このシリーズでは、東京慈恵会医科大学の数学の問題を解いていきます。
最終回の今回は2000年です。
(問題文を提供して下さったせがわさん、ありがとうございます。)
第1問
小問集合です。
(1)積分の計算問題です。
f'(x)を計算することで、積分の中身がf(x)×f'(x)となることが分かります。
(2)整数を絡めた論理の問題です。
条件qについては、n^4÷5の余りは、nが5の倍数なら0, nが5で割り切れなければ1と区別できることが分かるので、「pならばq」「qならばp」が両方成立します。
一方、条件rについては、nが整数なら与式は常に整数となるので、「pならばr」だけが成立しています。
「rさえ成り立っていればpが言える」のであればrは「十分条件」となるのですが、今回はそうではなく、「pが言えるには、最低限rが必要」ということになるのでrは「必要条件」となります。
(3)場合の数・確率の問題です。
各位が1~3のどれかになる整数の個数から、「数字を1個だけ使う整数」の個数、「数字を2個だけ使う整数」の個数を引いてあげることで「1~3の全てを使う整数」の個数が求まります。
(4)行列の積に関する問題です。
未知数が8つあってAB, BAの条件から8つの方程式が求まるので、原理的には解くことが可能です。が、あまりに複雑なので、何かとっかかりが必要です。
注目すべきは、BAの左上の「1」です。a~dが非負整数でab+cd=1のときに何が言えるか?
もしa~dが全部自然数だとすると、ab+cd≧2となって矛盾してしまいます。ということは、a~dの中には少なくとも1個は「0が含まれていないといけない」とわかります。これが大きな情報です。
あとは、この4つのどれが0になるかで場合分けして、全ての成分が整数であることに注意して芋づる式に解いていきます。
この初手を思いつくことができたかがカギになる問題でした。
<筆者の解答>
第2問
積分とΣ計算の順番の入れ替えに関する問題です。
素朴に考えると「積分とΣを入れ替えても答えが変わらないなんて当たり前じゃん」と思うと思います。
しかし、このΣが「有限個の和」ではなく「無限級数」だった場合、実は積分とΣを入れ替えると答えが変わってしまう場合があるんです。
(こちらのサイトに、積分と極限を入れ替えると答えが変わってしまう例が載っています。極限と積分の順序交換定理6つと交換できない例3つまとめ | 数学の景色 (mathlandscape.com) 無限級数も本質的には極限と一緒なので、「積分」と「極限」の入れ替え、と言い換えても同じことです。)
そもそも「積分」も「無限に小さいものを足し算する」計算なので無限が絡んでいますので、「無限が関わる計算」同士の順番の入れ替えは、実はかなりデリケートな話なのです。
今回の関数の場合は、そんな不都合が起きずにちゃんと順番が入れ替えられることを証明する、という趣旨になっています。(大学数学の話を少しすると、「一様収束」という性質を持った関数については、積分と無限級数の入れ替えが可能、という話があります)
(1)fn(x)は、xを固定すると、公比(x+1)/2の等比数列になっています。この公比が-1以上1未満なら無限等比級数は収束するんでした。今回の場合は-1≦x<1の場合はこの条件がクリアできています。
ということで、この条件から外れるx=1の場合だけ例外処理する必要があります。
(2) (1)の結果を積分すればよいでしょう。
(3)t=x+1と置換することで、シンプルな多項式の積分にできます。答えは(4)を見越すと敢えて通分しない方がよさそうです。
(4) (3)の結果でΣを取ります。(3)の結果を分解すると、綺麗に「途中が相殺される」タイプに帰着できることが分かります。
<筆者の解答>
第3問
複素数の計算問題です。
(1)ド・モアブルの定理からα^7=1が求まり、これを因数分解することで、1+α+α^2+α^3+α^4+α^5+α^6=0も分かります。
αの複素共役については、α*=cos(2π-θ)+isin(2π-θ)と変形することで求まります。
別解は、α^7=1を直接利用して|α|=1からα*=1/α=α^6と計算する、なんてものあります。
(2) (1)の結果を利用してβの複素共役をαの式で求めて、お目当ての物を計算していきます。
(3) (2)の結果から、解と係数の関係を使ってβを解に持つ2次方程式が分かるので、βの候補が求まります(この時点でaは確定します)。
bの符号については、定義に帰ってb=sin3θ+sin5θ+sin6θの符号を調べていきます。これらのsinの中身を簡単にしていくことで符号を確定できます。
<筆者の解答>