皆さん、こんにちは。
大学1年の後期の期末試験が近いということで、「電磁気学」に関連する数学の話を前後編に分けてしていこうと思います。
後編の今回は、電磁気学の基礎方程式である「マクスウェル方程式」から、電磁波の方程式を導出する工程を紹介していきます。
※前編はこちらをご覧ください。
1. マクスウェル方程式(概要)
マクスウェル方程式は、電気や磁気について扱う物理学である「電磁気学」の基礎方程式で、力学における「ニュートンの運動方程式」に相当します。
マクスウェル方程式は、以下のような4本の偏微分方程式で構成されています。
それぞれについて、意味するところを簡単に紹介します。
(※以後、Eは電場、Bは磁場(厳密には磁束密度)を表すものとし、教科書でも主流となっているE-B対応の流儀で議論していきます。参考E-B対応とE-H対応 - Wikipedia)
1-1. ガウスの法則
こちらの式は、左辺が電場Eの「湧き出し」になっていて、右辺がざっくり「電荷」を意味しています。
つまり、「電場は、電荷を源にして湧き出す」というのがこの式の意味となります。
この式を「ガウスの法則」と呼び、今回は説明しませんが、適切に式変形すると高校物理でも習う「クーロン力」の式にできます。
1-2. 磁荷は存在しない
こちらは、上記のガウスの法則の磁場バージョンです。この式の場合、右辺の「電荷」に当たるものが0になっています。これは「磁場には、電場でいう『電荷』のようなもの(磁荷)が存在しない」ということになります。
言い方を変えると、「磁場は、どこからも湧き出したり吸い込まれたりしない」ということです。一見すると「それじゃ磁場なんて存在しえないじゃん」と感じるかもしれませんが、磁場が「湧き出すと同時に吸い込まれる=ループする」と考えれば解消できます。
つまり、この式は「磁場は必ずループを描く」という主張を内包していることになります。
ちなみに、「磁荷が存在しない」という主張は、あくまで「現在までに見つかっていない」に過ぎないので、将来磁荷が発見されるようなことがあれば、この式の右辺が書き換わることになります。
1-3. ファラデーの電磁誘導
こちらは、いわゆる「ファラデーの電磁誘導」を表す式となっています。コイルの中で磁石を抜き差しすると電流が流れるという、あれです。
式を解釈していくと、左辺が「電場の回転」、右辺が「磁場の時間変化」となっているので、「磁場の変化が回転する電場を生み出す」というのがこの式の意味になります。
(※右辺にマイナスが付いている理由は、磁場が変化したときに、その磁場変化を打ち消すように電場が発生するからです。)
1-4. アンペールの法則
最後のこの式は、いわゆる「アンペールの法則」を表す式です。導線に電流を流すと、その周りにループする磁場が発生するんでしたね。
左辺は「磁場の回転」、右辺は「流れている電流」と「電場の時間変化」となっています。後者の方は高校物理では出てこない概念で「変位電流」と呼ばれるものです。要するに、電場の変化が疑似的に電流のような役割を果たしている、とでも思っていただければ大丈夫です。
結局この式は、「電流が回転する磁場を生み出す」という意味になりますね。
2. 電磁波の方程式の導出
さて、これら4つの方程式を変形して、Eだけの方程式、Bだけの方程式にまとめていきます。
その際に利用するのが、前回紹介したこの公式になります。
まず、ファラデーの電磁誘導の式③の両辺にrotを作用させると、途中①、④の結果も代入しつつ、
となります。
同様に、アンペールの法則の式④の両辺にrotを作用させると、
となります。
両者とも、左辺はほとんど同じ格好をしていて、右辺は既知の物理量だけの式になっています。
今回は、特別な場合として、電荷も電流も存在しない真空の状態を仮定することにします(実際にはこれらがあることでE,Bの形に影響がありますが、本質の部分はこの仮定で十分議論できます)。
そうすると、
のようにE,Bに関して全く同じ形の微分方程式が得られました。
実は、この形の微分方程式を満たす関数は「波」を表しています。
次節ではそのことについて説明します。
3. 波の方程式について
一般に、以下の形の微分方程式を満たす関数は、「速さvで進む波」になっています。
一般には上記のようにラプラシアンが使われるのですが、最初は簡単のために「y,zには依存しない」場合に限定した次の場合を考えます。
この状況で、f(x,t)の形として以下のような三角関数を仮定します。三角関数は、「波」の基本となる関数ですね。
(※Aは振幅、Φは位相差を表します。k, ωについては後述)
この式を微分方程式に代入すると、v,k,ωが⑧のような関係を満たしていないといけないことが分かります(逆に⑧の関係さえ満たしていればk,ωは任意の値でよいということです)。
この関係を使ってf(x,t)を書き直すと下のようになります。
さて、tを固定した状態でf(x,t)をxを横軸にしたグラフにしてみると、
このように、時間がtだけ経つとt=0の状態からvtだけ右に平行移動することが分かります。このことから、vは「波の速さ」であったことが分かります。
この平行移動量がちょうど1波長分になったときのtが周期Tになることを考えると、kは「波長の逆数=波数」、ωは「周波数」に相当するものだと分かります。
任意の形状の波は、「フーリエ級数展開」というテクニックによって三角関数の和の形に分解できるので、結局、速さvで進むあらゆる形状の波がこの微分方程式の解になることが分かります。
(※フーリエ級数展開については、この記事で簡単に説明していますバーゼル問題の証明その3 ~フーリエ級数展開を使った証明~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com))
関数がyにもzにも依存する一般の場合も考え方は同じで、結果の三角関数の中にyの項とzの項を加えればよいです。
4. 電磁波の性質
以上の背景から、もとのE,Bの満たす微分方程式に立ち返ると、
EやBは
となる波になっていることが分かります。この波こそが「電磁波」だというわけです。
速さは、誘電率と透磁率の積を-1/2乗したものなのですが、実はこの値は光の速さと一致します。このことから、光が電磁波の一種であるとわかったわけですね。
ここから、いくつか電磁波の性質を紹介していきます。
4-1. 電場と磁場の、波数・周波数・位相差はすべて等しい
EとBの方程式を解くと、以下のようになります。
一旦、EとBとで、波数・周波数・位相差の全てが異なると仮定します。
このときに、元の③に代入すると、⑪のような恒等式ができます。
左辺は、rotが∇との外積なので、x,y,zの各係数が外積の形で外に出て来ます。このベクトルk=(a,b,c)を波数ベクトルと言い、波の進行方向を表すベクトルになります。
これがx,y,z,tの全てについての恒等式になるためには、最低でもcosの中身が完全に一致してないといけませんね。
ということで、
EとBの波数・周波数・位相差はすべて等しい、という結論が得られました。つまりEとBは振幅以外は同じ形の波形をしてないといけないということになります。
4-2. 電場、磁場、電磁波の進行方向はすべて直交する
⑪のcosの部分が両辺で完全に等しくなったので、残りの係数も等しいはずです。係数を抜き出すと、
となります。
大雑把には、「kとEの外積がBになる」ということなので、外積の性質から「kとBは垂直」、「EとBは垂直」だと言えます。
さらに、①に代入すると、電荷=0の場合であれば
となり、「kとEの内積=0」つまり「kとEは垂直」が言えます。
以上を総合すれば、「波数ベクトルk(波の進行方向)、電場E, 磁場Bの全てが互いに直交する」ことがわかり、E,Bは直交する横波であることが分かります。
以上で、電磁波の基本的な部分の解説を終わりたいと思います。
ではでは。