本記事は、こちらの記事の続きになります。
おさらいですが、京都大学の藤井聡教授が以下のようなツイートを行い
驚きました…今集計したのですが緊急事態宣言エリア(11都府県)とそれ以外の感染者数推移がほぼ同じ!!
— 藤井聡 (@SF_SatoshiFujii) 2021年2月4日
…と言う事は、控えめに言っても緊急事態宣言に効果が無かった疑義が極めて濃厚.
時短や自粛のせいで店が潰れ自殺者が増えているのに…一体何の為の自粛、時短そして延長だったのでしょうか…😢? pic.twitter.com/8wdHlco0k7
緊急事態宣言が発令された地域での感染者数の推移と、そうでない地域での感染者数の推移を比べ、緊急事態宣言が出される前でも後でも両者のグラフの形にさほど差がないことがわかった。だから緊急事態宣言は感染抑制には影響せず自粛は無意味だったのだ。
と主張したわけです。
グラフその物の問題点は前回説明したので、今度はそれには目を瞑り、グラフの内容が正しいとします。
つまり、グラフから読み取れる
「緊急事態宣言の発令下にある地域とない地域で、感染者数の増減がほぼ一致した」
という知見が正しいと仮定します。
そこから、「だから緊急事態宣言は感染抑制には影響せず無意味だったのだ。」と果たして結論付けていいのか? というのが本記事の趣旨になります。
今回の記事は、私自身の憶測が大分入っている内容なので話半分で聞いていただければいいのかなと思います。
感染拡大に直接影響する要因は、当然自粛レベルだけではありません。私がパッと思いつく限りは、以下のようになると思います。
1. 自粛レベル=対人接触頻度
2. 個人単位の予防策(=手洗いうがいマスク換気etc)
3. 水際対策(空港でのPCR検査、入国禁止や隔離措置)
4. 気候(気温や湿度)
1-3については緩ければ緩いほど、4については気温が低いほど、湿度が低いほど感染は拡大しやすくなると、定性的には考えられます。
では、1-4のうちどの要因が最も影響しやすいのか?というのが問題になります。
先の藤井氏のグラフは、1-4のすべての変化が含まれているグラフです。単純に感染者の推移を緊急事態宣言発令の有無の地域別のみで比較し、宣言が発令された日・延長された日を注釈で入れているだけですから。
おそらく、藤井氏は「緊急事態の発令=自粛レベルの強化」と解釈したうえで、「自粛レベルの高い地域と低い地域を比較したときに、推移にほとんど差が出なかった、だから緊急事態宣言の効果は薄く自粛レベルの寄与度は低いだろう。」
というロジックを展開しているのだろうと思います。
私は、ここに2つの問題点があるがゆえに論理の飛躍になっていると考えています。
[問題その1]
1つめは、
「自粛レベルの高い地域と低い地域を比較したときに、推移にほとんど差が出なかった、だから緊急事態宣言の効果は薄く自粛レベルの寄与度は低いだろう。」
という論理展開の部分です。
1.自粛レベル=対人接触頻度については比較ができている、しかし、残りの
2. 個人単位の予防策(=手洗いうがいマスク換気etc)
3. 水際対策(空港でのPCR検査、入国禁止や隔離措置)
4. 気候(気温や湿度)
の差の影響は排除できているのでしょうか?
2-4が両地域で差が小さいのなら、1の自粛レベルの差だけがメインになり、その差をもってしても感染者数の推移に変化がないので、「自粛レベルは感染者の推移にほとんど影響しない」と言えると思います。
しかし、もし2-4に差があったら?特に、発令地域にとって不利に働く差があったとすればどうでしょうか?
すると、2-4は感染拡大にアクセルをかける要因になりますが、そこでは緊急事態宣言による自粛強化でブレーキもかかっている。その合わせ技で、発令対象外の値域とトントンにできていた。という解釈も可能になるわけです。
つまり、他の要因の差についても切り分けて比較を行わないと、2-4が両地域で差が小さいという仮定が成り立たず、結果「自粛レベルは感染者の推移にほとんど影響しない」とは言えないことになります。
このように、どの因子が影響するのかしないのかをチェックするためには、「可能性を過不足なく列挙し、その1つ1つを検証する」必要があるのです。この作業を、ビジネス用語で「MECE(ミーシー)な検証」といい、問題解決全般で使われる方法になります。
(※MECEとは、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略語で、前者が「相互に排他的」つまりダブりがないという意味で、後者が「完全な集合」つまり全部集められているという意味合いになります。一言でまとめれば、「過不足なく」ということです。)
私個人の見解は、
2. 個人単位の予防策(=手洗いうがいマスク換気etc)
→コロナ禍という状況が共通認識なんだから緊急事態宣言の有無にかかわらずやるでしょ。=地域差なし
3. 水際対策(空港でのPCR検査、入国禁止や隔離措置)
→発令地域は都市部が多く、ウイルスを抱えた外国人が入ってくる蓋然性も高いので不利に働く、ただし水際対策が発令とセットで強化されているかは知らん。=地域差分からんが、たぶん発令地域に不利目。
4. 気候(気温や湿度)
→発令地域は都市部が多く、日本の都市部は太平洋に面していて冬場は乾燥しやすい。一方発令対象外地域は地方が中心で、日本海側の豪雪地帯はこちら。当然湿っている。=発令地域の方が不利だろう
のような感じで、自粛以外の要因に不利な要素があるので、自粛レベルの強化がこれらを相殺したかもしれない。
と考えています。完全に憶測ですけど。
[問題その2]
2つ目の問題は、そもそもの前提、
「緊急事態の発令=自粛レベルの強化」が正しいのか、という点です。
「緊急事態宣言の発令⇒自粛レベルの強化」は、正しいと考えられるでしょうね。実際に飲食店の時短要請などの具体的な政策が加速するわけですから。
ただ、果たして感染拡大を抑制できるほどの「十分な自粛」を促せていたのか?は考えるべきでしょう。緊急事態宣言の中身が不十分なものであれば、また補償が十分でないがゆえに当局からの自粛要請を断るケースが出てくるなどすれば、その分効果は薄まってしまいますからね。
そして、何より「自粛レベルの強化⇒緊急事態宣言の発令」は正しいでしょうか?
もう少し噛み砕いて言えば、「自粛レベルを上げるのに、緊急事態宣言は必要なのか?=緊急事態宣言がないと自粛レベルは上がらないのか?」ということです。
去年の春先の時期を思い出してください。
安倍総理が緊急事態宣言を発令したのは4/7でした。しかし、そのはるかに前から、小池都知事などが「不要不急の外出を控えてください」と呼び掛けたり、志村けんさんがCOVID19によって亡くなってしまう不幸がありました。これらによって、国民が進んで自粛に励むようになったことは、皆さん自身が肌感覚で経験しているかと思います。
今回も、「緊急事態宣言が発令されるかも」と度々メディアが全国報道していましたから、たとえ発令対象外の地域であっても、人々が自主的に自粛レベルを引き上げていったことは想像に難くありません。日本人とは、そういう国民性の持ち主だと思うんです。
以上を鑑みるに、
「自粛レベルを上げるのに、緊急事態宣言は必要である=緊急事態宣言がないと自粛レベルは上がらない」は正しそうにありません。
要するに、緊急事態宣言の有無の比較だけでは、自粛の有無の比較には必ずしもなっていないのではないかと思うわけです。
だから、藤井氏の「緊急事態の発令=自粛レベルの強化」という解釈自体に疑問符がつくのではないか、というのが私の感想です。
以上長くなりましたが、私の結論は、
「緊急事態宣言が発令された地域での感染者数の推移と、そうでない地域での感染者数の推移を比べ、緊急事態宣言が出される前でも後でも両者のグラフの形にさほど差がないことがわかった。だから緊急事態宣言は感染抑制には影響せず自粛は無意味だったのだ。」
とは、このグラフだけからは必ずしも言えない、です。
これは「自粛は意味のある行為だった」という意味ではなく、「自粛が無意味だったかどうかはまだ分からない」という意味なことに注意が必要です。
「自粛が無意味だった」と言うには、他の要因の検証と、対象外地域での自粛レベルの検証が必要でデータ不足である。ということです。
藤井氏自身は、Facebookで統計学の見地から自らの主張の正当性を述べていましたが、
(Facebook←リンク参照)
統計学など待ちだすまでもなく、以上のような私の見解は構築できます。あくまで、数学的な論理学の話で片が付きます。
このリンクで書かれている「仮説検定」という統計学の手法は、「自粛レベル以外」の影響因子を排除して検証をした最後の場面で、本当にその結論を信じていいのか?の判断に使用する手法なのであって、今回の藤井氏のロジックは、仮説検定以前のレベルでおかしいのです。
以上の自らの見解から、
藤井氏の出してきたグラフと主張をそのまま鵜呑みにして、自粛するのをやめてしまうのは危険な行為だと思いました。だって、自粛が効果的なのかが「わからない」んですから。
その注意喚起を兼ねて、記事を作成させていただきました。
ここまでご覧になっていただき、ありがとうございました。