皆さん、こんにちは。
今回は、こちらのサイト100ます積分 (planet-scope.info)に「100ます積分」なる積分の問題がありましたので、その計算を紹介したいと思います。
中には「解けない」積分があったり、高校範囲外の初等関数を使用しないと不定積分が計算できないものもあるのですが、基本的には積分計算のいい練習になるので受験生の方も是非挑戦してみてください。
0. 概要
100ますは下のようになっています。
例えば、26であれば、
100ますありますが、対称性から、実質右上の55マス分を考えれば十分です。
ここで、積分が「解ける」とは、
「原始関数が、積分形を残すことなく初等関数で表現できる」と定義します。
初等関数とは、
1. 多項式
2. べき乗
3. 三角関数
4. 逆三角関数
5. 指数関数
6. 対数関数
7. 上記1~6の合成関数
8. 上記1~7のみ含んだ分数関数
のことです。要は、ほぼ高校数学の範囲で登場してきた関数たちのことです。
1つだけ、高校数学の範囲外のものが含まれていて、それが「4. 逆三角関数」です。
逆三角関数は次のような記号で書かれ、
それぞれ「sinの逆関数」「cosの逆関数」「tanの逆関数」の意味です。
今回の計算においては、「tanの逆関数」のみ新規に登場するので、その点ご留意ください。
それでは、実際に55個分計算してみましょう。(構成の関係上、番号が順番通りになっていない箇所があります。予めご了承ください。)
1~10 (べき乗)
これらは、一番簡単な積分計算です。
特に解説も要らないと思うので、まとめて計算してしまいます。
11~14, 16~19 (べき乗×三角関数)
このタイプでは、部分積分を使って相方の次数を軽くしていくのが基本です。
sin, cosのまま部分積分することも可能ですが、オイラーの公式を利用して指数関数の形にまとめると、sinの積分とcosの積分をまとめて計算できるので便利です。以後、原則オイラーの公式を使う方法で解いていきます。
(※オイラーの公式については、こちらを参照ください数学界のKingとQueenは、愛で結ばれた・・~世界で一番美しい数式、オイラーの等式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )
部分積分を利用する目的は『べき乗の次数を軽くする→0になるまで繰り返す』だったので、指数が非負整数の時に有効な手段です。逆に指数がそれ以外の場合だと、どれだけ頑張っても0乗の形を作れないので部分積分を行う意味がなく、解くことができません。
11,16
相方が1次式なので、部分積分を1回使えばOKです。
12,17
相方が2次式なので、部分積分が2回必要です。が、先に計算した11,16の結果をそのまま代入できるので労力を節約できますね。
13,18(解けない)
相方の指数が1/2と分数になってしまっているので、この積分は解けません。
14,19(解けない)
相方の指数が-1と負の数になってしまってるので、この積分は解けません。
22~25 (べき乗×指数関数)
こちらも、三角関数の場合と同様に、部分積分で相方の次数を軽くしていきます。解けるか解けないかの判断も、三角関数の場合と全く同様です。
22
相方が1次式なので、部分積分を1回使えばOKです。
23
相方が2次式なので、部分積分が2回必要です。が、先に計算した22の結果をそのまま代入できるので労力を節約できますね。
24,25(解けない)
相方が非負整数ではないので、これらの積分は解けません。
三角関数自身が「○○乗」の形を残していると計算がしにくいので、「倍角の公式」や「積和の公式」を駆使して、できる限り1乗の和に分解していきます。
15,21
cos2xの公式を利用すればOKです。
20
sin2xの公式を利用すればOKです。
26,27(指数関数×三角関数)
このタイプは3通りほど解法があるので、それぞれ紹介していきます。
(解法1)微分を利用して、原始関数を逆算する
この解法は、被積分関数のsinバージョンとcosバージョンをそれぞれ微分し、それの足し引きをすることで、原始関数を作ってしまう方法です。ミスもしにくく、高校数学のみを使うならオススメの方法です。
(解法2)同形出現
この解法は、そのままの形で部分積分を繰り返して、同じ形の積分が出てきたらその方程式を解いてしまうという方法です。教科書や青チャートなどの標準的な参考書では、概ねこの解法が載ってるかと思います。
今回の場合は係数がシンプルなのでさほどでもないですが、指数関数や三角関数の中身の係数が複雑になると途端にミスしやすくなり、何気に最後に答えを書くときに積分定数Cを忘れがちなので、あまりオススメしないです。
ただし、この解法でうまくいく積分形が他のタイプであったりするので、考え方は知っておきましょう。
(解法3) オイラーの公式を利用する
やはり、この解法が一番機械的に処理でき、cosとsinをまとめて計算できるのでお勧めです。指数関数に一本化することで計算が非常に楽になります。
この方法を使って、係数が一般的な場合を計算すると下のようになります。
今回はa=b=1の場合で、しっかり答えが一致してることが分かります。
28
こちらは、特にコメントは不要でしょう。
29~36(logを含む積分)
logを含む場合は、部分積分を使って「扱いにくいlogxを、扱いやすい1/xに変える」のが基本です。
29~31
32
こちらも、考え方は一緒ですが、先ほど登場した「同形出現」が生かせる形になります。
33,34,35(解けない)
部分積分で計算を進めると、14,19,25の形に帰着してしまうので、解けません。
36
log自体が2次以上になってる場合も、考え方は一緒です。部分積分を繰り返してlogを解消しましょう。
37~38, 40, 45~47, 49, 54,55(分数関数)
分数関数型の積分への基本的な対処を、下のようにまとめました。
・分子が重たいなら、割り算をして分子をできるだけ軽くする
・分母が因数分解できるなら、部分分数分解で和の形へ
・分母の次数ー分子の次数=1なら、分子に無理やり分母の微分形を作る
→微分系の部分はlogの形に、残りかすはtanの逆関数の形にできる(場合がある)
高校数学でやったようなx=tanθの置換で簡単に証明できます。
ここまで言葉で言われても分からないと思うので、具体的な計算で体感していきましょう。
37,46
これが、まさに分母の次数ー分子の次数=1の場合になっているので、分子を無理やり分母の微分の形にしてしまいましょう。すると、logの形に積分できます。
38
分子と分母の次数が同じなので、割り算して分子を定数にしてしまいます。
47
こちらも38と同じような考え方ですが、こちらはさらに分母が因数分解できるので、部分分数分解で和の形にします。
40
分母が2つの多項式に因数分解されてるので、部分分数分解しましょう。
49
分母が3つの1次式に因数分解できるので、部分分数分解しましょう。
45
残念ながら部分分数分解ができないタイプです。仕方ないのでx=tanθで置換しましょう。すると、21に帰着します。
54
分母が2つの1次式と1つの2次式に因数分解できるので、例によって部分分数分解です。よく使う2個差の分母の分解を利用できるように、分解の順番を工夫しています。
55
2乗する前の状態で部分分数分解し、それを展開しさらに部分分数分解を使います。
41~43, 50~53(分子が多項式ではない分数関数)
この形は、基本的に「不定積分が計算できない」と思っておいてください。実際に手を動かすとできなさそうなことが分かります。
41~43(解けない)
指数関数(三角関数含む)の相方を持ち上げて部分積分すると、指数の中にtanθが入る形になって、解けなくなります。指数関数の方を持ち上げても、相方が余計に重くなるだけでご利益なしです。
50~52(解けない)
分母を因数分解して部分分数分解しても、結局14,19,25の形になって計算が進まなくなります。
44(解けない)
logが入ってるので部分積分を実行してlogを解消すると、今度は積分の中にtanの逆関数が残って万事休すです。
53(解けない)
分母を因数分解して部分分数分解して、部分積分でlogxを解消しても、今度は別の対数関数log(x+1), log(x-1)が発生してしまい、これらを解消しようとするとまたlogxが発生する無限ループに陥ります。
39, 48(分子がルートの分数関数)
分母の√xが邪魔なので、t=√xと置換することを考えます。
48
分母を因数分解して部分分数分解してから置換すると、38, 47が利用できる比較的難易度の低い積分にできます。
39(※今回の100ます積分の最難問!)
48とは分母の符号が違うだけですが、たったこれだけの違いで超難問に化けます。一番難易度が高いと思ったので、この問題を最後に回しました。
最初にt=√xの置換を行うと、2次式/4次式という中々嫌らしい形になります。
分母の4次式は一見因数分解できなさそうに見えますが、和と差の積を無理やり作ることで2つの2次式に因数分解できます。この2つの2次式は判別式が負なので、これ以上の因数分解はできません。
セオリー通り、これを部分分数分解することを考えます。
この結果を使うと、積分は
のようになります。それぞれ分母の次数ー分子の次数=1の場合になっているので、分子に分母の微分形を無理やり作ります。そうすると1次の微分が余分に残ってしまうので、それが消えるように定数項を追加して元の式と辻褄を合わせます。
残った積分は、平方完成を利用することで「tanの逆関数」の形に持ってけるようにします。
これで、積分が全て計算できるので、変換した文字を全てxに戻して終了です。
大学入試でこの積分が「不定積分」として出題されることはまずないですが、「定積分」として出題されることはあり得るでしょう。例えば、積分区間を0≦x≦1にすればキレイに値が求まります。
いずれにせよ、かなりの難問でしたね。
これで全て解き終えたはずです・・・
もちろん、これだけだとKingPropertyといった「定積分」ならではのテクニックを使ってない、とか、sinx, cosxの分数関数(t=tan(x/2)と置換するタイプ)が登場してない、とか不足はいくつかありますが、少しでも積分力は鍛えられるはずです。