ここ何回か、フェルマーの最終定理絡みの投稿をしておりますが、そもそもn=2の場合は皆さん、馴染み深いはずです。
そう、「三平方の定理」あるいは「ピタゴラスの定理」という奴です。
直角三角形の辺の長さの間に成り立つ式なのでした。
そして、直角三角形の辺の長さが全部整数になるような場合がいくつかありました。
例えば、3^2 + 4^2 = 5^2, 5^2 + 12^2 = 13^2 といった具合に。
このようなピタゴラスの定理を満たす自然数(a,b,c)の組み合わせのことを、「ピタゴラス数」と呼びます。特に、その中でも(a,b,c)が互いに素になっている組み合わせのことを「原始ピタゴラス数」と呼びます。上の2つの例は、いずれも原始ピタゴラス数になっています。
何で「原始ピタゴラス数」を特別扱いするのかというと、原始ピタゴラス数が1組見つかれば、そこから無数のピタゴラス数を作ることができるからです。
例えば、原始ピタゴラス数(3,4,5)に対して、それを全部2倍した数字、(6,8,10)も当然ながらピラゴラス数になっているわけです。こんな風に、原始ピタゴラス数に同じ数をかけた組み合わせは、もれなくピタゴラス数になります。
こう考えると、ピタゴラス数が無限個あることは容易に分かりますが、これだけでは面白くありません。
実は、ピタゴラス数を作るベースになる「原始ピタゴラス数」も無限個あります。
しかも、原始ピタゴラス数を自由に作れる魔法の関係式が存在するのです!!
それがこちらです!
右側の関係式を満たす(a,b,c)がピタゴラスの定理を満たすことは、簡単な計算ですぐに分かります。この式を使えば、互いに素なmとnを1つ適当に決めてしまえば、好きなだけ原始ピタゴラス数を作れるというわけです。
さらに、逆にa,b,cが原始ピタゴラス数であれば、右の形で必ず書けることが知られています。これは、高校の知識レベルで比較的簡単に示すことができます。
では、そのことを証明してみましょう。大学入試で使うような整数問題のテクニックをガンガン使うので、受験生の人にも大いに参考になると思います。
[証明]
(Step1) a,b,cの偶奇を確認する。
パターンとしては、(a,b,c) = (奇, 奇, 偶) , (奇, 偶, 奇), (偶, 奇, 奇), (偶, 偶, 偶) の4つがありますが、最後の、(偶, 偶, 偶)はNGだとすぐに分かります。
なぜなら、(a,b,c)は互いに素だからです。(偶, 偶, 偶)だと、全部2で割り切れてしまうので不適となります。
次に、「平方数」が登場したときに考えてほしい着目点で、
「平方数を4で割った余りは、必ず0か1になる」という性質があります。
証明は簡単であり、
偶数の平方数であれば、(2n)^2 = 4n^2,
奇数の平方数であれば、(2n+1)^2 = 4n^2 +4n +1 = 4 (n^2 +n) + 1となりますからね。
この性質を使ってあげると、(a,b,c)=(奇, 奇, 偶)もNGだと分かります。
なぜなら、このとき
a^2 + b^2 を4で割った余りは1+1 = 2となる一方で、c^2 を4で割った余りは0となり、矛盾してしまうからです。
ここまでの結果から、cは必ず奇数であり、aとbのうち片方は奇数、もう片方は偶数となることが分かります。
aとbは対称な関係なので、aを奇数、bを偶数、と限定して考えても問題ありませんね。
これで、a,b,cの偶奇を確定できました。
(Step2) (c-a)/2と(c+a)/2が互いに素な整数になることを示す。
さて、ピタゴラスの定理の式を変形すると、
c^2 - a^2 =b^2
となり、左辺は和と差の積に因数分解できるので、
(c-a)(c+a) = b^2
となります。
さらに、Step1で示したように、bは偶数であり、c,aが両方奇数だったので、
c+aとc-aは両方偶数になります。
よって、両辺はともに4で割ることができるので、
(c-a)/2 × (c+a)/2 = (b/2)^2
が得られます。
c+aとc-aが両方偶数なので、(c+a)/2と(c-a)/2は両方整数です。
ここで、この2つの整数の最大公約数をdとすると、互いに素な整数M, Nを使って
(c+a)/2=dM
(c-a)/2 =dN
と書くことができ、ここからaとcを計算すると、
a= (M-N)d, c= (M+N)d
と書くことができます。
ここで、もしdが2以上だったら、aとcはdの倍数で、ひいてはbがdの倍数となってしまいます。これはa,b,cが互いに素、という条件に反しますので、d=1でなければなりません。
つまり、(c+a)/2と(c-a)/2の最大公約数は1, すなわち(c+a)/2と(c-a)/2は互いに素だと分かりました。
(Step 3) (c-a)/2と(c+a)/2が両方とも平方数になることを示す。
いよいよラストステップです。
ここで一般的に、
積が平方数になるような、互いに素にな整数A, Bはどんな数でしょうか?
平方数を素因数分解してみると、(p1)^(偶数)×(p2)^(偶数)×・・・・のように、素数の偶数乗の掛け算の形に書くことができます。
ここで、AとBを素因数分解した形を考えたとき、もしp1が両方含まれていたら、もはやAとBは互いに素とは言えません。よって、AとBは共通の素数の因数をもてないことが分かります。
すると、A= (p1)^(偶数)×(p2)^(偶数)×・・・・, B = (q1)^(偶数)×(q2)^(偶数)×・・・・
のように、A, B自身も素数の偶数乗の掛け算になっていないといけないわけです。
要するに、積が平方数になるような互いに素にな整数A, Bは、両方とも平方数
でないといけないと分かります。
Step2で、(c+a)/2と(c-a)/2は互いに素だと示せていて、かつ、
(c-a)/2 × (c+a)/2 = (b/2)^2
となっていて、2つの整数の積が平方数になっています。
よって、(c+a)/2と(c-a)/2は互いに素な平方数だとわかるので、互いに素な整数m,nを使って、
(c+a)/2=m^2
(c-a)/2 =n^2
と書くことができます。
この式を使ってa,b,cを全部計算すれば、
a = m^2 -n^2
b = 2mn
c = m^2 + n^2
と求まって証明完了です (Q.E.D)
いかがでしたでしょうか?このように原始ピタゴラス数を一律に表現できる魔法の式を作ることができました。
実は、この事実を使うと、フェルマー自身が証明した、
「フェルマーの最終定理のn=4の場合の証明」をすることができます。
それは次回に回しましょう。
ではでは。