2024年も大学入試のシーズンがやってきました。
今回は、日本医科大学の数学に挑戦します。
<概略> (カッコ内は解くのにかかった時間)
1. 垂心のベクトル表示と三角形の面積(35分)
2. 確率期待値を題材にした極限計算(20分)
3. 積分値の極限計算(60分)
4. 空間図形(60分)
計175分
<体感難易度>
2<1<4<3
日医らしい全体的に計算量のエグいセットです。決まりきった作業を淡々とこなすのがメインですが、とにかく計算が長く煩雑な上に、第3問(4)は不等式評価で試行錯誤する羽目になるので相当難しいです。
第2問については、極限計算をやりなれてる人はササっと解けてしまうレベルの問題ではあるので、ここを確実に抑えに行く感じでしょうかね。第1問も計算ミスにさえ気を付ければ十分完答が狙えると思います。
<個別解説>
第1問
垂心のベクトル表示と三角形の面積の増減を考える問題です。
(1)鋭角の範囲ではcosが減少関数になることに気を付ければ容易いです。
(2)垂心のベクトル表示を計算する問題です。比を自分で文字設定し垂直の条件を2つ立てて連立する、というワンパターンなのですが、計算がそこそこ煩雑です。
(3)ABを底辺として考えてあげれば、(2)で考えた比がそのまま生かせます。
(4) S(x)を微分して分子の符号変化の仕方を調べることになります。分子自体が符号がすぐには分からないので分子だけを再度微分する必要がありますね。
<筆者の回答>
第2問
確率期待値を題材にした極限計算の問題で、確率要素は薄く極限計算がメインとなります。
(1)pの式は教科書レベルの「反復試行の確率」で簡単に立式できます。ここで計算するqは、「赤をk回出したら賞金2^k円が貰える設定のギャンブル」に参加したときの賞金の期待値ということになります。
実際の計算では、「k乗」の部分に「2^k」を組み込んでしまえば2項定理が使える形にできます。
(2) 1^∞の形の極限なので、ネイピア数eの定義をまず連想すべきです。(1+1/〇)^〇の形ができるように指数を上手く調整していきましょう。
(3)Cを階乗の形にばらして、まずはmと関係ないものを極限の外に出してスッキリさせましょう。すると、ネイピア数eに収束する部分と、1に収束するm個の積の部分に綺麗に分解できます。
このSn(k)の結果はいわゆる「ポアソン分布」と呼ばれる、めったに起こらない現象が何回起こるかに関する有名な確率分布になります。
※白の個数mがめちゃくちゃ多いので、赤を取り出すことはめったにない、ということです。
(4)見た目からして、いかにも区分求積法を使いそうですね。シグマの中から邪魔な等比数列の部分が消えてくれるのが嬉しいポイントです。
<筆者の回答>
第3問
積分値の極限計算の問題で、(3)以降が難しく特に(4)は発想ありきな問題なため、本番では捨ててしまってもいい気がします。(2)までを確実に解いておきたいところです。
(1)指数関数×三角関数のタイプの積分です。この手の積分では部分積分を使うことが一番基本的な解法ではあるのですが、いかんせん計算ミスしやすいのであまりおススメできません。
本回答のように、cosのものとセットで微分した形を作っておき原始関数をそこから逆算するというのが、高校範囲では一番ミスがなくいいかなと思います。大学数学を使っていいなら、オイラーの公式を使って三角関数も指数関数に統合して計算してしまうのが簡便です。
(2) ∞×0の不定形になる極限です。今回のような「引き算」が含まれてる場合は、まずは「微分係数の定義」を利用することを考えるとよいです。
(3)さて、長い長い積分計算です。せっかく(1)のヒントがあるので、可能な限り積分をK(a)の形に近づけるように置換を繰り返していきます。
まず、積分区間が汚いのでスッキリさせましょう。ちょうど区間幅がπなので、nπの分だけオフセットしてあげれば良さそうです。y=x-nπで置換します。すると、指数関数の部分が上手く積分の外に出てくれて、少しスッキリした積分になります。
しかし、(1)を使うにはまだ課題があります。絶対値が邪魔ですね。
sinの絶対値が外れるようになるには、積分区間がちょうどsinの半周期(0~π)の幅になってくれれば良さそうです(0≦x≦πならつねにsinx≧0で絶対値が外れます)。
今の段階ではsinの中身がnyの状態なので半周期は0~π/nとなります。ということで、今度は積分区間を半周期分π/nずつに分解してあげることを考えます。
積分区間は自由に連結・分解できたので、シグマの形にすればよいでしょう。そうするとまた積分区間の形がごちゃごちゃしてくるので、序盤と同じ流れで置換してあげましょう。z=ny, w=z-kπと順に置換するとうまくいきます。
ここまでやって、ようやく絶対値が外れ、シグマの中身にK(a)の形が出現します。あとは(1)の結果を代入して最後まで計算しきりましょう。最後の関門は等比数列の和なので、項の個数と初項に注意しましょう。
(4)おそらく今回のセットの中で最難問です。
実は答えだけでいいなら(3)までの結果を使って比較的簡単に求められるのですが、きちんと論証した上で正答するのは短い試験時間では困難を極めます。
まずJnの形を見ると、分母に指数関数と三角関数という性質の違う関数の和が混在しています。こういう場合、積分を直接計算することはまず不可能です。
一方でInと比較すると、分子は一緒で分母もcosがあるかないかの違いしかありません。
ということで、「きっとJnを不等式で挟んではさみうちに持ち込むんだろうな」という方針がなんとなく見えてきます。
積分の中身からして、Jn≦InとJnを上から抑えることは簡単にできます。e^(nπ)Inの極限は(2),(3)の結果を使うことで計算することができますので、おそらくe^(nπ)Jnの極限も同じ値になるだろうとアタリをつけられます。答えだけでよいなら、この計算結果を書いてしまえばよいと思います。
しかし、それが本当に求める極限値として正しいかは厳密には言えてません。何故ならこの時点では同じ極限値を持つ式でJnを「下から」抑えられてないからです。もしそんな式をうまいこと見つけられれば、はさみうちの原理で数学的に厳密に例の値が極限値であると言えることになりますが、どうやって見つければいいのか・・・
そうです。この(4)が難問たるポイントが、まさにJnを下から抑えるうまい式の発見にあるのです。ここで発想というか試行錯誤がどうしても必要になってしまうのです。
Jnの分母に注目すると、cosの絶対値はせいぜい0から1までの値しか動かないので、まずはそれを使って不等式評価してみます。すでに素性が分かってるInと比較して明らかに分母のcosが邪魔なのでそこを消してやろうという発想です。
こうしてできた式をnπ~(n+1)πで積分したものをKnと呼ぶことにします。
Knもそのままでは積分できそうにない形をしているので、ここでもKnを「下から抑えよう」と考えるわけです。
こういう場合よくやる方法は「母だけ積分区間を使って定数に置き換えてしまう」という方法なのですが、残念ながら今回はそうやっても上手くいきません。極限を計算したときに、最初に計算した極限値と値が食い違ってしまいはさみうちに失敗してしまうからです。
ここでポイントになるのが「できるだけInの形に近づけよう」という発想です。sinの係数に「わざと」Inと同じe^(-x)を作ってから、残った部分を積分区間で評価してしまうのです。すると、見事にInが綺麗に残ってくれるので、これでようやく「うまい式」がゲットできます。
私自身、この部分でかなり悩み時間を食ってしまいました・・・(答案の最終形はかなりスッキリしてますが、そこに至るまでに何度も書き直してます)
あとは冒頭の流れで記述してあげればOKです。
<筆者の回答>
(1)の別解です。
第4問
空間図形の問題で、単純な物量という意味では本セットで一番ヘビーです。前段の問題文自体がとても長いですし。
(1)2次曲線の接線の式は公式でスパッと答えられます。もし忘れていても、微分を使うオーソドックスな方法でも簡単に計算できます。
(2) 直線と点を与えて平面の式を答えさせる問題です。問題文自体がヒントになっているので大いに生かしたいところです。今回の場合はFの座標さえ求まればウが簡単に計算できるでしょう。
(3) QRの方は、QとRの座標がストレートに計算できるので簡単です。問題はSTの方です。
SとTは楕円と直線の交点なので、座標を調べるには原則2次方程式を解く必要があります。
ただ、今回の場合は実はS,Tの座標を正確に求める必要はありません。L2とC2を連立してできるxの2次方程式の2つの解α、βがS,Tのx座標に対応しますが、STを調べたければ実は(α-β)^2の式が分かれば十分なんです。そこでピンと来てほしいのが「解と係数の関係」ですね。α+βとαβの式が分かれば(α-β)^2は計算できるんでしたよね。
この工夫をすることで、計算が格段に楽になります。
(4) f(t)の形はかなり複雑です。しかし「極値の有無」を調べなければいけない以上、黙って微分する他ありません。tの部分は全部t^2の形で含まれているので、T=t^2と変換して微分することで多少は計算を楽にできます。
f(t)の導関数が符号変化するか否かがf(t)の極値の有無と直結するので、f'(t)符号変化するかどうかを丁寧に調べていきます。ここでf'(t)の分子が実質Tの2次関数になり、kの値による場合分けが発生してしまいます。
<筆者の回答>