ちょぴん先生の数学部屋

数学の楽しさを、現役メーカーエンジニアが伝授するぞ!

バーゼル問題の証明その1 ~オイラーの証明~

皆さん、こんにちは。

 

今回の記事では、以前ご紹介したバーゼル問題

を証明しようと思います。

 

バーゼル問題の紹介記事

stchopin.hatenablog.com

様々な証明の仕方がありますが、1本目の今回は、第1発見者のオイラーが見つけた証明方法をご紹介します。これが最も分かりやすい証明だと思います。

 

<証明の概略>

オイラーの発見した証明方法は、大まかには以下のような流れになります。

 

sinxを2通り(1. テイラー展開, 2.無限積表示)で表す→3.係数比較

 

ということで、上記の3ステップで証明していきます。

 

[Step1: sinxのテイラー展開]

 

テイラー展開」とは、関数を多項式の和の形で書くことです。式にすると①式のようになります。

f:id:stchopin:20210510102343p:plain

anの一般項は、①式をn回微分してx=0を代入することで求まります。

f:id:stchopin:20210510102652p:plain

①②をまとめると、一般に関数f(x)のテイラー展開は③のようになるわけです。

f:id:stchopin:20210510102808p:plain

 

さて、今回の証明ではsinxをテイラー展開したいので、f(x)=sinxを代入します。

sinxは微分を繰り返していくと、cosx→ -sinx→ -cosx→ sinx→・・と4周期でループするので、x=0を代入した値は④式のようになります。

f:id:stchopin:20210510103140p:plain

ここで、n≡1(mod4)は、nを4で割った余りが1、という意味です。

 

④式の結果を反映させれば、sinxのテイラー展開は下のようになります。

f:id:stchopin:20210510103330p:plain

奇数次の項だけが生き残って、プラスとマイナスが交互になる、そんなテイラー展開になっています。

これでStep1は終了です。

 

[Step2: sinxの無限積表示]

 

Step1ではsinxを足し算の形で表現していきましたが、今度はsinxを掛け算の形で表現していきます。

ここで、y=sinxのグラフを思い出すと、sinxは「xが円周率πの整数倍の時」0になるのでした。数式化すると⑤式のようになります。

f:id:stchopin:20210510103921p:plain・・・⑤

 

このとき因数定理を使うと、sinxは以下のように因数分解できそうです。

f:id:stchopin:20210510104055p:plain

x-(πの整数倍)を全て掛け算した格好です。しかし、このままでは不都合です

 

この因数分解の式を展開してみてください。例えば1次の係数が

π×2π×3π×・・・・・となって無限大に飛んで行ってしまいます。これはStep1で証明したsinxのテイラー展開の式

f:id:stchopin:20210510103330p:plain

と明らかに矛盾します。

 

ということで、因数定理の本質を損ねず、かつテイラー展開の式と矛盾しないように因数分解の書き方を工夫してみましょう。

その極意は、1次の係数が「1」となるようにすればよいのですから、下のようにしてはどうでしょうか?

f:id:stchopin:20210510104659p:plain

この(B)式のように因数分解すれば、x=0,π, 2π・・を代入すれば0になるという因数定理の本質を失わず、かつ先頭のx以外の定数項だけ全てかければ1なので、1次の係数は1になります。

この(B)式が、sinxの無限積表示となり、Step2も終了です。

 

[Step3: (A)(B)の係数比較]

 

これで役者は揃ったので、バーゼル問題を証明していきます。

 

(A): sinxのテイラー展開、(B): sinxの無限積表示、を再掲します。

f:id:stchopin:20210510103330p:plain

f:id:stchopin:20210510104659p:plain

両者は、同じsinxという関数を2通りで表現したものなので、(B)を展開したときの係数は(A)の係数と当然一致しているはずです。

 

ということで、(B)を展開します。

(B)式の上下のカッコは「和と差の積」になっているので、先に計算してしまうと下のようになります。

f:id:stchopin:20210510105541p:plain

先頭のx以外のカッコの部分を一気に展開します。定数項と2次の項以外はどうでもよいので、この2つのみに着目すると(B)'式のようになります。

f:id:stchopin:20210510105731p:plain

これで、直接(A)(B)式が係数比較できる形になりましたので、3次の係数を比較してあげると、、、

f:id:stchopin:20210510105904p:plain

 

となって、見事バーゼル問題が証明されました!!

 

最初にsinxを使おうと思いついたオイラーは流石の天才だと思いますね。。。

このようにしてオイラー「ただの分数の足し算なのに、最終的に円周率πが登場する」という奇妙で美しい真理に辿り着いたわけです。

 

ということで、オイラーバーゼル問題の証明でした。