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シュレディンガー方程式を解く その2 ~調和振動子~

みなさん、こんにちは。

 

今回は「シュレディンガー方程式」シリーズの第2弾として、ばねのモデルである「調和振動子」について考えます。

1.解くべき方程式

 

1-1. 状況設定

 

調和振動子とは、簡単に言ってしまえば「ばね」のことです。

ばね定数がkのばねに質量mの粒子が繋がれていて、粒子が自然長からxだけズレた位置にあるときのポテンシャルエネルギーはkx^2/2なので、今回考えるシュレディンガー方程式は下のようになります。

(※今回はx軸上の動きしか考えないので、ラプラシアンはxの微分のみ考えます)

 

ニュートン運動方程式を使ってばねの固有振動数ωを調べると、

となるので、シュレディンガー方程式は下のように書き換えられます。

 

 

1-2. 変数の無次元化

 

このままでも原理的には解けますが、m, ω, hなどの定数が入り乱れているので、それらを変数xに吸収して簡単にしていきます。

具体的には、変位xとエネルギーEを以下のように無次元変位ξ, 無次元エネルギーεに変えます。

このように変換してあげると、シュレディンガー方程式がかなりシンプルな式にできます。

 

ここで、天下り式ですが、波動関数を下のような形で仮定します。

この形をシュレディンガー方程式に代入して計算を進めると、最終的に(*)'''の形になります。

 

この形に近い方程式、実は以前に取り上げています。もしε-1が偶数2nなら、この方程式は「エルミートの微分方程式であり、その解は「エルミート多項式」Hn(ξ)になるんでした。

 

↓エルミート多項式についてはこちら

内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その2 ~エルミート多項式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

ということで、この方程式の解について詳しく見ていきます。

 

2.境界条件~エルミートの微分方程式

 

2-1. H(ξ)をべき級数展開

 

上記のように、調和振動子シュレディンガー方程式は、エルミートの微分方程式に非常に近い形に変形できます。

 

まず、この方程式の解H(ξ)を⑤のようにべき級数の形で考えます。m次の係数amが全て求まれば、H(ξ)が分かるという算段です。

これを(*)'''に代入して係数比較を行うことで、⑥~⑧のようにamの漸化式が出来上がります。(番号が2個飛びなので、mの偶奇による場合分けが生じる漸化式です)

このとき、⑧の分子が永久に0にならなければ、(a0とa1が0でなければ)amはずっと0でない値となり、べき級数は無限項続くことになります。

 

実は、シュレディンガー方程式物理的に意味のある解をもつには「べき級数は有限項で止まる=H(ξ)は有限次の多項式になる」ことが必要なのですが、そのことを示すために、べき級数が無限項続く場合を仮定して考えていきます。背理法の考え方ですね。

 

2-2. べき級数は有限項でなければならない

 

もしべき級数が無限項続くと仮定すると、漸化式⑧は、mが十分大きい時は次のように近似できます。

mが大きい時には、分母分子共に最高次の項だけが効いてくるという考え方です。

 

ここで、突然ですが、次の関数g(ξ)を考えて、

これをテイラー展開します。

すると、係数の漸化式は⑧'とほぼ同じ形になります。

 

ということは、ξが十分大きい所でのH(ξ)の振る舞いは、ほぼg(ξ)のそれと同じになるという事です。

よって、ξが大きいとき、波動関数は下のように近似できます。

重要なのは、このときξ→∞ (つまり無限に遠い距離)を考えると波動関数が発散してしまうという事です。

 

波動関数は粒子の存在確率なのですから、発散してもらっては困るわけです。

 

以上の議論から、べき級数が無限項続くと物理的に不整合な解が出てしまうので、背理法により「べき級数は有限項で止まる」つまり「H(ξ)は有限次の多項式になる」ことが必要だと確かめられます。

 

2-3. べき級数が有限項で止まる条件

 

べき級数が有限項で止まるというのを言い換えれば、「amは途中からすべて0になる」となりますね。

 

漸化式⑧は番号2個飛びの漸化式なので、a0が決まればa2, a4,・・・といった偶数次の係数がすべて決まり、a1が決まればa3, a5,・・・といった奇数次の係数がすべて決まる、という構造になっています。

a0とa1が両方0だと波動関数自体が0になって何の意味もない結果となってしまうので、少なくとも一方は0でないとしましょう。

 

a0が0でないとすると、漸化式⑧の分子が途中で0になってくれれば途中から偶数次の係数は0となりますね。

こうなるためには、ε=2n+1 (奇数)になっていることが必要十分条件です。こうであれば、m=nとなった瞬間に⑧の分子が0になって目標が達成できます。

 

一方奇数次の係数について考えると、もしa1が0でないなら以降も0になりようがありません。よって、a1=0とすることが必要十分条件です。

a1が0でないと仮定したときも、全く同じ議論になります。

 

まとめると、H(ξ)が有限次の多項式になる条件は

であり、各係数を下のように決めてあげればよいわけです。

 

これでεに制限がかかったので、元の(*)'''に代入すると、

となって、まさに「エルミートの微分方程式」そのものになります。

 

ということで、H(ξ)はn次のエルミート多項式Hn(ξ)で確定します。

 

3. シュレディンガー方程式を解いた結果

 

3-1. エネルギー固有値の導出

 

εに⑩の制限がかかったので、元々のεの定義②からエネルギー固有値が求まります。

井戸型ポテンシャルの時と同様、エネルギーは連続的ではなく飛び飛びの値を取ることが分かります。

 

さらに注目すべきは、エネルギーの最小値(n=0のとき)が0にならないということです。これは、粒子が完全停止することはないことを意味しており、この最小値を「ゼロ点エネルギー」と呼びます。

 

3-2. 規格化定数の決定

 

粒子の存在確率の総和が1になるように、係数Anを決めていきます。

波動関数を2乗すると、見事にエルミート多項式の直交性が利用できる形になります。

(直交性はこちらをご確認ください。内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その2 ~エルミート多項式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

3-3. 最終結

 

以上から、調和振動子シュレディンガー方程式の解(エネルギー固有値波動関数)は下のようにまとめられます。

 

規格化定数を省いた形で波動関数をξの関数として図示すると下のようになります。

ピークの位置がnが増えるにつれて右側にシフトしていき、どのnについても0に収束していく様子が分かります。

 

3-4. 粒子の位置の期待値・標準偏差

 

粒子の位置が確率的にしか分からないというのが量子力学の特徴でした。しかし、正確な位置は分からずとも期待値は調べられます

 

ということで、オマケで粒子の位置の期待値を調べてみましょう。

 

期待値の計算方法は、普通の確率における期待値と同様です。波動関数の2乗が確立になることに注意すると、位置xの期待値<x>は、

のように0になります。これはエルミート多項式が偶関数か奇関数になるからです。

 

これでは有意義な情報が得られないので、今度はx^2の期待値を調べてみると、

 

のように計算できます。エルミート多項式の漸化式を利用することで直交性が利用できる形に邪魔なξを吸収できる、というのが計算のテクニックです。

 

n(つまりエネルギー)が大きくなるにつれて、x^2の期待値も大きくなっていくことが分かります。

 

さらに、以上の結果からxの標準偏差を調べることができます。

こちらもnについて単調増加なので、エネルギーが高くなるにつれて粒子の位置がばらついてくる=ぼやけてくることが分かります。

 

 

 

ということで、調和振動子についての解説はこれでお終いです。次回以降で、水素原子の中にある電子についてのシュレディンガー方程式を考えていきます。