ちょぴん先生の数学部屋

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最も基本的な関数方程式 ~コーシーの関数方程式~

皆さん、こんにちは。

 

今回は「コーシーの関数方程式」というものを紹介します。

0. コーシーの関数方程式とは?

 

コーシーの関数方程式とは、次のような方程式です。

この方程式を満たす関数f(x)を求めることが今回のゴールになります。

 

求める関数f(x)は、「足し算に関数をかました値が、いつもそれぞれの値の関数の和に分解できる」という嬉しい性質を持っていて、この性質を「線形性」と呼びます。

 

比例の式f(x)=ax (a:定数)がこの方程式を満たしていることはすぐに分かるでしょう。しかしこの形以外にも方程式を満たすf(x)がある可能性がありますね。

 

しかし、実はこの方程式の解はf(x)=axしかないことが知られています!

 

今回の記事では、コーシーの関数方程式の解がf(x)=axしかないことを証明していきます。

 

1. コーシーの関数方程式を解く

 

いくつか段階を追って解いていきます。

1-1. f(0)=0

方程式にx=y=0を代入すれば容易に、

のように証明できます。

 

1-2. f(x)は奇関数

方程式にy=-xを代入してあげれば、f(0)=0を利用して、

という関係が任意の実数xで成り立つことが分かります。この式は、奇関数の定義そのものです。

 

1-3. nが自然数の時、 f(nx)=nf(x)

左辺の番号を方程式を使って1ずつ下げていくことで証明できます。

 

1-4. mが整数の時、 f(mx)=mf(x)

 

mが負の整数のとき、m=-n (n:自然数)としてあげれば1-2の性質を使って、

が示せます。この結果と1-1, 1-3を合わせれば、mが一般の整数の時に、

が成り立つと言えることになります。

 

1-5. qが有理数の時、f(q)=aq (a:任意定数)

 

1-4までの情報を駆使して考えていきます。

有理数qを

で定義してf(qx)を考えます。

x=Nを代入してNを約分すると、

が成り立ちます。一方でNは整数なので1-4より外に出すことができるので、

も成り立ちます。2つとも同じf(qx)を計算してるため値は等しくなるはずで、

割り算でfの外にqを作ることができます。a=f(1)と定義してあげればf(q)=aqが言えます。

 

ここまでで、xが有理数の場合は、f(x)はf(x)=axの形しかないことが示せたことになります。

あとは、xを「実数」に拡大できればOKなので、それを示していきます。

 

1-6. xが実数の時、f(x)=ax (a:任意定数)

 

ここまでで使わなかった条件が1つあります。f(x)が「連続」であることです。この点に注目してxを有理数から実数に拡張したいと思います。

 

xを無理数だとして、qnを「xを小数表示したときに小数第n位で打ち切ってできる有理数」とします。

例えば、xが円周率であれば、

q1=3.1, q2=3.14, q3=3.141, q4=3.1415, q5=3.14159,・・・といった感じになります。qnは途中で打ち切った有限小数になっているので、当然有理数です。

 

このとき、n→∞とするとqnが無理数xに収束するのが重要な点です。

f(x)は連続なので、定義から

が成り立っているはずです。右辺の中身は有理数なので1-5の結果が使えて、結局、

となって、xが無理数の場合に拡張してもf(x)=axの形しかないことが言えたことになり、これにて証明終了です。

 

2. コーシーの関数方程式の応用

 

以上のような「コーシーの関数方程式」に帰着させることで、いくつかの関数方程式を解くことができます。以下、f(x)は実数値のみとる関数だとします。

 

2-1. f(x+y)=f(x)f(y)

コーシーの関数方程式の右辺が「積」になったパターンです。ぱっと見でf(x)は指数関数になりそうだと予想できます。この予想が正しいことを証明していきます。

 

まず、f(x)が常に0以上の値を取ることを背理法で証明します。

 

f(α)<0となる実数αが存在すると仮定します。このとき方程式にx=y=α/2を代入したものを考えると、

右辺が2乗の形になるので必ず0以上となるので、明らかに矛盾ですね。

 

次にf(β)=0となる実数βが存在すると仮定すると、y=βをすると

となります。xは任意の実数なのですから、どんなxについてもf(x)=0となってしまいます。

つまり、一度でもf(x)=0となる瞬間があればf(x)は恒等的に0だと言えます。これも確かに関数方程式の解なのですが、何の面白みもない結果なので、f(x)が常に正の値になる場合に絞って考えていきます。

 

f(x)が正だと保証されたので、方程式の両辺で対数を取ることができます

g(x)=log f(x)と定義すれば、

のように、コーシーの関数方程式に帰着できます。

 

このことから、g(x)=axに限定できるので、それをf(x)に戻してあげれば、

となり、予想通りf(x)は指数関数に限ることが分かります。

 

2-2. f(xy)=f(x)+f(y) ※定義域を正に限定

今度は、コーシーの関数方程式の左辺の中身が「積」になったものを考えます。都合により定義域が正の状況に限定します。ぱっと見でf(x)は対数関数だと予想できます。

 

この場合は、X=log x, Y=log yと変換することで、

やっぱりコーシーの関数方程式に帰着できるので、結局、

予想通りf(x)は対数関数に限ることが分かります。対数の底はネイピア数eで考えましたが、eならではの式変形(微分積分)は一切行ってないので、実は正の値なら何でもOKです(底を上手く選べば、aの値を1にできます)。

 

2-3. f(xy)=f(x)f(y) ※定義域と値域を正に限定

最後に、左辺も右辺も積の形にしたものを考えます。こちらも都合により定義域と値域が正の状況に限定して考えます。この場合は少し予想が立てにくいかもしれません。

 

考え方は2-1, 2-2のハイブリッドを行えばOKで、

やっぱりコーシーの関数方程式に帰着できます。

よって、

となり、f(x)はべき乗の形に限ることが分かります。言われてみれば当たり前の結論でしたね。