ちょぴん先生の数学部屋

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ラプラシアンの3次元極座標表示

みなさん、こんにちは。

 

本日は、量子力学の基礎方程式である「シュレディンガー方程式」を解くに当たり、その準備段階として、電磁気学に登場した「ラプラシアン」を3次元極座標(および3次元円筒座標)での表式に変換する工程を紹介します。

 

ラプラシアンについてはこちらの記事を参照してください。

grad, div, rotとは? ~ベクトル解析の3大計算~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

 

ラプラシアンとは、おさらいですが、次のような演算子になります。

x方向に2回偏微分、y方向に2回偏微分、z方向に2回偏微分したものを総和するという演算子です。以前マクスウェル方程式の記事で取り上げたように、波の方程式で登場する演算子でした。

stchopin.hatenablog.com

同様に、量子力学の基礎方程式である「シュレディンガー方程式」にもこのように顔を出します。

 

ただ、元々のxyz座標(デカルト座量)ではかえって考えにくくなってしまうシチュエーションがあります。

例えば、クーロン力などの引力は電荷から放射状に広がる力なので、単純なxyz座標では考えにくく、電荷からの距離と向きで定義した極座標の方が考えやすいわけです。

 

そんな場合には、ラプラシアン自体を極座標の形に変換する必要があります。今回の記事では、その過程を扱うわけです。

 

1. ラプラシアンの3次元球座標表示

 

1-1. 球座標の定義

 

まず、3次元極座標の1種である「球座標」の定義は以下のようになります。

rは原点からの距離、φはx軸からy軸への角度で2次元極座標の角度と同じものです。θはz軸からのずれを表す角度で範囲は0°~180°です。

 

上記のr, θ, φを全てx,y,zの式で表現すると下のようにできます。

 

1-2. 連鎖律(chain-rule)の適用

 

最初にすべきことは、ラプラシアンに登場している「x偏微分」「y偏微分」「z偏微分」を、全て「r偏微分」「θ偏微分」「φ偏微分」に書き換えることです。

 

そのためには、以下のような「連鎖律(chain-rule)」を用いる必要があります(証明はしません)。合成関数の微分をr, θ, φのそれぞれについて行って全部足せば、xの微分になる、という法則です。

この連鎖律を利用するためには、r, θ, φをx,y,zで微分した関数の情報が必要になるので、これらを計算していきましょう。(そのために上記で④~⑥を計算したわけです)

 

まず、rについては単純な合成関数の微分なので簡単です。

θやφについてはtanが付いた形になっていますが、合成関数の微分を左辺についても適用してあげれば計算可能です。

・θについて

・φについて

これで情報が揃ったので、連鎖律を用いることで「x偏微分」「y偏微分」「z偏微分」が次のように全て「r偏微分」「θ偏微分」「φ偏微分」に書き換わります。

 

1-3. 単位ベクトルの球座標への変換

 

⑩~⑫を直接使ってもラプラシアンの球座標表示は求められますが、かなり面倒です。ここは応用面も考え、単位ベクトル自体を球座標に変え、ラプラシアンの元になるラブら演算子を球座標表示してしまいましょう。これによって、球座標におけるgrad, div, rotも自ずと計算できるようになります。

 

まず、デカルト座標での表示で、位置ベクトルはr, θ, φを用いて次のように書けるんでした。

この時に、rを少し動かした時の位置ベクトルの変化量、θを少し動かした時の位置ベクトルの変化量、φを少し動かした時の位置ベクトルの変化量、が、球座標における単位ベクトルになります(長さが1になるように係数を調整します)。

こうしてできる3つの単位ベクトルは、次のように「同じものの内積は1, 違うもの同士の内積は0」となる、いわゆる「直交ベクトル系」になっています。

 

1-4. ナブラ演算子の球座標表示

 

上記で求まった3つの単位ベクトルを、r, θ, φでそれぞれ微分してあげると、0になるか他の単位ベクトルに化けます。

ここまでの情報が揃えば、ナブラ演算子を球座標のベクトルで表現できます。

このように、r方向の単位ベクトルとr偏微分が一つの項でセットになっていることが分かります。θ、φについてもオマケの係数が付くこと以外は同様です。

 

1-5. ラプラシアンの球座標表示

 

ここまでくれば、いよいよラプラシアンの球座標ができます。

上記のナブラ演算子の球座標表示と、各種単位ベクトルの微分内積を活用すれば、一気に計算できます。

最後では、rやθの微分がばらけてしまっているところをうまく1項にまとめています。

 

元のデカルト座標での表示とは比較にならないほど複雑な形となっていますが、これで求まりました。

 

2. ラプラシアンの3次元円筒座標表示

 

2-1. 円筒座標の定義

 

次に、3次元極座標のもう1つである「3次元円筒座標」を紹介します。

このように、z座標はそのままに、x,y座標を2次元極座標に変えたものになります。この極座標は、例えば電流が流れている導線の周りの磁場の様子などを考えるときに適した形です。

 

2-2. ラプラシアンの円筒座標表示

 

球座標のときと同じような操作をすることで、円筒座標についてもラプラシアンを計算を計算できます。結果だけ書くと次のようになります。

是非、練習問題として自力で導出してみてください。