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内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その3 ~ルジャンドル多項式~

皆さん、こんにちは。

 

4回シリーズでお届けしている「直交多項式」の第3弾です。

 

3回目の今回は「ルジャンドル多項式」、並びにその拡張版である「ルジャンドル陪関数」について紹介します。

この「ルジャンドル陪関数」は、水素原子の電子に関するシュレディンガー方程式で、角度方向の方程式を解く際に登場します。

 

 

1. ルジャンドル多項式

 

1-1. 母関数による定義

 

ルジャンドル多項式は、次のように母関数で定義されます。

エルミート多項式と同じく、左辺の母関数をtに関するべき級数に直したときの係数が、ルジャンドル多項式です。後述しますが、この母関数の形は物理の世界でもよく登場するものになります。

 

ただ、例によってこのままだと実態がよく分からないので、一般項であるロドリゲスの公式を導出します。

 

1-2. ロドリゲスの公式

 

エルミート多項式では母関数が指数関数で微分がしやすい関数だったのに対して、今回のルジャンドル多項式では√(2次式)の逆数という、微分がかなり面倒な形をしています。ということで、ロドリゲスの公式の証明は段違いにハードなものになります。

 

いきなり母関数を微分するのは難しいので、X=2xt+t^2と変数変換して一旦単純化した関数をべき級数の形にして、あとで元のx,tの関数に戻していきます。

この変数変換の下で、母関数をテイラー展開すると、以下のようになります。

 

この状態で、Xに元の形を代入すると、2項定理が使えて下のようになります。

 

さて、この状態から何がしたいかと言えば、元のtのn次の係数を知りたいわけです。この係数がルジャンドル多項式そのものでしたので。

ということで、tのn次の係数を抜き出します。

 

こうしてルジャンドル多項式の一般的な式が求まりました。が、この状態でも複雑すぎてよく分かりませんね。何とかして見やすくしたいです。

 

ここで突然ですが、別の関数gn(x)を持ち出します。

見ての通り、(x^2 -1 )^nをn回微分した関数です。

 

この式を2項定理を使って計算していくと、下のように展開できます。

するとどうでしょう?母関数のtのn次の係数と(係数を除けば)同じ形をしていますね。

ということで、以上を合わせれば、ルジャンドル多項式は次のように書けます。

これで見やすくなりましたね。これこそがルジャンドル多項式の「ロドリゲスの公式」です。

 

1-3. 漸化式

 

エルミート多項式の時と同様に、母関数をtで微分することで漸化式が求まります。

 

これにより、ルジャンドル多項式Pn(x)は有理数係数のn次多項式であることが分かり、具体的に下のように書けることが分かります。

このとき、nが偶数なら偶関数、nが奇数なら奇関数になっていることが特徴です。

1-4. 微分方程式

 

微分方程式については、母関数から直接導出できないので別の方法を取ります。

 

ロドリゲスの公式を参考にすると、hn(x)=(x^2 -1)^nの微分方程式を作って、それを後でn回微分することでルジャンドル多項式微分方程式が作れそうです。

 

まず、ベースとなるhn(x)の微分方程式は下のように作れます。

 

この状態で、両辺をxでn回微分したいわけですが、その際には「ライプニッツの公式」を活用します。

f(x)g(x)をn回部分した結果を計算したければ、f,gを微分した回数の合計がnになるようにし、それぞれに2項係数をかけて足し合わせる、という感じです。

 

ライプニッツの公式を使ってn回微分を実行すると、下のようになります。

この微分方程式が「ルジャンドル微分方程式」と呼ばれるものになります。

 

1-5. 直交性

 

ルジャンドル多項式も直交多項式なわけですが、実際の直交性は下のようになっています。

積分区間は-1≦x≦1, 重み関数はw(x)=1です。

 

証明は、部分積分を使って、お互いの微分の回数を1ずつ変化させていく方法を使います。

n≠mの場合は、2m次関数を2m+1回以上微分することになるから全体が0になるというロジックになります。

n=mの場合は、そこからさらに部分積分を繰り返していきます。

 

1-6. 応用例 ~双極子展開~

 

ここで、ルジャンドル多項式の応用例を1つ紹介します。

図のように、x軸上に±qの電荷をもつ粒子がそれぞれ、原点から等距離にある状況を考えます(これを双極子と呼びます)

 

そのとき、原点からrだけ距離が離れていて、かつ角度がθになっている場所での電場はどうなっているでしょうか?

 

もちろん、各電荷による電場をベクトルとして計算して、ベクトルの足し算をすることによっても算出できますが、実践的には「ポテンシャルエネルギー(スカラー量)を計算して、それを微分する」という手段の方が簡便に求まります。ということで、この場所でのポテンシャルエネルギーがどうなっているかを調べてみます。

 

電荷によるポテンシャルエネルギーは「距離の逆数に反比例」する量で、電荷が複数ある場合にはそれぞれを足すだけでよいので、次のように計算できます。

 

さらに、各距離を計算してみると下のようになります。

敢えて分かりやすい形で書いてみましたが、これで何かに気が付くはずです。x=cosθ, t=r/aと置き換えれば、まんまルジャンドル多項式の母関数の形になるじゃないですか。

 

ということで、ポテンシャルエネルギーを足す際にルジャンドル多項式を持ち込むと容易に計算ができます。

これによって、考える点が中心に近い場合は、この右辺の低次の項だけ見ることで特徴をとらえられるようになります。このポテンシャルエネルギーを微分すれば晴れて電場が計算できることになります。

 

2.ルジャンドル陪関数

 

次に、ルジャンドル多項式の拡張版である「ルジャンドル陪関数」について紹介します。

 

2-1. 定義

 

定義はルジャンドル多項式自体を使って次のように書けます。

ルジャンドル多項式をk回微分して、それに(1-x^2)^(k/2)をかけたものになります。kが偶数であればこの式もまた「多項式」となりますが、kが奇数の時にルートが残ってしまうため、「陪『関数』」と呼んでいます。

 

ただ、実践上は上記の双極子展開の例のようにx=cosθとなる場合が殆どであり、その時はルートの部分はsinθになるだけなので、そこまで不便さはないです。

 

2-2. 微分方程式

 

ルジャンドル「陪関数」の微分方程式は、ルジャンドル多項式」の微分方程式をさらにk回微分することで作成できます。その際にもライプニッツの公式が活躍します。

これが「ルジャンドル『陪』微分方程式」と呼ばれるもので、冒頭の球面調和関数を導く際に登場します。k=0とすれば、元の「ルジャンドル微分方程式」に戻ります。

 

2-3. 直交性

 

この拡張版についても、きちんと直交性が成立していて下のようになります。

 

これを導出するには、微分方程式を変形することで「微分して同じ形ができる」という関係式を作る必要があります。

この式を見ると、微分を行うことでkの番号が一つ下がって係数が吐き出される、という形になっています。

 

この関係式を使って部分積分を使うと、元のルジャンドル多項式の話に帰着できます。

 

 

次回は、直交多項式の最終回「ラゲール多項式」を紹介します。