みなさん、こんにちは。
今回は「シュレディンガー方程式」シリーズの第3弾「水素原子」の後編で、前回の「角度方向」に引き続き、「動径方向」について考えます。
最後に、元々の方程式の解の全容を調べていきます。
※今回の記事は下の前編の完全な続きですので、こちらを先にお読みください。
5. rの方程式 ~ラゲールの陪微分方程式~
前編におけるr,θの方程式
において、β=l(l+1) (l:非負整数)となることが判明したので、結局rの方程式は、
のようになります。
ここで、天下り式ですが、rを次のような無次元変数ρに変換します。
ルートの中身にマイナスが入ってることを不思議に感じる人がいると思いますが、それには理由があります。
今回の大本のシュレディンガー方程式において、ポテンシャルエネルギーVは負の値でした。
もし、電子のエネルギーEが正の値だとすると、E>Vとなって電子が原子核のクーロン力から飛び出すことが可能になってしまいます。今回は電子が確実に原子核の周りに束縛されている状況を考えているため、Eは負の値とするわけです。なので、ルートの中にある-Eは正の値です。
この変換を施すことで、方程式は⑲のように書き換えられます。
これでも、まだ解くのは難しそうです。
ここでさらに、天下り式ですがF(r)の形を以下のように置きます。
こう変換すると、最終的に⑲は㉓になります。
このとき、2l+1を一塊と解釈すると、もしγが自然数nならばこの方程式は「ラゲールの陪微分方程式」そのものです。
↓ラゲールの陪微分方程式に関してはこちら
内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その4 ~ラゲール多項式~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
証明は省きますが、㉓はγ=n(自然数)かつ0≦l≦n-1のときだけ物理的に意味のある解を持つことが分かり、その時に方程式は「ラゲールの陪微分方程式」となって、L(ρ)は「ラゲールの陪多項式」となります。
よって、rについての波動関数F(r)は以下の形で書けます。
先にγ=nの関係から、固有エネルギーEを求めると下のようになります。
井戸型ポイテンシャルや調和振動子の時と同様に、やはり飛び飛びな値を取ることが分かり、nについて単調増加なことも分かります。
また、球面調和関数由来の整数であるl,mには依存しないというのも重要な知見です。
そしてこの固有エネルギーを利用すると変数ρは次のようにシンプルに書き換えられます。
規格化定数については、「確率の総和=1」の条件からラゲール陪多項式の「直交関係(その2)」を使うことで求めることができます。前編の補足で述べたように、確率計算の際にヤコビアン由来のr^2がオマケで付くことに注意しましょう。
よって、rに関する波動関数は㉚となり、これを「動径関数」と呼びます。
長くなりましたが、以上から、水素原子のシュレディンガー方程式の解(固有エネルギー、波動関数)は、次のようにまとめられます。
補足:電子の収容数について
nを固定したときのlの取りうる値が0≦l≦n-1, その各lに対してmの個数はm=0,±1, ±2,・・・,±lの2m+1個あるので、1つのn(つまり固有エネルギー)に対する波動関数の個数は、n^2個あることが分かります。
「パウリの排他律」という理論によって、1つの波動関数に対して2個まで電子が入れることが知られているので、エネルギーEnを取れる電子の個数は2n^2個となります。
高校化学で「内側からn番目の軌道に入る電子の個数は2n^2個」と習うはずです。これがまさに、上記の個数と一致します。こうやって高校化学の電子の収容数の話の裏付けが量子力学によって分かったというわけです。
6. 動径関数
6-1. 具体的な形状
動径関数を各nごとに具体的に計算してみると、次のようになり、
グラフにすると下のようになります。
6-2. rの期待値
動径関数を利用して、電子が原子核からどれだけ離れているか、つまりrの期待値を計算してみます。
ラゲール陪多項式の直交関係を利用すると次のような公式が導出でき、
これを利用すると、次のように期待値の一般式を求めることができます。
各状態について期待値を具体的に求めると下のようになり、
1. nが大きいほど距離が大きい
2. 同じnの中ではlが大きいほど距離が大きい
という傾向が分かります。
以上で、シュレディンガー方程式についての記事は一区切りとなります。お疲れさまでした。