皆さん、こんにちは。
今回の記事では、応用上とても重要な積分である、「ガウス積分」
についてご紹介します。
0.はじめに
この積分、高校数学の知識で計算できるでしょうか?
x^2を置換して~とか無理やり(x)'を作って部分積分~とか試行錯誤しますが、解ける気がしませんね。
結論から言うと、高校数学ではどうあがいても計算できません。そもそもe^(-x^2)という関数自体の不定積分がうまく求まりません。この積分を計算しようと思うと、大学数学の知識が必要になります。
次のセクションでは、その必要な大学数学の知識を紹介します。
1. 重積分
「重積分」とは、2つ以上の変数で積分することです。通常数式では下のように表記されます。
このようにインテグラルを変数の数だけ並べて、最後にdxdyなどと表記します。インテグラルの下についているDは、点(x,y)が動く領域を表し、1変数の積分で言う所の「積分区間」に相当するものです。
ところで、高校で習う「1変数積分」は面積を表すのでした。その類推で、「2変数の重積分」は体積を表すことになります。
一般に2変数関数z=f(x,y)は曲面を表すのですが、「2変数の重積分」は、
「領域Dを底面、曲面z=f(x,y)を上面」にした立体の体積になるのです。
xy平面上にdx×dyの非常に小さい長方形を用意すると、そこでの立体の高さはf(x,y)となります。なので、この長方形を底面にする高さf(x,y)の直方体の体積がf(x,y)dxdyとかけ、
それをD全体で全部足していく作業が「重積分」なのです。
さて、積分範囲として考える領域Dですが、形状によってはデカルト座標のままでは計算しにくい場合があります。
例えば、Dが円とかだったら、デカルト座標で計算するよりも極座標で計算する方が扱いやすいわけです。
1変数積分だったら、x=f(t)と変換したければdx=f'(t)dtと変換すればよかったのでした。それでは、デカルト座標のdxdyは、極座標だとどう変換されるのか?図形的に考えてみます。
先のセクションでは、ごく小さな値、dx,dyで長方形を考えたわけです。極座標であれば、扇形を考えるのがよいのではないでしょうか?
以下のような中心角がdθ, 肉厚がdrの扇形を考えてみましょう。
この斜線部の面積を計算すると、
となります。ここで、drの2乗は「メチャクチャ小さい数同士の掛け算なので0と近似しても構わない」と解釈して切り落としています。ここで出てくるrdrdθは、次のように解釈してもよいです。
実際には丸まってはいるものの、dθとdrがメチャクチャ小さければ、ほとんど長方形だと見なせます。底辺の長さは円弧の長さなのでrdθ, 高さはdrなので、その掛け算が長方形の面積なので、rdrdθ、と解釈できるわけです。
いずれにせよ、極座標
の変換によって、dxdy=rdrdθとしてよいことになります。
これで準備完了です。
ここまで前置きが長くなりましたが、いよいよガウス積分を導出します。
まず、求めたい値をIとおきます。
そして、次の操作がトリッキーなのですが、このIを2乗することで重積分の形にします。
Iの積分の中に登場するxという文字はダミーなので、yという別の文字に変えても問題ないわけです。ここで積分領域Dは、「xy平面全体」と言うことになります。
ここで、先ほど登場した、極座標への変換を行います。
「xy平面全体」は、θは一周分(0≦θ≦2π), rは原点から無限に遠くまで(0<r<∞)と読み替えてよいので、dxdy=rdrdθと合わせて
と変数変換できるわけです。
さて、rに関する積分、この形であれば積分できますよね?指数関数の肩にあるr^2を微分すればrが出てくる形です。
なので計算を進めれば、
となり、I^2がπだと分かりました。
あとはこれにルートを取ればいいので(Iは明らかに正の数です)、
となって、証明完了です。
4. 正規分布の式の導出
1つ応用例を出します。
平均μ、標準偏差σの正規分布の式は、ガウス関数を使って下のように書けることが知られています。
このセクションでは、この定数Cの値を計算してみましょう。
正規分布の式p(X)は、確率を表しているので、全範囲にわたってXで積分すると1になっていないといけません。
既にガウス積分の計算方法を知っているので、この式を使えばCが求まるわけです。
変数変換も駆使しつつ計算すると、
のようにCが求まりますので、正規分布の式は
と求まりました。この形がわかるからこそ、正規分布表を作る事ができるわけです。