皆さん、こんにちは。
今回は、「アルキメデスの螺旋」という曲線の長さを計算するときに登場する、単純なのに計算が難しい積分について解法を紹介していきます。
1. アルキメデスの螺旋とは?
アルキメデスの螺旋とは、次のような極方程式で書かれる曲線のことです。
実際にグラフにしてみると、このような渦巻き型になります。
x,yの式では綺麗に書けないが、極座標であれば綺麗に式をかける曲線の最も簡単な例の1つだと思います。
今回は、この曲線のうち、0≦θ≦αの部分の長さL(α)を計算することがテーマとなります。
2. アルキメデスの螺旋の長さ
長さを計算するために、まず曲線の式をxy座標に直します。
極座標は、x=rcosθ, y=rsinθでxy座標に変換できるので、今回の場合は、
のようにθを使ったパラメータ表示でx,yが求まります。
これを曲線の長さを計算する公式に代入すれば、
のように、L(α)がシンプルな積分の形で表現できます。
この積分が計算できれば一件落着なのですが、実はこの積分計算がかなり難易度が高いのですよ。
いくつか置換の方法が知らているので、今回は大きく3種類の置換方法を紹介したいと思います。
3. 積分の解法
3-1. θ=tanφと変換する方法(その1)
積分に「1+x^2」という形が見えているので比較的思いつきやすい置換方法ですが、
今回紹介する置換方法の中では一番計算が煩雑です。
途中で「あること」に気付けば多少は労力を減らせるので、その方法をまず「その1」として紹介します。気付かずに別ルートで解く方法を「その2」で紹介します。
まず、この変数変換を行うと次のようになります。
ここで登場してるβですが、αが任意の0以上の実数を取るので「0以上π/2未満」に値域を制限しておきます。こうしておくことで符号で悩まずに済みます。
さて、分母がcosの「3乗」になってるのですが、三角関数が入った積分は「3乗」と相性が悪いです。3乗のままだとsinやtanへの変換が行いにくいからです。
そこで、sinやtanへ変換しやすくなるように「2乗」を無理やり作る、というのが、三角関数の積分を解いていくコツです。
というわけで、分母の「3乗」を「1乗」×「2乗」に分解します。すると、「2乗」の方が「tanの微分」となっていることに気付けると大きく前進します。
(※これに気付かずに解く場合が次に紹介する「その2」となります)
これで部分積分が使えるので、実行します。
積分の中身がかえって複雑になったように見えますが、分子をcosの式で書き換えてあげると、
のようになんとL(α)自身が再登場します。いわゆる「同形出現」というタイプです。
これで厄介な「分母3乗」が全部L(α)自身に押し付けられて消えてくれたので、あとは「分母1乗」の積分を処理すればよいことになります。
「分母1乗」のタイプについては、
1. 分母分子にcosをかけて、分母をsinの式に書き換える
2. t=sinxで置換
3. 部分分数分解で和の形にして積分
という手順で解くことができるため、
のように、最終的なL(α)の式までたどり着きます。
最終的な答えは、最初の積分の形からは想像が付かない複雑な式になりましたね。
3-2. θ=tanφと変換する方法(その2)
その1で、最初の置換積分に気付かなかった場合の迂回ルートがその2です。
⑤までは同じです。
先ほど「分母1乗」の積分の解き方を見ましたが、それと同じ発想で分母分子にcosをかけて分母に無理やりsinを作ってt=sinxで置換してごり押しします。
すると、分母が4次式の分数関数になりました。
こういうタイプの積分は、「部分分数分解」を考えるんでした。
⑧のように部分分数分解を仮定して恒等式を解いていきます。
分母を払うと⑧’のようになりますが、3次式で展開しての係数比較が少し面倒です。
こんなときは、t=0, ±1といった都合のいい数値を代入してあげればよいです。
このままでは未知数4つに対して方程式が3つしかできないので、最後に「最高次係数」のみ係数比較した結果を追加しておきます。
これらを連立すれば部分分数分解の形が求まります。
ここまでくれば、分解した各項で積分を実行すればOKです。
当然その1と同じ結果が得られます。
3-3. θ={e^t-e^(-t)}/2と変換する方法
これは高校範囲だと思いつきにくい置換方法です。が、今回紹介する中では最もスッキリ計算することができる方法です。
(後日紹介したいと思いますが、この置換には「双曲線関数」という概念が背景としてあります。)
とりあえず、騙されたと思ってこの置換を実行すると、
のようにルートが外れてくれます。
(ルートの中身と、{e^t+e^(-t)}/2の2乗を計算してみると、確かに一致してることが分かるはずです)
厄介なルートが外れてくれれば、もうただの指数関数の積分なので簡単です。
⑭をsについて解くと、
となるので、これでsをαの式で置き換えてしまえば、
結局今までと同じ結果が得られます。
3-4. t=log(θ+√1+θ^2)と変換する方法
これは3-3にもまして初見じゃ思いつかない置換方法です。
実は、この置換の誘導付きで「アルキメデスの螺旋」の長さを計算させる問題が、京大2002年第4問で出題されています。
平成の京大理系数学 -2002年- - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
この置換方法では大分トリッキーな計算が必要で、ルートを無理やり分母に出現させて和の形に分解します。分子が1のものは置換がそのまま嵌り、分子がθ^2のものは部分積分に帰着させます。
すると、L(α)自身が再登場する「同形出現」になるので、最終結果が求まります。
「発想は容易いが計算が煩雑」「発想は知識がないと思いつきにくいが計算は楽」「発想も思いつきにくく計算もトリッキー」という多様な解法がありましたね。
4.最終結果
結局、アルキメデスの螺旋のうち、0≦θ≦αの部分の長さL(α)は
と求まりました。グラフにすると下のようになります。
この結果の振舞い方をαが「十分小さい場合」と「十分大きい場合」で調べてみます。
4-1. αが十分小さい場合
このとき、1に比べてα^2が無視できるので、
と近似ができ、さらに
という近似もできるので(グラフの接線を考えれば分かります)、
結局、
というシンプルな1次式で近似できます。
つまり、L(α)はαが小さいところでは1次関数的に振舞います。
4-2. αが十分大きい場合
このときは逆に、αに対して1が無視できるので、
という近似ができます。さらにα^2に対してlogαやlog2は無視できるほど小さいので、結局、
と近似できます。
つまり、L(α)はαが大きいところでは2次関数的に振舞います。
このような「αが小さいときは1次関数的」「αが大きいときは2次関数的」というのは、上のグラフからも推測できますね。