皆さん、こんにちは、
以前、フェルマーの最終定理という、数学史上最強クラスの難問を紹介しました。
そして、フェルマー自身が残していたn=4の場合についての証明を紹介しました。
今回の記事では、かの大天才オイラーが成し遂げた、n=3の場合の証明を紹介したいと思います。こちらもn=4と同様、一応高校数学の範囲で理解可能な証明となっていますが、n=4の場合よりも難易度が上がっています。
1. 前提となる定理 ~定理☆~
フェルマーの最終定理のn=3の場合の証明には、とある前提となる定理を使わないといけません。それは以下の定理です。
立方数とは、整数の3乗の形で書ける整数の事です。以前紹介した、「原始ピタゴラス数」とよく似ている性質ですね。
※ピタゴラス数の解説は以下の記事でやっています。
実際、aとbがこの式の形なら、a^2 +3b^2が立方数になること(十分性)は簡単に証明できます。
必要性は「a^2 +3b^2が立方数ならば、必ずaとbは上記の式の形で書けていなければならない」というものなのですが、これの証明はかなりハードなので別記事で個別に紹介したいと思います。
とりあえずは、必要性含めてこの定理が正しいことを一旦認めて下さい。以後、この定理を「定理☆」と呼ぶことにします。
2. n=3の場合の証明
証明の流れは、途中で使う小道具含めてn=4の場合とよく似ています。
つまり、「x^3 + y^3 = z^3 となるx,y,zが存在する」と仮定して矛盾を導くという、背理法を使います。
適宜、n=4の証明と対照させながら読んでいくと、より理解が深まると思います。
それでは、証明に入っていきましょう。
(Step0)仮定を置く
今回は、x,y,zを対称な形で取り扱えるように、
を証明することにします。z^3だけ右辺に移項すれば、x^3 + y^3 = (-z)^3 の形になって、元のフェルマーの最終定理の式の形にすることができますから。
そして、この式(*)を満たす整数(x,y,z)の存在を仮定して、n=4の場合と同じように以下の2つの条件を課します。
1. (x,y,z)は互いに素である。
互いに素な組が1つでもあれば、それらを同じだけ定数倍することで(x,y,z)の組を無限個作ることができます。なので、互いに素なものに限定して問題ありません。
2. (x,y,z)は最も絶対値の小さい整数の組み合わせだとする。
原始ピタゴラス数に例えると、(3,4,5), (5,12,13),・・・といったたくさんの組み合わせのうち、一番数の小さい(3,4,5)に限定する。という縛りです。これから導く矛盾は、この(3,4,5)より小さい組み合わせが作れちゃうよ、という矛盾になります。
n=4の場合は(x,y,z)は自然数の範囲で考えれば十分でしたが、今回は0以外の整数の範囲にまで広げて考えます。なので条件2は「絶対値」が最も小さい組み合わせを考えることになります。これがn=4の場合との相違点になります。
(Step1)x,y,zの偶奇を調べる
x,y,zの偶奇は並べ替えを除けば
・(偶×3)
・(偶×2, 奇×1)
・(偶×1, 奇×2)
・(奇×3)
の4パターンがありますが、元の式(*)をみると合計が0(偶数)となっています。
この時点で、
・(偶×3)
・(偶×1, 奇×2)
の2パターンに絞られ、x,y,zが互いに素という条件から(偶×3)はNGだと分かります。
よって、偶奇の組み合わせは(偶×1, 奇×2)の一択に絞られます。
元の式(*)はx,y,zについて対称な式になっているので、xとyは奇数、zは偶数と決めても一般性を失いません。
この後は、xとyは奇数、zは偶数と考えて議論を進めることにします。
(Step2) a^2 + 3b^2 が登場するように変数変換
ここで、一番最初に紹介した定理☆が利用できるように、式変形していきます。
xとyを奇数だと決めたので、x+yとx-yは偶数になり、
と表されることになります。
(ここで、xとyが互いに素なので、aとbも互いに素になります)
これを元の式(*)に代入すると、
となって、定理☆が使えそうな式の形が登場しました。
ここで、aとbの偶奇について考察します。
①からxとyをaとbで表現すると、x=a+b, y=a-bとなるので、もしa,bの偶奇が一緒だとx,yは偶数になってしまって矛盾してしまいます。このことから、aとbの偶奇は一致しないことが分かります。すると、②式のa^2 + 3b^2は必ず奇数になります。
一方、zは偶数だと決めたのですから、②の左辺(-z)^3は必ず8の倍数になります。
そうなると、②は「2×a×奇数=8の倍数」ということになるので、aは4の倍数(偶数)でないといけません。aとbの偶奇が一致しないのだから、bは奇数、と言うことになります。
さらに、②右辺の各因数、2aとa^2 + 3b^2の正の最大公約数dをユークリッドの互除法で調べると、aとbが互いに素なので
のように、1か3になることが分かります。
この最大公約数dの値によって、場合分けを行います。
(Step3) d=1の場合で定理☆を適用
先にd=1の場合を詳しく説明します(d=3の場合も、ほとんど同じ論法になります)
d=1というのは即ち、2aとa^2 + 3b^2が互いに素だという事です。そして、
②のように、「互いに素な整数の積=立方数」が成立しています。このときに何が言えるか?
n=4の場合の証明、ないし「原始ピタゴラス数」の紹介をした時に、こんな定理がありましたよね。
「積が平方数になるような互いに素にな整数A, Bは、両方とも平方数」
これと全く同じ論理で、
「積が立方数になるような互いに素にな整数A, Bは、両方とも立方数」が成り立ちます。
つまり、2aも立方数だし、a^2 + 3b^2も立方数、と言えるわけです。式にすれば、
となるわけです。(tとsは互いに素な整数)
さあ、ここでようやく定理☆が使える状況が整ったので、使いましょう。
定理☆を再掲すると、
だったのでばっちり適用出来て、aとbは、
の形で書けて
が成立するわけです。
このとき、④のtの式に⑤を代入すると、
と因数分解された整数の積でt^3が表現できることになります。
ここで、これらの因数、2u, u-3v, u+3vが互いに素か否かをチェックしましょう。
aが偶数、bが奇数で互いに素だったことに注意しながら⑤を眺めてみます。
まず、bは奇数なので、約数は全部奇数でないといけないので、vは奇数で確定です。
すると、同じくu^2 - v^2 も奇数なので、uが偶数じゃないとダメですよね。
ここから、u-3vとu+3vは奇数で確定です。
この時点で、2uとu-3v、2uとu+3vは、互いに素だと分かります。
さらに、aとbが互いに素なので、uと3が互いに素じゃないとダメですね。この結果から、u+3vとu-3vも互いに素だと分かります。
つまり、2u, u-3v, u+3vは全て互いに素だと分かったわけです。
すると、もう一回「積が立方数になるような互いに素にな整数A, Bは、両方とも立方数」という性質を使うことができて、結局、
2u, u-3v, u+3vはすべて立方数、式にすると、
が言えるわけです(α,β,γは互いに素な整数)。
さらに、とても都合がいいことに、これら3つの数を合計すると、
が成り立っているので、⑧に⑨を代入すると、
が成立しました。これは、元の式(*)を整数(α,β,γ)が満たすことを意味します。
(Step4) |γ|<|z|を示し、矛盾を導く
ここで、|z|を不等式評価してみましょう。すると、
今まで登場した関係式を総動員することで、|γ| < |z|が示せました。
これで、実は矛盾が示せたことになります。なぜか?
最初の仮定で、x,y,zにこんな条件を課しましたよね。
「 (x,y,z)は最も絶対値の小さい整数の組み合わせだとする。」
ところが、Step3までのプロセスで(x,y,z)より絶対値の小さい(*)を満たす整数の組み合わせ(α,β,γ)が作れてしまいました。
つまり、最初に仮定した「(x,y,z)が絶対値の一番小さな整数の組」という設定と矛盾を起こしてしまっているのです(n=4の場合の証明でも同じような話が登場したはずです)。
とりあえず、これでd=1の場合は矛盾が示せたことになります。
(Step5) d=3の場合も、同様に議論
Step2の最後で分岐した、もう一つの場合分けd=3の時を議論します。
dとはそもそも「2aとa^2+3b^2の最大公約数」だったので、d=3の時は、aは3の倍数となり、
と書けます。あとはd=1の場合と同じ議論で矛盾を示すことができます。証明の文章をそのまま一気に載せてしまいます。
(Step6) 結論
このようにしてd=1の場合、d=3の場合、いずれでも矛盾が起こってしまうので、
「(*)をみたす整数(x,y,z)が存在する」という仮定が誤っていたということになり、
これはつまり、
「(*)をみたす整数(x,y,z)は存在しない」→「n=3の場合、フェルマーの最終定理が成立する」
が証明できたことになります。(Q.E.D)
<証明全景>
こんな感じに、「定理☆」さえ認めてしまえば高校数学の範囲でもなんとか証明することが出来ました。
次回は、「定理☆」について考察していこうと思います。