数学の世界には、3つの重要な定数があります。
1つ目は「円周率π」、2つ目は「虚数単位i」で、円周率については既に記事を上げています。そして、今回取り上げる3つ目が「ネイピア数e」です。(iについては後日記事を上げます)
円周率は「円周÷直径」、虚数単位iは「2乗すると-1になる数」といった感じに分かりやすい定義です。それに比べると「ネイピア数e」は少々説明しにくい定数です。
とはいえ、数学ひいては科学の世界で不可欠の数で、特に微分積分の世界でこの数を避けて通ることはできません。
今回の記事では、このネイピア数について解説していきます。
1. ネイピア数の生い立ち
ネイピア数は、実は金融業界から生まれた数です。
借金を借りた場合、元々借りた金額(元本)に加えて利子を返さなくてはなりません。
借金を滞納し続けた場合、「複利」という計算方法で返済金額が膨れ上がっていきます。
例えば、年利が2%だった場合、1000万円借金したとすると、
・1年後の返済金額 = 1000×(1+0.02) = 1020万円
・2年後の返済金額 = 1000×(1+0.02)×(1+0.02) =1040.4万円
・3年後の返済金額 = 1000×(1+0.02)×(1+0.02)×(1+0.02) =1061.1208万円
といった具合に、前年の返済金額全体に利子が適用される形になります。
さて、ここで以下のような設定を考えてみます。
最初に、年利100%という法外な金利設定を考えてみます。
この場合、一年後には元本の1+1=2倍の金額を返さなければなりません。
この時点で大分ぼったくりですが、欲張りな金貸しはもっと利子をふんだくってやろうと企みました。
そこで、半年ごとに半分の金利50%を上乗せして、1年トータルで見かけ上100%の金利になるように設定変更しました。
このとき、1年後の返済金額は、元本の(1+0.5)×(1+0.5) = 2.25倍となります。さっきよりも返済金額が増えましたね。
それをいいことに、もっと区間を区切って利子を設定することにしました。3か月ごとに25%の金利にするわけです。
このとき、1年後の返済金額は、元本の(1+0.25)×(1+0.25)×(1+0.25)×(1+0.25) = 2.44140625倍となります。さらに返済金額が増えました。
このように金利の区間を細かく区切ってしまえば、もっともっと返済金額を増やせると考えられるわけです。
一般に、区間をn等分した場合の1年後の返済金額は、元本の(1+1/n)^n倍となりますが、nを増やしていったときこれがどう増えていくのか?
実は、この倍率は無限大には増えていかず、一定の値で頭打ちになることが知られています(下のグラフ参照)。
この頭打ちになる値は2.71・・・という値で、これこそが「ネイピア数」なのです。
つまりネイピア数eの定義は、
となります。このように、ネイピア数は金融業界における「複利」を最大化する研究の過程で生まれたわけです。
この金融の分野から生まれた数が、後に微積分という科学の根幹で大活躍することになるわけです。
2. eに関する諸公式
まずは前節で登場したネイピア数eの定義、
を全ての出発点にして、eにまつわるいくつかの公式を示しておきましょう。
①式でx=1/nと変換すると、xが正の方向から0に近づく極限になるので、②式のように言い換えることができます。
また、①式では、nを正の無限大に飛ばしていますが、実は負の無限大に飛ばしてもOKです。証明は下のようになります。
この負の無限大に飛ばした場合でもx=1/nの変換をすると、今度はxが負の方向から0に近づく極限になるので②’式になります。
②式、②’式から、どっちの方向から0に近づけても極限がeになるので、③式のようにまとめられます。
さて、ここで、底がa (a>0, a≠1)となるような対数を③式で取ってあげると、
となり、さらに分子の対数を以下のように文字でおいてあげると、
③式は最終的に、⑤式のようになります。
これでとりあえず次節の準備は完了です。
微分や積分といった計算が科学の分野ではたくさん行われるわけですが、そのときに「微分しても積分しても、形が変わらない関数」があると非常にありがたいわけです。
ここでは、そんな関数を探しに行きます。
少々天下り式ではありますが、指数関数f(x) = a^xなんてのはどうでしょうか?
実際に、微分の定義に従って導関数f'(x)を計算してみると、
となって、f'(x)は元のa^xに変な係数がかかった形になり、非常に惜しいことになっています。この変な係数、実は既に登場しています。そう、⑤式です。
yとhという文字が違うだけで全く同じ式になっています。これを使ってあげると、f'(x)は最終的に、
と求まります。
ここで、もしa=eだったら、対数の部分が1になって消えてくれます。つまり、
となるわけです。これは、e^xは微分をしてもe^xのまま変わらないという事です。
微分をしても変わらないということは、その逆の計算である積分をしても変わらないという事です。
これが、ネイピア数eが微積分の分野で大変重宝される所以な訳です。
eを底にした対数を「自然対数」と呼び、eは別名「自然対数の底」とも呼ばれます。
4. eの別の定義の仕方
f(x)=e^xは、このような微積分にとって非常に相性のいい関数なので、以前紹介したテイラー展開が容易にでき、下のようになります。
※テイラー展開については、以下の記事にて取り上げています。f(x)を何回微分しても同じ形のままなので、第n次導関数にx=0を代入した値は常に1になるわけです。
このテイラー展開の式にx=1を代入すれば、下のようになります。
これがeの別の定義の仕方になります。この定義を使うと、eが無理数であることが証明できたりします。
以上、ネイピア数eについての紹介記事でした。