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バーゼル問題の証明その3 ~フーリエ級数展開を使った証明~

皆さん、こんにちは。

 

今回の記事では、以前ご紹介したバーゼル問題

を証明しようと思います。

 

バーゼル問題の紹介記事

stchopin.hatenablog.com

様々な証明の仕方がありますが、最終回の今回は、「フーリエ級数展開」という大学数学のテクニックを使った証明方法を紹介します。

 

前回2回、バーゼル問題の証明方法を紹介してきました。

stchopin.hatenablog.com

 

今回は、「フーリエ級数展開」という、もろに大学数学に足を突っ込んだ飛び道具を使った証明方法を紹介します。

 

[Step1: x^2をフーリエ級数展開する]

 

フーリエ級数展開」とは、「関数を三角関数の和の形に分解すること」です。

 

実用面では、実験などで得られた信号を「周波数の異なった波の重ね合わせに分解する」作業に相当します。この作業を行うことで、どの周波数の波が主成分なのかを分析したり、音源などで人間の耳には聞こえない周波数帯の音を削除して容量を圧縮する、といったことが可能になります。

 

今回は、y=x^2 (-π≦x≦π)という放物線の一部を、三角関数の和に分解します。

 

-π≦x≦πという範囲に絞ると、周期が2π、π、2/3π,・・・2/n×πの三角関数の足し算に分解できて、数式として書くと①式のように書けます。

f:id:stchopin:20210510154951p:plain

本当であれば、sinとcosの両方が登場するのですが、x^2は偶関数なので、偶関数のcosだけで十分となります。

 

次のステップでは、この各係数を求めていきます。

 

[Step2: フーリエ級数展開の係数の計算]

 

係数の計算には、積分を使います。

 

最初にa0を計算します。これは①式を-π≦x≦πの範囲でそのまま積分すると、

f:id:stchopin:20210510155453p:plain

 

と求まります。個々でのポイントは、三角関数は周期分の長さで積分すると0になって消えてしまうことです。なのでa1以降の未知数が全部消える、というわけです。

 

次にa1以降の一般項を求めます。ここではamを計算することにします。

ここのテクニックが巧みなのですが、①式にcosmxをかけてから-π≦x≦πの範囲で積分すればよく、

f:id:stchopin:20210510155839p:plain

という感じになります。何が起こっているかを解説します。

左辺については、ごくごく普通の部分積分を行うだけなので特筆することはありません。

右辺については、まずcos同士の掛け算があるので「積和の公式」で足し算に分解できます。すると、cos(m+n)xの積分とcos(m-n)xの積分に分解されるわけです。

 

原則、cos(整数× x)という形は、前述のように-π≦x≦πの範囲で積分すると0になるので、右辺に登場する積分のほとんどは0になって消えてしまうわけです。

 

しかし、一個だけ例外があります。それはm=nの場合です。

m=nのとき、cos(m-n)x=cos0=1となり、この1個だけは積分が生き残ります。

それが、2行目から3行目で起こった計算です。

 

これにさえ注意できれば、あとは普通の計算です。

 

いずれにせよ、これでanの一般項が求まったので、x^2は以下のようにフーリエ級数展開できることが分かりました。

f:id:stchopin:20210510160735p:plain

この式の確からしさを、excelに描かせて確かめてみましょう。

n=1,2・・・と順に足していくcos関数を増やしていくと下記のようにどんどんy=x^2に近づいていきます。

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[Step3: x=πを代入する]

 

話をバーゼル問題の証明に戻します。

 

x^2をフーリエ級数展開した式

f:id:stchopin:20210510160735p:plain

x=πを代入すると、

cosnπ=(-1)^n となるので、Σの中には1/n^2しか残らなくなります。結果、

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となって、バーゼル問題が証明できました。

 

このフーリエ級数展開を使った証明方法は汎用性が高く、例えばy=x^4をフーリエ級数展開することによって、

も証明することができます。この記事を参考にして、是非解いてみることをオススメします。