ちょぴん先生の数学部屋

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線積分と面積分を繋ぐ公式 ~グリーンの定理~

皆さん、こんにちは。

 

ここ数回「変分法」について紹介しており、次は「等周問題」を取り上げたいのですが、その準備段階として、ベクトル解析の「グリーンの定理」を紹介したいと思います。

1. 線積分

 

最初に、大学で新しく学ぶ積分である「線積分」と「面積分」について紹介します。

 

積分については、以前ヨビノリさんの企画「数学夏祭り」に参加した際に書いた記事にて紹介していますが(ヨビノリさんからの挑戦状 ~数学夏祭り 第9問~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )、改めて説明しておきます。

 

積分とは、簡単に言うと高校物理で習った「仕事」を一般化したものです。

 

高校物理では「仕事」を以下のように定義しました。

 

「仕事」=「力」×「移動量」

 

高校物理の範囲でとり扱う力は、あくまで向きと大きさが一定で、物体を動かす向きも一直線方向に限られていたので、「仕事」は上の公式による計算で十分に求めることができました。

 

しかし、実際は力は大きさも向きも変化しますし、物体の動かし方も直線とは限らないわけです。

 

そこで、工夫をしてあげます。物体をほんの僅かだけ動かしたときの仕事を計算して、それを足し上げれば(積分すれば)全体の仕事量になるわけです。

 

というわけで、線積分の定義は、以下のようになります。

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問題文にある「ベクトル場」は、上記の説明における「力」に相当するものです。

要は、

「仕事」 = 「力と微小変位の内積積分

と一般化できる、という話なわけです。

 

今回扱う「グリーンの定理」においては、この経路が閉曲線になっている場合について考え、そんな線積分の事を「周回積分」と呼んだりします。

このとき、経路の向きは反時計回りを「正」と見なすのが一般的です。なので、この後出てくる閉曲線は全て向きは反時計回りだとします。

 

2. 面積分

 

積分については、ガウス積分の記事の前段で触れていますガウス積分 ~統計学で最も重要な積分~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)。この時は、より一般的な「重積分」という用語で紹介しましたが、特に積分する変数が2つのときは「面積分」と呼びます。

 

積分とは、2つの変数で積分することです。通常数式では下のように表記されます。

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このようにインテグラルを変数の数だけ並べて、最後にdxdyなどと表記します。インテグラルの下についているDは、点(x,y)が動く領域を表し、1変数の積分で言う所の「積分区間」に相当するものです。

 

高校で習う「1変数積分」は面積を表す量だった類推で、「面積分」は体積を表すことになります。

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一般に2変数関数z=f(x,y)は曲面を表すのですが、面積分は、

「領域Dを底面、曲面z=f(x,y)を上面」にした立体の体積になるのです。

 

xy平面上にdx×dyの非常に小さい長方形を用意すると、そこでの立体の高さはf(x,y)となります。なので、この長方形を底面にする高さf(x,y)の直方体の体積がf(x,y)dxdyとかけ、

それをD全体で全部足していく作業が面積分なのです。

 

3. グリーンの定理

 

ここまでで前段の準備は終わったので、いよいよ本題の「グリーンの定理」について紹介します。

 

グリーンの定理は、積分(特に周回積分)と面積分を繋ぐ公式になっており、以下のようなものです。

 

左辺は閉曲線C上での線積分(周回積分)で、一方の右辺はCの内部Dでの面積分です。

要するに、この公式によって周回微分と面積分を行き来することができる、というのがグリーンの定理の主張です。

 

※まだこのブログでは紹介していませんが、この定理の3次元バージョンが電磁気学で登場する「ストークスの定理」となります。

 

証明は、(Cの形がある程度行儀のいい場合に限ってはいますが)以下のようなものになります。

 

左辺をdxの微分とdyの微分に分けて、それぞれを式変形していく方針で攻めていきます。つまり、以下の2つを証明します。

 

まず[Ⅰ]について。

 

積分経路Cを下半分、上半分に分け、それぞれをC1, C2と名前を付けます。

こう分けてしまえば、C1とC2のx方向の積分に帰着できます。

C1(第1項)は右向き、C2(第2項)は左向きで積分する方向が逆なので、両者で積分範囲の上下が逆になることに注意です。

第2項の積分範囲の上下をひっくり返して統一してあげると、

のように被積分関数は差の形になります。

4行目は、わざと「定積分の計算過程」っぽく書きました。この差の中で動いている変数はyです。なので、yで積分したときの原始関数がP(x,y)になるような関数を考えることができます。そんな関数は、P(x,y)をyで偏微分したもの、で良さそうです。

つまり、

被積分関数が、∂P/∂yをf2(x)~f1(x)まで積分したもの、ということです。

これで、とりあえず最初の線積分が、∂P/∂yの面積分に置き換わりました。

 

あとは、積分範囲がDになっているかどうかを確かめればいいわけですが、

最初のy積分は、x座標を固定した状態でCの下端から上端まで積分する作業になっていて、そのあとx積分を行うことでCの左端から右端まで動かしています(上図のイメージです)。

プリンターやFAXをイメージすれば分かりやすいでしょう。プリンターではまず横一直線にインクが塗られ、塗り終わるたびに縦方向にスクロールしてまた横一直線にインクを塗る、の繰り返しで紙が印刷されますよね。

 

この考え方によって、きちんと積分範囲がCの内部D全体を網羅できていることが分かるかと思います。

これで[Ⅰ]の証明は完了です。

(※y積分積分区間が小→大になるようにマイナス記号を付けていることに注意です)

 

続いて[Ⅱ]の証明ですが、縦横が変わってるだけで[Ⅰ]の証明とやることは全く同じです。

(※こちらの場合は、y積分積分区間が最初から小→大になっているので符号はプラスのままです)

 

こうして証明できた[Ⅰ]と[Ⅱ]を辺々和を取れば、グリーンの定理そのものになります。

 

4. 閉曲線で囲まれる部分の面積

 

グリーンの定理の有名な応用例の1つが、「閉曲線で囲まれる部分の面積」の計算です。

(実はもう1つ有名な応用例があって、それは「複素関数論」に登場するのですが、ネタバレ防止のため、後日改めて紹介します)

 

グリーンの定理の右辺は面積分でしたが、面積分被積分関数がもし「1」だったらどうなるでしょうか?

 

積分の説明で述べた通り、面積分の意味は「Dを底面とする立体の体積」であり、被積分関数は「高さ」に相当しました。

その高さが「1」だということは、それは「Dの面積」ということになりませんか?

 

というわけで、グリーンの定理で右辺の被積分関数が「1」になるようにうまくP,Qを選んであげれば、Dの面積を左辺の線積分(周回積分)で計算できるようになります。

 

早速やってみましょう。

PとQとしてあまりに複雑な関数を選んできても旨味がないので、極力簡単な関数を選びたいです。特にいいのは、微分すると定数になってくれるような。そうです、1次関数を取ってくればいいわけです。

 

というわけで、P,Qとして以下のような1次関数を採用します。

実際、こう採用してあげると、右辺の被積分関数は下のように「1」になってくれます。

結果が1になるような係数の選び方は無数にありますが、係数の絶対値が揃っていた方が扱いが簡単なので1/2を採用しているわけです。

 

実際にグリーンの定理に当てはめると、Dの面積Sは、

と線積分で表現できます。

 

さらに、閉曲線Cが

とパラメータ表示できているとき、(※t1→t2で反時計回りに一周するとします)

 

のように、Sはパラメータtの積分で表現できます。

 

この⑤を使って、次回、いよいよ「等周問題」を変分法で解いてみたいと思います。