ちょぴん先生の数学部屋

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内積の概念を関数にも・・・直交多項式 その2 ~エルミート多項式~

皆さん、こんにちは。

 

4回シリーズでお届けしている「直交多項式」の第2弾です。

 

2回目の今回は「エルミート多項式」について紹介します。

この「エルミート多項式」は、ミクロなばね(=調和振動子)に関するシュレディンガー方程式を解く際に登場します。

 

1. エルミート多項式の定義

 

1-1. 母関数による定義

 

今回紹介する直交多項式「エルミート多項式」は、以下のように母関数を使って定義されます。

左辺の指数関数が母関数で、これをtのべき級数の形に書き直したときのn次の係数が、エルミート多項式となります。

 

この母関数による定義は、漸化式や微分方程式を導出する際には大いに役立ちますが、このままではイマイチ実態が何かが掴みにくいです。なので、一般項を求めてみましょう。

 

1-2. ロドリゲスの公式

 

上記の定義は、ちょうど母関数をテイラー展開した形になっています。

(※テイラー展開については、この記事にて触れています。バーゼル問題の証明その1 ~オイラーの証明~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com) )

 

それを参考にすると、エルミート多項式Hn(x)は「母関数をtでn回微分した関数に、t=0を代入したもの」として計算できることが分かります。

 

ということで、エルミート多項式Hn(x)の一般項は、以下のように計算できます。

 

結果、符号を除けば、Hn(x)は「e^(-x^2)をxでn回微分したときに出てくる、e^(-x^2)の係数」になっていることが分かります。

 

この式のように、直交多項式を計算しやすい一般項の形にしたものは「ロドリゲスの公式」と呼ばれ、後に紹介する「ルジャンドル多項式」「ラゲール多項式」にも同様の形の一般項が存在しています。

 

これで少しは馴染みやすいものになったかと思います。

 

2. エルミート多項式の漸化式・微分方程式

 

エルミート多項式の母関数を、tやxで微分することによって漸化式や微分方程式を導くことができます。

 

2-1. 漸化式の導出

 

エルミート多項式自身の微分が登場しない漸化式にしたいので、「tで微分する」という手段を使って係数比較していきます。

 

この漸化式から、Hn(x)はn次の整数係数多項式になっていることが分かり、具体的には下のように書き下せることになります。

 

2-2. 微分方程式の導出

 

先ほどはtで微分したので、今度はxで微分して同様の係数比較を行うことで微分方程式を導けます。但し、完全に番号の揃った多項式微分方程式を得ようと思ったら、先ほど導出した漸化式が必要となります。

この微分方程式は「エルミートの微分方程式」と呼ばれ、冒頭に触れた、調和振動子シュレディンガー方程式を変形するとこの微分方程式の形になります。詳細は後日紹介します。

 

3. エルミート多項式の直交性

 

さて、これまでこのエルミート多項式は「直交多項式」と紹介してきました。では、その肝心の直交性はどうなっているか?結論から言うと下のようになります。

積分範囲は-∞<x<∞、重み関数はw(x)=e^(-x^2)です。

 

この事実を証明するには、前述のロドリゲスの公式を活用することで部分積分を使い、多項式の番号を1つずつ下げていくという操作を使っていきます。この番号の片方が0になるまで下げていったとき、もう一方が1以上の番号になる場合と、番号が0になる場合とで状況が変わってくるというわけです。

 

具体的には、下のようになります。

(※(n次多項式)×e^(-x^2)のx→±∞の極限は、指数関数が圧倒的に強いため0になることに注意です)

m=nの場合の計算は、最後でガウス積分の結果を利用しています。ガウス積分 ~統計学で最も重要な積分~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

 

これで、確かにエルミート多項式は「直交多項式」になっていることが確かめられました。

 

次回は「ルジャンドル多項式」、そしてその拡張版である「ルジャンドル陪関数」を紹介します。