皆さん、こんにちは。
今回は、以前紹介したこの記事
1+2+3+・・・= -1/12 !? ~解析接続の不思議な世界 その1~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
に引き続き、「解析接続」を使うことで得られる不思議な結果をご紹介します。
前回は「自然数の和」でしたが、今回は「自然数の積」についてです。
1. ゼータ関数・エータ関数
まずは導出の準備のために、「ゼータ関数」を導入します。
リーマン予想でおなじみの関数ですが、この関数は本来s>1のときしか(絶対)収束しません(※sの範囲を複素数まで考えればsの実部>1で絶対収束します)。
しかし、解析接続を使うことで、無理やりs=1以外のすべての複素数値にsの定義域を広げることができます。
今回のような「自然数の無限積」を導出する際には、本来収束域に入っていないs=0での値を使う必要があるので、それを解析接続で無理やり正当化してるというわけです。
その点にご注意ください。
1-1. 関数等式
ゼータ関数のs=0での値ζ(0)、そしてs=0での微分係数ζ'(0)を求めるために、次のような関数「エータ関数」を新たに導入します。
ゼータ関数と基本的には同じような和ですが、偶数の項にマイナスをつけて足しているのがゼータ関数との違いです。
このエータ関数η(s)を、ゼータ関数ζ(s)で表してみましょう。
ゼータ関数から偶数の項を2個分ずつ引いたものがエータ関数となるので、次のように計算できます(※)。
2行目のように、2^sで括ることで無理やりゼータ関数を出現させているのがポイントです。
(※本来、無限級数の計算の順番は慎重に取り扱う必要がありますが、s>1ではゼータ関数は「絶対収束」という強い収束をするので、特に順番を気にすることなく計算できます「無限」には常識が通じない その1 ~足し算の順番を変えると答えが変わる?~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)。s=0では「絶対収束」しないのですが、今回はs>1で成り立つ最終結果はs=0でも成り立つはずだ、という「解析接続」の心で正当化させます。以後の似たような式変形も同じロジックで正当化します)
これで関係式ができたので、これをもとにs=0での値を考察していきましょう。
1-2. ζ(0)の値の導出
まずη(0)の値を解析接続を使って求めてみましょう。そのベースが無限等比級数の式です。
この式は本来は|r|<1でしか成立しない式ですが、それを解析接続を使ってr=-1にも拡張してあげます。r=-1としたものはη(0)の値そのものになるので、
となります。
この結果を、上記で求めた関数等式④に代入すると、
となって、ζ(0)が求まりました。
雑に解釈すれば、この式は、1を無限個足すと-1/2になると言っています。この時点で十分奇妙です。
1-3. ζ'(0)の値の導出
次に、s=0での微分係数ζ'(0)を調べてみましょう。
まずエータ関数を別の形に変形していきます。
エータ関数を2倍して項の数を増やし、足し算の順番を変えてあげると次のようになります。
一見余計に難しい形になって遠回りに見えますが、この変形をしておくことで微分係数が綺麗に求まるのです。
この状態で、sで両辺を微分すると次のようになります。
底がeではない指数関数を微分すると、係数としてlog●が余計につくことに注意します。この式で、s=0を代入することで、
となります。
2→3行目では項を奇数と偶数に分け、3→5行目ではlogの和を積の形にまとめています。5行目のlogの中身が以前紹介したウォリス積(分数を無限に掛け算すると円周率になる? ~ウォリス積~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com))そのものになっているので、値が綺麗に求まります。
よって、関数等式④を両辺sで微分して、s=0を代入してこれまでの結果を使うと、
これで「自然数の無限積」を求める準備は完了です。
2. 自然数の無限積
ゼータ関数の元々の形
をsで微分すると、
となるので、s=0を代入すれば、
で、見事、自然数の無限積=√2πだと分かりました!
以前の「自然数の無限和=-1/12」も十分すぎるほど不思議な結果でしたが、今回もそれに負けず劣らずの摩訶不思議な結果でした。解析接続は色々と奥が深そうです。
3. 素数の無限積
話はまだ終わりません。同じ議論を続けると、今後は「素数の無限積」も計算できてしまいます。以下ではそれについて紹介します。
ゼータ関数には、①のような和の形だけではなく、②のような素数の積の形でも表現できるのでした。(導出は、こちらの記事をご覧ください素数は無秩序なんかじゃない! - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )
この式で対数を取ると、
となります。以後、この式を変形していきます。
ここで、
という関数をテイラー展開すると次のように求まります。
(テイラー展開については、この記事で触れています。バーゼル問題の証明その1 ~オイラーの証明~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )
この関係を使って⑩を変形すると、
のようにゼータ関数の別表現が求まります。
(※ここで、expは「eを底とする指数関数」の意味です。指数の肩がゴツくなると小さく書けなくなるため、よくこのような表記がされます)
この⑬をsで微分すると、
このように微分係数と元の関数の比が求まるので、
この式でs=0とすれば、
このように素数の無限積が4π^2だと求まります!
自然数の無限積が√2πで、それよりも少ない要素(素数だけ)の無限積のはずのなのに、値は4π^2>√2πで超えてしまってます。。。。解析接続で無理やり求めた値だとは言え、直感に合わず不思議ですね。