ちょぴん先生の数学部屋

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ネイピア数eが無理数であることの証明

皆さん、こんにちは。

 

今回の記事では、ネイピア数eが無理数であることを証明したいと思います。

 

ネイピア数とは、別名「自然対数の底」と呼ばれ、これを底にした指数関数は微分しても積分しても形が変わらないので、微積分を使う上では避けて通れない超重要な数となります。ネイピア数そのものについては、後日別記事を上げる予定なので、お楽しみに。

 

ネイピア数には様々な定義の仕方がありますが、今回の証明では以下の定義を使います。

f:id:stchopin:20210504164554p:plain

すわわち、階乗の逆数を無限個足したもの=ネイピア数という定義です。

 

では早速証明に入っていきましょう。

 

<証明>

 

証明には、背理法を使います。つまり、「eが有理数と仮定し、矛盾を導く」という流れです。

 

Step1. 背理法の仮定

 

上記の通りに、eが有理数だと仮定します。つまり以下のようにeを表現できると仮定します。

f:id:stchopin:20210504165250p:plain

b=1としてしまうと、eが整数と言う事になりますが、e=2.71・・で明らかに整数ではないので不適です。なのでb≧2という制限をかけておきます。

 

Step2. 矛盾を導く

 

eの定義を再掲します。

f:id:stchopin:20210504165652p:plain

ここで、仮定したeの分母bを境にして、階乗のうちb以下の部分と、bより大きい部分に分けることが今回の証明の肝です。

 

今②式の両辺にb!をかけてみましょう。

f:id:stchopin:20210504165920p:plain

③式の右辺に注目すると、和のうちb!以下の部分については、b!をかけることで全て整数になります。なぜなら、0!~b!は全部b!の約数だからです。

 

一方、③式の左辺は、①式の仮定から整数になります。なぜなら、b!はbで割り切れ、

e×b! = a÷b×b! = a×(b-1)!となるからです。

 

これらを考慮すると、③式の残りの部分

f:id:stchopin:20210504170605p:plain

整数でないといけない、と分かります。整数ー整数は整数になるはずですので。

 

ところが、実はこの部分が整数でない、と言えてしまうのです。これが矛盾となるわけです。

 

分母にある、b+2, b+3,・・・・は全てb+1より大きいので、全部をb+1に置き換えた数は、元の数よりも必ず大きくなります。

この性質を使って評価すると以下のようになります。

f:id:stchopin:20210504171018p:plain

2行目から3行目の場面で等比数列の無限和の公式を利用しています。

 

この評価から、

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は、0より大きく1より小さいことが分かりました。

(このときに1「以下」となると不都合だったのでStep1の段階でb≧2としたわけだったのです)

 

「0より大きく1より小さい数」は、0.・・という数なので、絶対に整数になりえませんね。

 

これで、「整数になるはずがない数が、eが有理数だと仮定すると整数になってしまう」ということで矛盾が導けました。以上から、

 

「eが有理数だという仮定が誤りで、eは無理数である」

 

背理法により示せたことになります(Q.E.D)。

 

<証明全景>

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このように、ネイピア数eが無理数であることは、比較的容易に証明することができます(大学入試では、誘導付きで出題されてもおかしくないレベル)。

 

ところが、数学の世界でeと同じくらい重要な数である円周率πについては、無理数であることを証明するのがかなり難しいです。

 

ということで、次回は、円周率πが無理数であることを証明しようと思います。