ちょぴん先生の数学部屋

数学の楽しさを、現役メーカーエンジニアが伝授するぞ!

階乗を近似計算する式 ~スターリングの公式~

皆さん、こんにちは。

 

今回は、「階乗」の近似式である「スターリングの公式」について紹介します。

1. スターリングの公式とは?

 

スターリングの公式とは、タイトルにも書いた通り、「階乗」の近似値を計算する式で、具体的には次の式です。

n!はnが十分大きければ大体n^(n+1/2)で近似できるという主張で、その式にπやeといった重要な超越数が登場してるのが興味深いところです。

(※超越数についてはこちら俺は、方程式を超越する!! ~超越数~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

実際に、両辺の比をグラフにすると、下のように1に収束していきます。

「nが十分大きいとき」という但し書きがありますが、実際にはn=8くらいで既に誤差が1%程度になっていて、n=30程度でも誤差が0.3%程度という、かなり精度の良い近似になってることが分かります。

 

なぜこんな近似を行うかと言えば、n!の計算には不便な以下2つの特徴があるからです。

1. 1からnまでのすべての整数を用意して掛け算しないといけない

2. nが整数という離散的な数なので、微分積分と相性が悪い

 

1は、普通の関数であれば「n」という数字さえあれば計算できるのに、n!の場合はn個の整数を全部準備しないといけないのが面倒だよね、という話で、

2は、ある関数がおよそどういう振舞い方をするかを分析するには微分積分が便利なのですが、微分積分は「連続的に変化する量」に関する計算なので、1ずつしか変数が変化しない階乗とは相性が良くないね。ということです。

 

そんな不便な点を、nの情報だけで計算でき、なおかつ連続関数として考えられる式に置き換えることで解消しよう、というのがこの近似のモチベーションです。

 

なお、この公式の両辺で対数を取ることで、もっと大雑把な近似式ができます。

nに比べてlognや定数項(log√2π)はとても小さいため、これらの項を無視してしまえ!という近似方法です。

 

こちらの粗い近似だと、下のグラフのような収束の仕方になります。

この場合はn=100でも誤差が1%程度出てしまうので、やはり元の近似よりは精度が悪いです。しかし、実用上はほとんど気にならないレベルであり、nに対する大雑把な振舞い方を知りたいだけの場合が殆どなので、物理や工学の分野ではより計算しやすいこちらの方がよく使われ、こっちの方が「スターリングの公式」と呼ばれる場合が多いです。

 

以上余談でした。

 

ということで、元の形の「スターリングの公式」を証明していきましょう。

 

2. スターリングの公式の証明

 

「近似」という概念は、数学的に厳密ではなく証明するにあたり扱いにくいので、

という数列を考えたときに、n→∞の極限で

となることを証明する、という形をとることにします。

 

⑯の証明は、初見ではまず思いつかないであろう、テクニカルな証明です。

 

まず、anの前後の比に対して対数を取ってあげると、

となります。

3行目→4行目で、logをわざわざ積分の形に書き換えているのは、後でこの対数の値を不等式評価しはさみうちを行うのですが、積分の形の方が不等式評価しやすいからです。ここがテクニカルポイントその1です。

 

ここで、y=1/xのグラフを考えてあげると、面積の大小から下のような不等式評価ができます。

y=1/xは下凸のグラフなので、x=n+1/2での接線は必ず曲線の下に来て(左辺)、両端の点を結んだ線分は必ず曲線の上に来ます(右辺)。そして、中辺はさっき作った積分の形そのものです。

 

これらの面積を数式に落とし込めば、次のような不等式が作れます。

この⑱を使って元の対数を評価すると、

となります。この状態で、各辺で番号をn~2n-1としたもので和を取れば、

という、anとa2nとの比に関する評価式ができます。この「敢えてanとa2nの比を作る」部分がテクニカルポイントその2です。(※右辺のΣは、部分分数分解を使って間を次々相殺していくタイプで計算可能です)

 

この段階でn→∞をすれば、はさみうちにより、

が言えます。

 

ここで、さらに(an)^2とa2nの比を考えるのがテクニカルポイントその3です。

実際にこの値を計算してみると、

となります。㉒の右辺の形、どこかで見覚えありませんか?

 

ここでn→∞の極限をとると、なんとウォリス積(その2)が登場して計算できてしまいます。

(ウォリス積についてはこちらウォリス積 ~分数を無限に掛け算すると円周率になる~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

左辺でan1つ分を分離させれば、㉑でanとa2nの比が1に収束することを調べていたので、

お目当ての式が求まりました!これで証明完了です。

 

かなり発想力が要求される難しい証明でしたね・・・

この証明方法は難しいですが、スターリングの公式は実用でもよく使う近似式なので、結果(特に大雑把版の方)は覚えておいて損はないです。

 

ではでは。