皆さま、こんにちは。
今回の記事では、「完全数」について紹介します。
前回紹介した「メルセンヌ素数」と非常に深い関係のある数なので、まず前回の記事をご覧いただくことをオススメします。
1. 完全数とは?
まず、完全数とは、
「自分自身以外の正の約数をすべて合計すると、それ自身になる自然数」
のことです。
このままでは分かりにくいと思うので、具体例を挙げます。
例えば、6は最小の完全数です。
6の約数は、1,2,3,6の4つあります。このうち6自身以外を全て足すと、
1+2+3=6
となり、6そのものになりました。
同じように、2番目に小さい完全数である28についても、28の約数は1,2,4,7,14,28の6つあり28以外を全て足すと、
1+2+4+7+14 = 28
となり28そのものになります。
数式で書くと下のようになります。
ここでS(N)は、Nの正の約数をすべて合計した値です。N自身以外の約数の合計がNになるのですから、それにNを足せば合計は2Nになりますよね。
2. 偶数の完全数
実は、完全数のうち偶数の物は必ず以下の形に書けることが知られています。
n=3を代入すればN=6, n=5を代入すればN=28となって、上に例を挙げた完全数が確かに求まります。
ここで重要なのが、「2^n -1が素数」という部分です。これは、前回紹介した「メルセンヌ素数」の定義そのものです。つまり、この定理の意味していることは、「偶数の完全数とメルセンヌ素数は一対一対応している」ということであり、「メルセンヌ素数が見つかれば、それに対応する完全数も同時に必ず見つかる」ということです。
古代ギリシャの時代から完全数を見つける研究は続けられていますが、それは「メルセンヌ素数」を見つければ必要十分に達成されることになるわけです。
以降では、この定理を証明してみることにします。高校数学のレベルで十分に証明できる題材で、大学入試の整数問題のエッセンスが山盛りです。
3. 偶数の完全数が 必ずN=2^(n-1) * (2^n -1) で書けることの証明
証明は2段階に分かれます。十分性の証明「N=2^(n-1)*(2^n -1)ならば、Nは完全数である」と、必要性の証明「Nが完全数ならば、N=2^(n-1)*(2^n -1)の形に限る」です。
まず簡単な十分性の証明を先にやり、次に難易度の高い必要性の証明を行っていきます。以後、メルセンヌ素数2^n -1 をMと書き、Nの約数の合計をS(N)と書くことにします。
(Step1 : 十分性「N=2^(n-1)*Mならば、Nは完全数である」の証明)
Nの約数は、1,2,・・・, 2^(n-1), M, 2M,・・・, 2^(n-1)Mの2n個あるので、それらを素直に合計してS(N)=2Nを確かめればお終いです。途中、等比数列の和の公式を使用しています。
こちらの知見は、古代ギリシャの時代にはすでに知られていました。しかし、これだけでは「この形以外の偶数の完全数が存在するかもしれない」という可能性が排除できていません。
ということで、次は必要性の証明に移ります。こちらは難易度が高く、初めて解いたのは大天才オイラーです。とはいえ、高校数学の範囲で証明可能です。
(Step2 : 必要性「Nが偶数の完全数ならば、N=2^(n-1)*Mである」の証明)
これは「偶数の完全数には、N=2^(n-1)*Mの形以外の物は存在しない」と言い換えられます。
まず、偶数を一般的な形で表記すると、
と書けます。どんな偶数も、素因数2をいくつか持っていてそれらを全て取り除いた残りカスは必ず奇数になる、ということです。
「この残りカスの奇数Mが、実はメルセンヌ素数2^n -1しかありえない」と言う事が証明できればOKということになります。
このNを使って、S(N)=2Nという完全数の定義から式変形を進めると下のようになります。
1行目から2行目の変形で、次のような性質を使っています。
「互いに素な自然数P,Qに対して、S(PQ) = S(P)×S(Q)」
P,Qに具体的な数字を入れてみれば、比較的簡単に証明できますので、是非やってみてください(ここで紹介すると本筋が見えにくくなるので割愛)
Mが奇数で2とMは必ず互いに素になりますから、この性質を使うと、
S( 2^(n-1) × M) = S( 2^(n-1) ) ×S(M) となるわけです。
次に、③の式を見ると、2^n -1 と2^nは隣り合う自然数なので、必ず互いに素になります。
ということは、この時点で「Mが2^n -1 の倍数でないといけない」と分かります。
つまり、Mは2^n -1のa倍、となります(Mは奇数なので、aは奇数です)。
このとき、
A. 実はa=1である
B. 2^n -1 が素数(つまりメルセンヌ素数)でないといけない
の2つが言えてしまえばゴールとなります。
④式を③式に代入すると、約分によって次の式ができます。
Mの約数の合計S(M)はM+aになる、という意味です。ここから、まずは「A. 実はa=1である」を証明します。
これは背理法で考え、aが3以上だと矛盾が起きることを示せばOKです。
具体的に、aが3以上の場合にS(M)を評価すると下のようになります。
Mが⑤式で書けているとき、Mの約数には少なくとも1とM自身があり、aが3以上ならaもまたMの約数となっています。
だから、S(M)は必ずM+a+1以上になると言う事になります。これは明らかに⑤式と矛盾します。
これで、a=1が確定し、Mがメルセンヌ数であることがわかりました。
これにより、Mの約数の合計がM+1となることが分かりました。
ここでよく考えると、Mの約数には少なくとも1とMがあり、それだけで合計がM+1になってしまいます。つまり⑤'式は、1とM以外に約数が存在しないことを意味します。これは素数の定義そのものです。
これ即ち、Mが素数、特にメルセンヌ素数だと言う事を意味します。
以上で、必要性の証明も終了です。
<証明全景>
4. 最後に
これで、偶数の完全数については「メルセンヌ素数と一対一」だということが証明されました。
メルセンヌ素数は、前の記事で紹介した通り51個発見されているので、対応する完全数も51個発見されていることになります。
ところで、ここまでは偶数の完全数にのみ触れてきましたが、奇数の完全数についてはどうなのか?という疑問が湧いてきます。
実は、奇数の完全数は未だに発見されておらず、存在するか否かさえ証明されていません。
気が向いたら、奇数の完全数を探してみてはいかがでしょうか笑。