皆さん、こんにちは。
今回と次回で、「一年生の夢・二年生の夢」と呼ばれている等式について紹介します。
まずは、「一年生の夢」についてです。
1.一年生の夢とは?
「一年生の夢」とは、次のような等式のことです。
中学や高校などで数学を習いたての一年生が、ついやってしまいがちな「間違った等式」です。(だから「一年生の夢」という名前がついています)
例えば、n=2の場合なら
(x+y)^2 = x^2 +2xy+ y^2
となって、本当は右辺には余計な2xyがつくはずなので、この一年生の夢が間違ってることは簡単に判断できます。
とはいえ、このまま「間違ってます。終わり」としてしまっては身も蓋もありません。
もっと深堀して、「じゃあ、どんなときに『一年生の夢』の式が成り立つんだろう?」って気になってきませんか?
n=1の時は当たり前に成り立ってしまうので、nは2以上の整数に限定します。1年生は指数が「負の整数」だったり「有理数」だったり「実数」だったり、まして「複素数」の場合なんて計算しないですからね笑
また、x,yが複素数の場合まで考えると大変なので、とりあえずx,yは実数に限定します。
つまり、今後の目標は、
「nが2以上の整数の時、『一年生の夢』が成り立つような実数x,yの必要十分条件を求めること」
となります。
2. 一年生の夢が成り立つ「十分条件」
まず、十分条件から検討していきましょう。
一年生の夢の式で、左辺ー右辺を次のように定義します。
このfn(x,y)が0になれば、一年生の夢が成立することになります。
多項式の値が0になる条件を探すのですから、因数分解を考えてみましょう。
2項定理で(x+t)^nを展開すると、右辺が引かれることで「x,yが両方入ってる項」だけが生き残ることになるので、
のように、fn(x,y)は必ずxyで括れることが分かります。
ということは、xy=0であれば必ずfn(x,y)=0になることになります。
よって、一年生の夢が成り立つ十分条件の1つは、
となります。元の式に代入すれば成り立ってることはすぐに分かりますね。
さらに、nが奇数の時に限ってはもう1つ十分条件を見つけることができます。
nが奇数なら、x^n+y^nが因数分解できてx+yで括ることができるので、
このように、fn(x,y)自体もx+yで括れることが分かります。
よって、nが奇数の時は、次の十分条件が追加されます。
これも元の式に代入すれば成り立つことがすぐに分かります。
さて、これ以外に条件がありそうか、具体的に調べてみましょう。
fn(x,y)は、nが偶数の時xyで、nが奇数の時xy(x+y)で割り切れることに注意して、n=5の場合まで調べてみると、
のように因数分解されます。
xy=0以外の条件を探したいので、x≠0かつy≠0を前提に考えてみます。するとどうでしょう?
xy, x+y以外の2次式の因数は、判別式<0となってるので、必ず正の値になりますね。つまり、この残りの因数からさらに因数分解することはできなさそうです。
つまり、一年生の夢が成り立つ条件は上で調べた2つ以外はどうもなさそうな気がしてきます。
この予想はあくまでn=5までの情報を元にしてるので、証明しようと思ったらちゃんと一般のnで確かめないといけません。
ということで、次の節では、上の2つ以外に条件がないこと(つまりこの2つの十分条件が実は必要条件でもあること)を実際に示していきたいと思います。
3. 一年生の夢が成り立つ「必要条件」
fn(x,y)は「nが偶数の時xyで、nが奇数の時xy(x+y)で割り切れる」という、nの偶奇によって違った性質を持つので、nの偶奇で場合分けして考えていきます。
3-1. nが偶数の時
fn(x,y)をxyで割ってできるx,yの多項式を次のように設定します。
これが「どんな0でない実数x,yについても0にならない」ことが言えれば、xy=0以外でfn(x,y)=0にならないことが示せたことになります。
普通、このような2変数関数の値域は大学で習う「偏微分」などを使って調べるのですが、今回はうまく変数変換することで高校数学の範囲で調べることができます。
その変数変換がこちらです。
xとyの比をaとして、このaをyの代わりに新しい変数にしてしまうのです。実際に代入してみると、
のように、gを「aだけの関数」と「xだけの関数」の積に完全に分離することができます。xとaは独立して決められる変数なので、分解した「aの関数」と「xの関数」をそれぞれ独立に考えてあげることができます。
「xの関数」の方は、xの偶数乗というシンプルな形なので、x≠0では正の値だとすぐに分かります。ということで、「aの関数」を
として、このG(a)の符号を調べていけばよいことになります。
(※今回は0になるか否かが関心事なので、G(a)の符号さえわかればOKです)
原理的には微分するのが鉄板ですが、ここでは敢えて微分を使わずに符号を調べてきます。そのときはaの値で場合分けする必要があります。
まず、a>0の場合は簡単です。分子を2項定理で展開すればただの正の数の和になるので、G(a)>0になるのは当たり前です。
a<0の場合は、絶対値記号を使ってG(a)は次のように書き換えることができますが、このままでは符号が判然としません。
確実に符号が分かるaの範囲から着実につぶしていきましょう。
-1≦a<0の場合は、分子の左側1+|a|^2mは絶対に1より大きく、分子の右側(1-|a|)^2mは絶対に1より小さい数です。なので、分子は「大きい数ー小さい数」に確実になっているので、トータルでG(a)>0だとわかります。
残ったa≦-1の場合は、実は分母を分子に取り込んで|1/a|を考えてあげることで、-1≦a<0でやったものと同じ議論に帰着できてG(a)>0が言えます。
こういう技は、時々大学入試でも役立ちます。
ということで、a≠0であればどんな場合でもG(a)>0になることが分かったので、
結局、「fn(x,y)/xyはxy≠0であれば必ず正の値になる」、つまり「fn(x,y)はxy=0以外で0にならない」が証明できたことになります。これで目的達成です。
3-2. nが奇数の時
fn(x,y)をxy(x+y)で割ってできるx,yの多項式を次のように設定します。
方針はnが偶数の場合とほぼ同じです。
同じようにyを変数変換し(今回はx+y≠0の制限もあるのでa=-1も除外します)、
同じように「aの関数」と「xの関数」の積に分離します。
xの関数は偶数の場合と全く同じで正なことが確定し、「aの関数」をH(a)とおいて、これの符号を調べるのも一緒です。
aの値で場合分けすると、a>0の場合は2項定理で即座にH(a)>0が言えます。
a<0の場合は、偶数の時みたいな符号判定が難しいので、素直に微分して考えます。H(a)を丸ごと微分すると式が汚くなりますし、今回はH(a)の符号だけに関心があるので、分子F(b)だけ取り出して微分します。(取り扱う変数が正になるようにb=-aとして扱いやすくしてます)
実際に微分すると、b^2mと(1-b)^2mの大小関係が肝になるので、それをbの値で場合分けしていきます。
微分を使ってF(b)の取りうる値を調べると、結局0<b<1ならF(b)<0, b>1ならF(b)>0が分かります。
この符号変化は、分母のb(b-1)の符号変化と完全一致してるので、
トータルすればH(a)>0となることになります。
ということで、a≠0であればどんな場合でもH(a)>0になることが分かったので、
結局、「fn(x,y)/xy(x+y)はxy≠0,x+y≠0であれば必ず正の値になる」、つまり「fn(x,y)はxy=0やx+y=0以外で0にならない」が証明できたことになります。これで目的達成です。
以上から、上で調べた2つの十分条件以外に「一年生の夢」が成り立つ条件がないことが分かり、この2つの十分条件が必要条件でもあったことが分かりました。
まとめると、「一年生の夢」が成り立つためのx,yの必要十分条件は、次のようになります。
結局こうしたすぐに思いつくであろう状況でしか成り立たず、ほとんど全ての状況で残念ながら一年生の夢は叶わないことが分かってしまいました・・・夢は次の「二年生の夢」に託すことにしましょう。