前回、ピタゴラス数について解説しました。
このピタゴラス数の性質を使うと、フェルマーの最終定理のn=4の場合の証明をすることができます。
では、フェルマー自身が余白に書き残してくれていた、証明の中身を見ていきましょう。
では、改めてフェルマーの最終定理はn=4のとき、次のような問題となります。
実は、このままだと証明するのが難しいです。そこで、大分テクニカルなのですが、少しだけ修正した次の定理を考えてみることにしましょう。
一見すると何も変わってないように見えますが、よく見てみると、右辺のzの指数が、4乗ではなく、2乗に変わっています。この修正をすることで、zの候補の間口が広がっていることが分かりますでしょうか?
4乗で書ける数は2乗で書ける数に含まれているので、2乗で書ける数の中に候補がなければ、4乗で書ける数の中に候補は当然ないわけです。
例えるなら、「今の役員の中に社長候補がいない」ということを説明するのには、別に役員にこだわらずに従業員全員を調べて社長の資質がないことを調べつくしてもいいわけですよ。わかりにくかったらすみません。。
こういう意味で、修正した定理を「強いフェルマーの最終定理」と呼ぶことができます。「強いフェルマーの最終定理」が証明できれば、自動的に元々の「フェルマーの最終定理」が証明できたことになるので、これから、この「強いフェルマーの最終定理」を証明することにします。
<証明の概略>
まずは、証明の大まかなストーリーを書きます。
「存在しない」を直接証明するのは難しいので、「存在する」と仮定して矛盾を導く、いわゆる背理法という論法を使います。
今回の場合は、強いフェルマーの最終定理の式をみたす最小の自然数の組み合わせ(x,y,z)が存在すると仮定すると、より大きさの小さい(x,y,z)の組み合わせが作れてしまうという矛盾を導きます。この意味は、証明を進めていくうちに分かってきます。
全体のあらすじは以上になるので、具体的な証明に移っていきましょう。
(Step0) 「仮定」を置く
強いフェルマーの定理をみたす組(x,y,z)の存在を仮定します。ここで、いくつか見通しのよくなるように(x,y,z)に条件を課します。
1. (x,y,z)は互いに素である。
互いに素な組が1つでもあれば、それらを同じだけ定数倍することで(x,y,z)の組を無限個作ることができます。なので、互いに素なものに限定して問題ありません。
2. (x,y,z)は最も大きさの小さい自然数の組み合わせだとする。
原始ピタゴラス数に例えると、(3,4,5), (5,12,13),・・・といったたくさんの組み合わせのうち、一番数の小さい(3,4,5)に限定する。という縛りです。これから導く矛盾は、この(3,4,5)より小さい組み合わせが作れちゃうよ、という矛盾になります。
(Step1) x,y,zの偶奇を調べる
これは詳しくは前回の記事を見てほしいのですが、平方数を4で割った余りが0か1になるという性質から、
x,yの片方は奇数、もう片方は偶数、そしてzは奇数 と確定することができます。
xとyは対称な関係なので、xは奇数、yは偶数と限定して問題ありません。
(Step2)原始ピタゴラス数の性質を利用する
一方で、x^2, y^2, zは、互いに素なピタゴラス数だと仮定しているので、原始ピタゴラス数となっています。
そして、原始ピタゴラス数は、前回の記事から、
という性質を満たすのでした。
よって、互いに素な整数s,tを使って、Step1でチェックしたx,y,zの偶奇を考慮すると、
x^2 = s^2 - t^2 式①
y^2 = 2st 式②
z = s^2 + t^2 式③
と書くことができます。
式①をよく見ると、これ自体がピタゴラスの定理そのものとなっています。そして、s,tは互いに素としたので、(x,t,s)も「原始ピタゴラス数」です。よって、同じように互いに素な整数u,vを使って
x = u^2 - v^2 式④
t = 2uv 式⑤
s = u^2 + v^2 式⑥
と書けます。
(Step3) s,u,vが全て平方数となることを示す
ここで、式②、式⑤に注目してみましょう。
式②を4で割ると、
(y/2)^2 = s×t/2 式②'
となり、式⑤からtは偶数です。つまり式②’は
「互いに素な整数sとt/2の積が平方数となっている」ことを意味します。
ここで、前回の記事で説明した知識、
「積が平方数になるような互いに素にな整数A, Bは、両方とも平方数」が使えます。
ここから、sは平方数でないといけないので、
s = c^2 式⑦
と書けます。
式⑤に戻ると、t/2も平方数だと分かったので、
uv = t/2 =平方数 式⑤'
とできます。この式も、「互いに素な整数u,vの積が平方数」の形になっているので、
u, v は両方とも平方数です。よって、
u = a^2 式⑧
v = b^2 式⑨
と書けます。式⑦~⑨を式⑥に代入してみると、
a^4 + b^4 = c^2 式⑩
となって、どっかでみたような関係式になります。強いフェルマーの最終定理の式そのものですよね。
ここまでをまとめると、(x,y,z)という組み合わせから作った(a,b,c)という組み合わせも、強いフェルマーの最終定理の式を満たすことになります。
(Step4) c<zを示して矛盾を導く
いよいよ矛盾を示していきます。ここで、cとzの大小を比較してみます。
式③と式⑦を使ってあげると、下のように大小が比較できます。
z = s^2 + t^2 > s^2 = c^4 ≧ c つまり c<z
t^2は正の数だから、t^2を足さない数の方が小さい、元の数の4乗は元の数より大きいという事実を使っています。
これで矛盾が示せたことになります。なぜか?思い出してください。
そもそも、最初に「(x,y,z)は最も大きさの小さい自然数の組み合わせだとする。」と仮定しました。
ところが、(Step3)までの操作で作った組み合わせ(a,b,c)は、(x,y,z)より小さい組み合わせになってしまっています。これは、「(x,y,z)は最も大きさの小さい自然数の組み合わせ」という設定と矛盾してしまっているのです。
(Step5) 結論
よって矛盾が導けたので、「強いフェルマーの定理をみたす組(x,y,z)が存在する」という仮定が誤っている、つまり、
「強いフェルマーの定理をみたす組(x,y,z)は存在しない」ことが証明できました。
そして、最初に述べたように、「強いフェルマーの最終定理」が証明できれば、元々の「フェルマーの最終定理」が自動的に正しいと分かるので、
フェルマーの最終定理のn=4の場合が完全に証明できたことになります!(Q. E. D)
いかがでしたでしょうか?発想こそ難しいですが、一応は高校生の範囲で示すことができました。とはいえ、やはりこの証明を思いつくことは決して簡単ではない(特に最初の「強い定理を考える」の部分)ので、これを自力で思いついたフェルマーが天才であることは疑いようがありません。
この証明自身を「真に驚くべき証明」と捉えても無理からぬ話なので、おそらくフェルマーはn=4以外の数でも同じような証明でうまくいくだろうと考えて、「フェルマーの最終定理」を提唱したと考えられます。
実際はそんな甘い話はなく、完全に証明されるのに330年かかってしまったわけですが。
というわけで、フェルマーの最終定理関連の話はここで一旦終わりにします。
ではでは。