今回の記事では、惑星の運動に関する法則「ケプラーの法則」を、「万有引力の法則」からニュートンの運動方程式を使って証明していきたいと思います。
17世紀の天文学者ケプラーは、天体の観測結果から以下の3つの法則を提唱しました。
これらが、「ケプラーの法則」です。
(訂正:第3法則の「3乗」と「2乗」が逆になっています)
上記のように、第1法則は「惑星の軌道」に関する法則、第2法則は「惑星の速さ」に関する法則、第3法則は「惑星の公転周期」に関する法則です。
一方、後の世になって、ニュートンが万有引力の法則を見出しました。
「物体間には、互いの質量に比例し距離の2乗に反比例する力が働く」というものです。
さて、ケプラーの法則はあくまで観測結果を基にした経験則でした。しかし、ニュートンが発見した「万有引力の法則」と「運動方程式」を利用すると、理論的に証明できてしまうのです。
今回はその証明過程を見ていくことにしますが、実際の証明に入る前に2つの事柄を準備しておかないといけないので、まずそれについて紹介します。
1. 準備その1 ~2次曲線の極方程式~
今回の運動方程式を解くと、とある曲線の極方程式が求まるので、それについて先に解説します。
その極方程式とは、以下のようなものです。
極方程式(*)は、原点を焦点とする2次曲線を表しているのですが、εというパラメータ(離心率と呼びます)の値によって、どんな2次曲線なのかが変わってくるので、順にみていきます。
まず、極方程式のままだと考えにくいので、馴染んたデカルト座標に直していきます。x=rcosθ, y=rsinθを利用すると、
となって、x,yの2次式に直るので、(*)は確かに2次曲線だと分かります。
さて、離心率εの値で場合分けしてみましょう。
(1)ε=0のとき
このときは至って単純で、
となり、原点中心の半径lの円になります。
(2)0<ε<1のとき
このときは、平方完成を使っていくと、
となって、楕円になります。この楕円の焦点の一つは原点になっています。
(3)ε=1のとき
x^2の項が消えるので、
となって、放物線になります。この放物線の焦点は原点になっています。
(4)ε>1のとき
0<ε<1の時と符号反転をすればいいので、
となって、双曲線になります。この双曲線の焦点の一つは原点になっています。
このように、離心率εを大きくしていくと、円→楕円→放物線→双曲線と形状が変化していくことが分かりますが、いずれも焦点は原点となっています。
2. 準備その2 ~ニュートンの運動方程式(極座標ver)~
と書いてきて、物体の位置xや力Fは、暗黙に「デカルト座標」を想定していました。
今回の問題もこのままの形で考えることは原理的に可能ですが、非常に式が複雑になってしまいます。
今回は、万有引力による惑星の運動という「力の大きさが距離で決まる」「回転運動することが想定される」ものを扱うので、デカルト座標よりも極座標の方が適しています。
ということで、運動方程式をうまく変形して、極座標に適した形に変えてあげます。
まず、結論から書くと、極座標バージョンの運動方程式は以下のようになります。
図を見て頂けるとよいのですが、動径方向とは「半径rが伸びていく方向」、回転方向とは「θが増えていく方向」で、時間ごとに向きが変わるのですが互いにいつも直交します。
デカルト座標の物に比べると、随分と複雑な形になってしまいましたね。とりあえず、証明していきましょう。
方針としては、Fとxの両方を「動径方向」「回転方向」の2つの成分に分解して考えていきます。
そのために、まずは「動径方向」「回転方向」の向きを決めるベクトルを設定します。
この下で、力Fの方は容易に以下のように成分表示できます。
問題は、位置xの2回微分がどうなるかですが、そもそもxは極座標のベクトルで、
と表現できるので、「積の微分」を使って計算することができそうです。
ここで、rもθも両方ともが時間tの関数になっていることに注意です。
tで一回微分すると、
となります。erはtで微分すると、「合成関数の微分」から、eθにθのt微分をかけたものになります。
さらにもう一回tで微分すると、eθを微分するとerが出てくることに注意して、
となります。eθの係数は、「積の微分の逆」を使った変形をするとスッキリします。
これで、ニュートンの運動方程式の左辺等辺の両方が極座標の成分で表現できたので、これで証明完了です。
以上で、ケプラーの法則の導出の準備が終わったので、本題に入っていきましょう。
3. ケプラーの第1法則の導出
最初に、惑星の軌跡が太陽を焦点とした楕円軌道を描くことを証明していきます。それには、万有引力に対応した運動方程式を解いていけばOKです。
まず状況設定について。
焦点となる太陽の質量をMとして、原点に固定します。そして、質量mの惑星が極座標で(r,θ)の位置にあって、太陽から常に万有引力を受け続ける状況を考えます。
このとき、万有引力は、つねに「動径方向」を向いていて(回転方向には成分がない)、しかも常に原点(太陽)の方を向いている(要するに負の向き)ので、極座標バージョンの運動方程式は以下の2本になります、
まず右辺が0で考えやすい、回転方向の方程式②を解いていきましょう。
微分した結果が0なので元の関数は定数だ、という性質を使っています。
(※実はこの時点で第2法則が示せてしまうのですが、それは後述)
これでθがrの式で書けたので、動径方向の方程式①からθを消去できそうです。それを実行してあげると、
となります。万有引力定数Gと太陽の質量Mは一定なので、今後煩雑にならないので、定数K=GMとまとめています。
さて、比較的シンプルな微分方程式になったものの、このままではrをtの式として綺麗に解くことができません。
今回の目標は「惑星の軌跡」を探すことなので、それには「rとθの関係式」が分かればいいわけです。つまり、時間tは軌跡を求めるにあたっては不要なのです。
ということで、求まった2つの微分方程式①’と②’を使って、rをθで微分する微分方程式に直してあげます。
合成関数の微分を使って「rのtでの微分」を「rのθでの微分」に直してあげると、
となるので、微分方程式は、
と変形できます。かえって複雑になってしまいましたね。
しかし、天下り式ではあるのですが、この方程式は、
と変換してあげることで解くことができます。
実際にrからpの変換式は、
となるので、代入すると、
となって、厄介だった「1回微分の2乗」が綺麗に消えてくれるのです。
ここまで簡単になってくれれば、解くことができます。以前紹介した記事(共振現象を、ニュートンの運動方程式から導く - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)で、ω=0とした場合に相当) の内容も参考にしつつ解いていくと、
となって、最終的に、冒頭で紹介した「原点を焦点とした2次曲線の極方程式」が求まります。
εの値によって、実際には「楕円(円を含む)、放物線、双曲線」のどれかになるのですが、後者の2つだと惑星が太陽から無限に遠くまで行けてしまうので、現実と矛盾しています。
(※彗星のような軽い天体については、一旦最接近したら無限に遠くに離れていくので「双曲線か放物線」ということになります)
ということで、惑星の軌道が「太陽を焦点とする楕円」であることが証明できました!
中世の時代までは、星の軌道は完全なる円だと信じられてきたわけですが、これによって、実はほとんどの場合で完全な円ではない「楕円」だということが分かったわけです。(真円になるのは上述の通りε=0のときだけ)
4. ケプラーの第2法則の導出
次に、第2法則「面積速度一定」を証明します。
面積速度というのは、上の図のような焦点を頂点とした扇形(もどき)の面積の増えるスピードの事です。これが常に一定だというのが第2法則の主張です。
この証明は非常に簡単で、θの増加量Δθを無限に小さくしていくことで、
となります。本当はθが変化すると扇形の半径rも変化するのですが、Δθが十分に小さいのでrはほぼ変化しない、としているわけです。
(似たような話を、ガウス積分 ~統計学で最も重要な積分~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)でもやっています。)
ここで、この証明に使ったのは「回転方向の運動方程式②’」だけであることに注目です。
つまり、万有引力に限らず、回転方向の成分が0な力でありさえすれば、この「面積速度一定」の法則が必ず成り立つという事です。このような回転方向の成分を持たない力を「中心力」といいます。
もし、rがθや時間tによらず一定なら「円運動」になり、回転方向の方程式でdθ/dt=ωとすると、高校物理の教科書に載っている「中心力」の公式そのもの(F=mrω^2)になります。
5. ケプラーの第3法則の導出
(訂正:第3法則の「3乗」と「2乗」が逆になっています)
最後に、第3法則を証明します。これは、第2法則を使うと証明できます。
惑星の公転周期をTとすると、第2法則の式から、
となります。σは、軌道となる楕円の面積です。
さて、このσがどうなるかを調べるために、軌道の楕円について詳しく見ていきます。
極方程式をデカルト座標に直してあげると、
となります。
(※Φは、楕円全体を原点中心にどれだけ回転するかを表す量なので、0としても一般性を失いません)
なので、楕円の長径R1と短径R2はそれぞれ、
となります。ここから面積σが
と計算できることが分かります。
これを使って冒頭の式を変形していくと、
となって、確かにTの2乗が長径R1の3乗に比例することが示せました!
このように、元々経験則であった「ケプラーの法則」が、万有引力の法則とニュートンの運動方程式から全て導けました!これで、逆にニュートンの発見したこの2つの法則の確からしさが裏付けられることになりました!