して矛盾を導きます。

 

最初に、

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とおきます。xは奇数だとおいているので、a^2+3b^2の偶数成分は全部yに押し付けられます。

定理Aからyは4の倍数で、4で割っても相変わらず(整数)^2 + 3×(整数)^2の形が維持されるので、yの偶数成分は全て4,4,4・・・という形で含まれているはずです(つまり素因数分解したとき、yに2は偶数個含まれます)。

 

yを奇数になるまで4で割り続ければ、残りかすは、全て奇素数の積になります。

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ここで、4を含めた素数p1~pnが全て(整数)^2 + 3×(整数)^2の形だと仮定すると、

定理Bから、

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となる整数u1, v1が存在します。

同様に、定理Bを使うと

f:id:stchopin:20210912162257p:plain

となる整数u2, v2が存在します。

 

同じ作業をp1~pnが消化されるまで繰り返すと、

f:id:stchopin:20210912162349p:plain

が得られ、①と合わせると、

f:id:stchopin:20210912162450p:plain

とxが求まりました。

 

ところが、最初の段階で「xは(整数)^2 + 3×(整数)^2の形でかけない」と設定していました。これと⑧は明らかに矛盾しています。

 

これで、定理Cが背理法で証明できたことになります。

<証明全景>

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この定理Cの結論は、

「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形の整数Nが、もしこの形で書けない奇数xで割り切れるなら、Nはx以外にも、この形で書けない奇数wで割り切れるはずだ。

です。

 

2-4. 定理Dの証明

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この定理Dが、大きな山場となります。

定理Cで設定したようなxは実は存在しない、ということを証明することになります。

 

全体の証明の流れは、

(整数)^2 + 3×(整数)^2の形で書けない正の約数xの存在を仮定する

いくらでも小さい、(整数)^2 + 3×(整数)^2の形で書けない正の奇数が作れてしまう

正の奇数には1という最小値があるから矛盾」

というものです。この証明方法を、「無限降下法」といいます。

 

本題に戻ります。

仮定のxで、aとbで割った式を考えます。

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c,dが「余り」となるわけですが、カッコの中のような縛りを設けることで、できるだけc,dの絶対値を小さい値にしています。

 

例えば、「整数を3で割った余りが2」という状況を考えたとき、それは「整数を3で割った余りが-1」と解釈してもいいんでした。このように「余り」としてマイナスの数もOKにすると、絶対値を2から1に小さくできました。これと同じことをしています。

 

このとき、c^2 + 3d^2 を計算すると、

f:id:stchopin:20210912164242p:plain

となって、xで割り切れることが分かるので、

f:id:stchopin:20210912164328p:plain

と書くことができます。ここで、xとyの大小関係は、

f:id:stchopin:20210912164421p:plain

となります(※左辺のpは誤植です。正しくはx)。ここでさっきのc,dの縛りが効いてくるわけです。

 

次に、cとdの最大公約数eを考えます。

もし、eがxの約数だとすると、①式からaとbの両方がeの倍数になってしまい、互いに素だという前提と反してしまいます。

よって、③式から、eはxではなく、yの約数でないといけないことが分かります。

 

cとdの両方がeの倍数なので、yはe^2の倍数になります。よって、

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となる整数f,g,zが存在し、③に代入すると、

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となります。ここでfとgは互いに素であることに注意します。

 

すると、ここで定理Cを使うと、

zは、「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形で書けない奇数wを約数に持つはずです。

 

ここまでで登場した、x,y,z,wの大小関係を調べると、

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となっていることが分かります。

(⑤からzはyの約数なのでz≦y, wはzの約数なのでw≦z、が言えます)

 

zはyの約数でwはzの約数なので、結局wはyの約数、ひいてはa^2 + 3b^2の約数となります。

 

つまり、a^2 + 3b^2 が、「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形で書けない正の奇数xで割り切れるならば、それよりも小さい「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形で書けない正の奇数wで割り切れる、ということになります。

 

この議論を延々繰り返すと、いくらでも小さい「(整数)^2 + 3×(整数)^2」 の形で書けない正の奇数が作れてしまうことになります。

 

しかし、実際には正の奇数には「1」という下限があって、それ以上小さくできません。なので、この結論は矛盾だということになります。

 

よって、a^2 +3b^2 を割り切る奇数は、全て(整数)^2 + 3×(整数)^2の形で書けていないといけない、と言うことになります。

 

以上で定理Dの証明が終了です。

<証明全景>

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2-5 定理Dの意味するところ

 

さて、ここまで定理A~Dを見ていきましたが、結局何がしたかったのかをまとめておきましょう。定理Dの最終的な結論は、

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ということです。a^2 + 3b^2 を素因数分解したとき、

・奇素数は必ず、(整数)^2 + 3×(整数)^2の形にかける。

・偶数2は、必ず4ずつの塊になる。そして、4=1^2 + 3×1^2なので、

 4も結局、(整数)^2 + 3×(整数)^2の形にかける整数の一種である。

という性質が成り立つということを、ここまで延々と証明してきたわけです。

 

この性質を使うと、

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が言えることになります。これで定理☆に大分近づいたことが分かると思います。

 

これであとは係数比較してゴールだ!!と言いたいところですが、残念ながら、これだけだとaとbの式を特定するまでには至りません。整数だけが並んでいるので、うまいこと分離ができないのです。

 

うまく分離してあげるにはどうすればいいか?そのために、虚数」にご登場願うわけです。

 

ということで、後半戦の定理E~Gを見ていきます。

 

2-6. 定理Eの証明

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コンセプトは、a^2 + 3b^2 を複素数の範囲で因数分解すると出てくる、a+b√3iの性質を調べ倒すというものです。

(※  (a+b√3i) (a-b√3i) = a^2 + 3b^2 となります)

 

さて、この定理Eは、定理Aを複素数の言葉に焼き直したものになります。

 

問題文に書かれている複素数の割り算を実行してあげれば、定理Aの証明で使った議論をそのまま流用して証明できます。

 

<証明全景>

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2-7. 定理Fの証明

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こちらは、定理Bを複素数の言葉に焼き直したものです。

 

問題文に書かれている複素数の割り算を実行してあげれば、定理Bの証明で使った議論をそのまま流用して証明できます。

 

<証明全景>

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2-8. 定理Gの証明

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a+b√3iの因数分解を与える定理です。定理E,Fからほぼ自明です。

 

<証明全景>

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この定理Gの証明を以て、ようやく準備完了です。

 

2-9. 定理☆の必要性の証明

 

いよいよ、証明したかった、定理☆の必要性の証明に入りましょう。

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定理Gから、a+b√3iは、

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因数分解できます。

 

ここで、文字の定義は以下のようになります。

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ここで、a-b√3iの因数分解は、①全体で複素共役を取ったものになり、各因数の複素共役の掛け算になるだけで、その因数の個数とかの全体構成は全く同じになります。この性質があるので、以下のように議論が進みます。

 

ここで、もしa^2 + 3b^2が立方数なら、①の指数の肩は全部3の倍数になっているはずで、定理E,Fから、下のように一気にまとまります。

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先ほど、定理Dまでの道具立て(=整数だけを使った議論)だと「整数ばかりが並ぶからうまく分離できない」と話しました。

 

しかし、この②を見てください。無理数√3と、虚数iが混じっています。

 

これによって、定理Dまでで出来なかった、「分離」ができるようになるのです。

具体的には、「実部」「虚部」の分離によって、綺麗にaとbを分けて議論できるようになったのです!!

 

実際に、②で実部と虚部を比較すれば、

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となって、ついに、aとbの式が決まりました!!

 

これでようやく、定理☆の必要性、すなわち

a^2 + 3b^2が立方数ならば、aとbはあの式の形でなければならない」

の証明が終わりました。

 

<証明全景>

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3. まとめ

 

このように、フェルマーの最終定理のn=3の場合の証明には、背後に「虚数」の知識が必要なんだと分かったはずです。

 

フェルマーが生きていた時代には、まだ虚数というものが存在していない、ないし広く認められていませんでした。それを考えると、ますます「私は驚くべき証明を発見したが、それを記すには余白が足りない」っていう発言は嘘くさく思えてきます笑

 

 

 

間違いなく本ブログ史上、最長の解説記事になったと思います。

 

お疲れ様でした・・・・