皆さん、こんにちは。
今回は、以前紹介したバーゼル問題(バーゼル問題 カテゴリーの記事一覧 - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )に類似したいくつかの極限について紹介していこうと思います。
1. ゼータ関数ζ(s)のs=正偶数における値
1-1. ゼータ関数
まず、ゼータ関数という概念を導入しましょう。
このように、「自然数のs乗」を全て足してできる値で定義され、この値が0になるようなsは何か?という予想が、リーマン予想でしたね。
リーマン予想って何だろう? - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
このゼータ関数にs=1を代入したものが「調和級数」で∞に発散するんでした。1+1/2+1/3+1/4+・・・=? - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
s=2を代入したものが、いわゆる「バーゼル問題」で、値はπ^2/6になるんでしたね。
バーゼル問題 1+1/4+1/9+1/16+・・・ = ? - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
今回は、sが他の値の時にこのゼータ関数の値はどうなるか、具体的にはsが正の偶数の時どうなるか、について調べていきます。
1-2. ζ(2l)=?
この値を求めるには、2つの知識が必要なので先に紹介します。
1つ目は、前回の記事で紹介した「ベルヌーイ数」です。
シグマ公式を生み出す数列 ~ベルヌーイ数~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
2つ目は、sinzの無限積表示です。
この公式のうち、中辺についてはオイラーの公式から自明であり、右辺については、いわばsinzを多項式だと思って因数分解したものになります。sinzはzが整数の時に0になり、sinz/z→1 (z→0)なので、係数含めて辻褄が合っています。
(オイラーの公式 数学界のKingとQueenは、愛で結ばれた・・~世界で一番美しい数式、オイラーの等式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
無限積表示については、以前バーゼル問題の証明その1 ~オイラーの証明~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)で触れています)
ここで、注意してほしいのは、この②は「zに虚数を入れても成立する」ということです。というより、この公式で「複素数のsin」を定義する、といった方が実態に近いです。
この後の式変形で、zに虚数を突っ込むのですが、数学的に正しい行為なので特に気にしないで大丈夫です。
前置きが長くなったので、導出に移ります。
②に、
を代入すると(ここでuはとりあえず0<u<1となる実数だと思って下さい)、次のように式変形が進みます。
最後の行では、積のままだと扱いにくいため対数を取って和の形に直しています。
この状態で両辺をuで微分すると、比較的綺麗な形になります。
(この④式は後半でも再度使うので、記憶しておきましょう)
さて、左辺には「ベルヌーイ数の母関数」に近い形が、右辺には「バーゼル問題」に近い形が出て来ましたね。
ということで、さっそく左辺にベルヌーイ数を代入してしまいましょう。すると、
このように余計な項が消えてかなりスッキリします。
ここから、テクニカルですが次のように変形を行います。
1行目から2行目で何が起こったか?実は、「無限等比級数」の式を利用しています。
少しシンプルに見せるとこういう感じです。
3行目から2行目の変形がまさに無限等比級数の和の計算そのものになっていて、これは公比が虚数であっても(絶対値が1未満であれば)成立します。今回uは0<u<1だと設定したので、u/2nπは1未満となり条件をばっちり満たしています。
話を戻すと、このようにして2つの無限級数を登場させることができたので、中身をまとめていきます。
最終的に、お目当てのゼータ関数ζ(2l)が顔を見せましたね。
この⑤がuの恒等式になっているので係数比較をすればよく、結局、
と知りたいものが求まりました!このように、sが偶数の時のゼータ関数の値はベルヌーイ数を使って書くことができるわけです。
具体的には下のような感じですね。
シグマ公式を作るベルヌーイ数が、こんなところにも顔を出すのはとても興味深いですね。そして、その全てに円周率が登場しているのも美しいポイントです。
なお、今回はsが正の偶数の時を紹介しましたが、sが3以上の奇数の時はゼータ関数の値が数値的にしか分かっておらず、偶数の時のような綺麗な表示は今のところ見つかっていません。
2. ζ(2)の分母の拡張
次にバーゼル問題ζ(2)=π^2/6で、シグマの中身の分母に定数項を追加したものの値がどうなるかを調べてみます。
ベースは、先ほど登場した④です。
2-1. Σ1/(n^2+a^2)の無限和
④でuの値を
として代入すると、
となります。そこそこシンプルな式になりましたね。
この式でa→0としたものがバーゼル問題そのものになるのですが、高校数学の範囲でこの極限を計算することは困難です。
ここで、よく「高校数学では禁じ手」と呼ばれている「ロピタルの定理」を使ってみましょう。
ロピタルの定理は、0/0、∞/∞, ∞-∞といった不定形になる極限計算で有効な手段で
というものです。要するに、
「不定形になるなら分母分子をそれぞれ不定形が解消するまで繰り返し微分して、不定形が解消してから極限を取ればいい」ということです。
厳密さには欠けますが、証明は大体次のような感じです。
今回の場合は、∞-∞の不定形になっているためロピタルの定理が使えて、
このように、ロピタルの定理を3回適用することで極限値がπ^2/6となっていることが確かめられます。
さらに、aが正なら分母が0になる心配がないのでnの動く範囲を0以下の整数に広げることができ、今回はnの偶関数になっているので、
のように、非常にすっきりした形になります。
この場合はa→0とすると発散しますが、それはn=0のときに1/0が出現するので納得の結果です。
2-2. Σ1/(n^2-b^2)の無限和
上では分母の定数項が正の場合を考えましたが、同様に定数項が負の場合を考えます。
このときは、④で
という純虚数を代入すればOKです。
(※④を導出する際は便宜上uを正の実数としていましたが、実はuが一般の複素数(0を除く)でも特に問題のない変形になっています。この辺りを正当化するには「複素関数論」を触っておく必要がありますが、本筋から離れるのでここでは省略します。)
これで同様の計算を行うと、
と求まります。
さらに、こちらについても同様にnの範囲を整数全体に拡大すると、
というシンプルな形になります。
分母にtan(βπ)があることに注意すると、特にβが整数の時はtan(βπ)=0となってこの和が発散することが分かります。これは、n=±βのときに分母が0になることから納得できます。
さらに興味深いことに、βが半整数(奇数÷2のこと)のときtan(βπ)=±∞となることからこの和が0になることが分かります。これは直感的に理解しにくい不思議な結果です。
私は、さらに拡張してΣ1/(n^2+an+b)という分母に1次式を加えたものの無限和がどうなるかにも興味がありますが、残念ながら導出方法がわかりませんでした。もし、それを知ってるよという人がいれば、ぜひコメントください。
ではでは。