ちょぴん先生の数学部屋

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「無限」には常識が通じない その1 ~足し算の順番を変えると答えが変わる?~

みなさん、こんにちは。

 

今年もあっという間に年の瀬になってしまいました。

 

ということでこの年末年始は、「無限」に関わる不思議な話を2回に分けてお送りいたします。

前編の今回は、「足し算の順番」に関するお話です。

(後編は、元日投稿する予定です)

 

小学校から高校に至るまで、「足し算は順番を入れ替えてもいい」というのが当然の常識でした。

 

例えば、1+2+3+4+5+6+7+8+9を計算しようと思ったら、うまく順番を入れ替えることで、

1+2+3+4+5+6+7+8+9= (1+9)+(2+8)+(3+7)+(4+6)+5=10+10+10+10+5=45

と楽に計算できるのでした。このように、「有限個」の足し算については、足し算の順番を自由に入れ変えてよかったわけです。

 

しかし、「無限個」の足し算については、必ずしも順番を入れ替えて良いとは限らなくなります。

今回は、このような有限個の足し算での常識が、無限個の足し算には通じなくなってしまうという話をしていきます。

 

1.収束しない足し算の場合

まずは、そもそも収束しない「いかにも順番を入れ替えたらダメそう」なものについて紹介します。

 

以下のような、1と-1を交互に足していく級数を考えます。

これは0と1の間を行き来する、収束しない級数になっています。

(解析接続というテクニックを使うと、無理やり収束させることができたりしますが・・・詳しくはこちらの記事をご覧ください。1+2+3+・・・= -1/12 !? ~解析接続の不思議な世界~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

さて、この足し算を、2つの隣り合った数字を括弧で括って計算していきたいのですが、その括弧の付け方で足し算の結果が変わってしまうことになります。

 

例えば、頭の1から(1-1)と括ると、下のように足し算の結果は0になります。

一方で、頭の1は残して、後に続く-1から(-1+1)と括ると、下のように結果が1になります。

括弧の括り方を変えるのは、足し算の順番を変えることと同じなので、この場合、確かに順番を入れ替えると結果が変わることが分かります。

 

上記はそもそも収束しない場合なので、入れ替えたらおかしくなることはさほど不思議じゃないと思います。

 

しかし、実はちゃんと収束する足し算であったとしても、順番を入れ替えると結果が変わってしまうことがあるのです。

 

2.収束する足し算の場合(メルカトル級数

下のように、奇数の逆数は+、偶数の逆数は-にして交互に足した足し算はメルカトル級数と呼ばれ、log2に収束することが知られています。

これは、高校数学の範囲で証明することができます。以下、証明を簡単に載せておきます(区分求積法を使います)。

 

 

さて、この足し算の順番を「奇数+奇数-偶数」となるように入れ替えてみましょう。

この足し算を計算してみることにします。

 

まず、元のメルカトル級数の式全体を半分にします。

その半分にした式は、間に0をはさんでも結果が変わらないので、

とできます。この状態で①と③を各項ごとに足し算すれば、

となって、元のlog2とは違う結果になってしまいます!!

 

このように、元々log2になるはずの足し算が、順番を入れ替えただけで答えが変わってしまうのです!

 

この時点で十分不思議なのですが、この後もっとびっくりするような話が出て来ます。

 

3. 順番を変えても大丈夫な条件は? 

さて、上記のメルカトル級数は、順番を入れ替えると答えが変わってしまう「無限個の足し算」でした。こんな風に順番を入れ替えただけで答えが変わってしまうようでは、計算に不便ですよね。

 

ということで、今までの感覚通りに「順番を入れ替えても答えが変わらない」、つまり「自由に順番を入れ替えていい」のはどういう場合なのか?について述べます。

 

これは、無限級数が「絶対収束」する場合に、入れ替えてもOKになります。

 

「絶対収束」というのは、各項の絶対値を取って和をとっても収束することを指します。

 

前に「オイラーの公式」を証明する際、無限個の足し算の順番を何気なしに入れ替える場面が発生していました。数学界のKingとQueenは、愛で結ばれた・・~世界で一番美しい数式、オイラーの等式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

(2行目から3行目で、足し算の順番の入れ替えが発生しています)

 

これは、元のe^xのテイラー展開の式が「絶対収束」する足し算だったからこそ自由に入れ替えて構わなかった、ということになります。

 

 

逆に、収束こそすれど絶対収束しない場合を「条件収束」といいます。

 

上記のメルカトル級数の場合を見てみると、各項を全てプラスに変えて足し算すると、いわゆる「調和級数」になります。調和級数は発散することが知られている(1+1/2+1/3+1/4+・・・=? - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )ので、メルカトル級数は「条件収束」する、ということになります。

 

絶対収束しない級数だから、順番を入れ替えると答えが変わってしまった、という話になります。

 

4.うまく順番を変えると、あらゆる値に収束させられるし、発散もさせられる(リーマンの再配列定理)

 

メルカトル級数のような「条件収束」する足し算の場合、こんなトンデモな定理が成り立ちます。

これ、にわかには信じられないですよね・・・

 

果たしてこれが本当なのか感覚的に説明してみます。

 

まず、「1」に収束させる方法は下のようになります。

 

1を超えるまではひたすら「奇数」の項を足し続けて、1を超えたら1/2を引き、そこからまた1を超えるまでひたすら奇数の項を足し続けて、1を超えたら1/4を引く。

 

このように「1を超えるまで奇数の項を足し続け、超えたら偶数の項を引く」というプロセスを延々と繰り返すのです。これは、調和級数が発散するからこそできる芸当です。

 

同じような操作は「1」に限らず、ありとあらゆる実数に対して使える方法になっているので、「うまく順番を変えれば、ありとあらゆる実数に収束させられる」ということが分かります。


次に発散させる方法ですが、

 

1を超えるまで奇数の項を足し続け、超えたら1/2を引く。次に2を超えるまで奇数の項を足し続け、超えたら1/4を引く、・・・・・というように、目標値を1ずつ増やしていけば、最終的に発散させることができるというわけです。

 

まぁ、何とも不思議な性質ですね。。。

 

 

というわけで、「無限個の足し算」は、必ずしも順番を自由に入れ替えて良いとは限らないので注意が必要です。入れ替えようと思ったら、きちんと「絶対収束」するかどうかを確かめる必要があります。

 

ではでは、皆さま、良いお年を。