ちょぴん先生の数学部屋

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WHOの「とにかく検査だ!」は正しいのか? を確率で検証!

今、世界は新型コロナウイルスパンデミックで大騒ぎになっています。

 

この事態を受けて、WHOのテドロス事務局長が、

「とにかく検査、検査、検査だ!!」と言っているようですが、果たしてそれが正しいのか、高校生で習う、「条件付き確率」を使って検証してみましょう。

 

さて、まずは前提条件を述べておきます。

 

今一番感染がひどい状況になっているイタリアは、人口6000万人に対して感染者が4万人と公表されています。これをもとに、多めに見積もって、

 

感染率:1000人に1人

 

としましょう。日本では、今のところこれよりはるかに感染率が低いと言えます。

 

次に、検査に使うキットの精度も、めちゃくちゃ性能が良いとして、99%としましょう。(実際はもっと精度は低いと思います)。

 

つまり

「コロナに感染している人を検査して、正しく陽性と判定する確率が99%」

「コロナに感染していない人を検査して、正しく陰性と判定する確率が99%」

とするわけです。

 

以上、感染率は1000人に1人、検査キットの精度を99%と大げさに定義します。

 この条件の下で、10万人が検査を受けたとしましょう。

 

このとき、感染の有無、感染の判定をまとめると下のようになります。

            陽性判定     陰性判定

感染している      99人       1人

感染していない     999人      98901人

 

 

この表から、陽性判定のでる人は、1098人出ることになります。

このうち、実際に感染している人は、99人しかいないわけなので、

 

陽性判定を受けたとき、実際に感染している確率は、

99÷1098=9% 

と計算できます。

 

意外と低いですよね。

この結果を見ると、検査の陽性判定なんてあまり当てにならないことがわかります。

 

しかも今回は感染率0.1%、検査精度99%とかなり大目に見積もったのにこの結果なので、実際にはもっと確率は低くなります。

 

では、検査が信用できるようになるにはどうなればよいのか?

まず、検査キットの精度がもっと上がり、99.99%になったとしましょう。

 

            陽性判定     陰性判定

感染している      99.99人       0.01人

感染していない     9.99人      99890.01人

 

そのとき確率は、99.99/109.98=91%となり、ほぼ信用していい値になります。

とはいえ、精度が99.99%なんて技術的にあり得ない数字ですので、これに期待するのは無謀でしょう。

 

では、感染率が上がればどうか、感染率をR%としましょうか。精度99%の下で、

            陽性判定     陰性判定

感染している      990R人       10R人

感染していない     10(100-R)人   990(100-R)人

 

となるので、陽性反応の人が実際に感染している確率は、99R/(100+98R)と書けます。

仮に、これが50%以上で信用できると判断することにすると、Rは1%以上ないといけません。

 

つまり100人に1人が感染している(日本で言えば100万人以上が感染)という、パンデミックが世紀末的に進行した状況でないと、検査の結果は信用に値しないということができます。

 

個人に限れば、既に症状が出始めている、罹った人の濃厚接触者である、などの事情があればRの値が相当大きくなるので信頼度が上がるでしょう。しかし、健康な人を含めた不特定多数の検査は、あてにならないと言えるでしょう。

 

 

ということで、残念ながらWHOの「とにかく検査だ」は妥当じゃないという結論になります。

 

むしろ無用な検査を徒に増やす結果、検査キットや人員が足りない、陽性反応で隔離しなくてはいけない患者の急増となってしまい、かえって医療崩壊を起こす危険性すらあります。韓国の惨状は、まさにこのケースだったようです。

 

 

というわけで、コロナウィルスに因んで、役立つ確率の話をしました。

 確率の知識を身に着けておくと、こうした煽りや統計のマジックに騙されにくくなりますよ。

 

 [2021/8/25追記]

「つまり100人に1人が感染している(日本で言えば100万人以上が感染)という、パンデミックが世紀末的に進行した状況でないと、検査の結果は信用に値しないということができます。」

 

と書きましたが、今現在累計の感染者が100万人を優に超えたので上記が現実になってしまいました。

 

現在、PCR検査の感度(=感染した人を正しく陽性と判定する確率)は70%、特異度(=感染していない人を正しく陰性と判定する確率)は99%と言われているので、

 

100人に1人が感染している状況では、

陽性反応の人が実際に感染している確率=41% となり、そこそこ信頼できる値になります。