皆さん、こんにちは。
今回は、「ウォリス積」と呼ばれる無限個の分数の掛け算について紹介します。
1. ウォリス積とは?
ウォリス積とは、次の2種類の無限積(=無限級数の掛け算バージョン)のことです。
その1の式の左辺は、分子は「偶数の2乗」・分母は「分子の偶数より1小さい奇数と1大きい奇数の積」となっている分数を無限に掛け算したものになっていて、その結果が円周率の半分になると言っています。
その2の式の左辺は、分子は偶数を小さい順にかけたもの、分母は奇数を小さい順にかけたもの、になっていて、その全体を√mで割ってm→∞の極限を取っています。その結果が円周率の平方根になるといっています。
ただの分数を掛け算してるはずなのに、それを無限個かけると円周率が登場するという不思議な関係式になっています。
とりあえず、この2式を証明したいと思いますが、実は高校数学の知識で証明することが可能です。
2. ウォリス積の証明
2-1. その1の証明
ウォリス積を計算するとっかかりの道具は、下のようなsinの積分Inです。
このInの一般項を計算し、その結果を利用することでウォリス積が導出されることになります。
まず、このInが(広義)単調減少数列であることを示しておきます。
積分区間である0≦x≦π/2では、sinxは0≦sinx≦1の値を取ります。公比が0以上1以下の等比数列はどんどん減少していく数列となる(※)ので、
Inの中身はnが増えるほど小さい値になっていきます。
(※今回の「単調減少」は、「前後で変わらない」も含めた広い意味で定義しています。だから公比が0や1のように前後で変わらない場合も含めています。こう定義しても、以下の議論には大きく影響しません)
よって、中身が0以上の値で単調減少するなら、その積分値であるInも単調減少することになります。
次に、In自体を計算していきましょう。部分積分を使うと、
のように、Inの漸化式③ができます。
cosが出てきてくれると積分計算がしやすくなるので、最初に(sinx)^2を無理やり引きずり出して計算を進めています。
③は番号が2個飛びになっている漸化式なので、一般項を求める際はnの偶奇による場合分けが発生し、それに伴って初項はn=0のときとn=1のときの2種類が必要です。
ということでこの2種類の初項を計算すると
となるので、nの偶奇で場合分けしてInの一般項を求めてみましょう。
nが偶数の時、漸化式③を繰り返し使うことで最終的にI0を使った式でInが書けることになります。
nが奇数の時も全く同様です。
ここで、!が2つ並んだ数(2重階乗)が登場していますが、次のような意味です。
要するに、奇数だけを小さい順に掛け算したもの、偶数だけを小さい順に掛け算したもの、となります。この2重階乗を導入することで式がスッキリしますので、以後この記号を使っていきます。
さて、冒頭でInが単調減少だと示していたので、隣り合う3つの項は次のように不等式評価できることになります。
ここまでくれば、何がしたいか、およそ察しが付くでしょう。「はさみうち」です。
⑧の右辺がπ/2だけになるように全辺に係数をかけてあげれば、
となります。真ん中の形こそが、お目当ての積ですね。
(※ΠはΣの掛け算バージョンの記号です)
これで、m→∞ではさみうちすれば、
となって、お目当ての式が計算できました。
実際にグラフを書けば、確かに左辺が右辺に収束していく様子が分かりますね。n=25でズレが1%未満、n=250でズレが0.1%未満になります。
2-2. その2の証明
その2の証明も、途中まではその1と全く同じです。
違うのは、Inの不等式の作り方です。その1では奇数番目を真ん中にして不等式を作りましたが、その2では偶数番目を真ん中にして不等式を作ります。
その上で、右辺が1/πだけになるように係数をかければ、
となります。これでm→∞ではさみうちを使って逆数を取れば、
その2の式も証明できました。
グラフにすると下のような感じです。
分母に余計に√nの応援が入っているおかげで、その1よりも収束スピードは若干早くなり、n=13でズレが1%未満に、n=126でズレが0.1%未満になります。
その2式を、2重階乗を解消した形にすると、
2重階乗が次のように通常の階乗で書き直せるので、
次のようになります。
この式を使うことで、「階乗の近似式」である「スターリングの公式」が導出できるのですが、その紹介は次回に回します。
ではでは。