ちょぴん先生の数学部屋

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ボールを投げても絶対に届かない領域を調べよう ~カツオが窓を割って大目玉を食らわないために~

皆さん、こんにちは。

 

サザエさんの中で、カツオと中島がキャッチボールをしている最中にボールが飛んで行って窓を割ってしまって大目玉を食らうシーンがよく出てきますね。

 

それを見て考えてみたくなりました。カツオの投げたボールが絶対に届かないのはどこからなんだろう?って。

 

ということで今回は、投げられたボールが絶対に届かない領域を、ニュートン運動方程式を使って求めてみます。

 

0. 状況設定

状況設定は以下のように考えます。

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x軸を地面と平行だと考え、原点から質量mのボールを角度θの方向に初速v0で投げることを考えます。

また下向き(y軸負の方向)に重力が働き(重力加速度g)、空気抵抗は考慮しないものとします。

 

1. ボールの軌跡を求める

 

高校の物理で習ったと思いますが、ボールの運動を調べるには、x方向の運動とy方向の運動に分解して考えればよいのでした。

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ということで、まずはx方向の運動から。

ボールに働いている力はy方向の重力だけなので、x方向には力が働きません。

 

力が働かないとき、物体は「等速直線運動」するのでした。

ボールのx方向の初速はv0cosθなので、x方向のボールの速度vxはこのまま一定です。

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よって、t秒後のボールのx座標は、単純に速度×tで求まることになります。

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次にy方向について。

 

y方向に働く力は重力-mgなので、ボールの加速度ayはニュートン運動方程式F=maから下のようになります。

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この加速度ayを一回tで積分すれば速度vyに、速度vyをさらにもう一回tで積分すればボールのy座標が求まることになります。

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積分区間は0~tに設定し、積分の前にt=0での値、つまり初期値を足しています)

 

こうして、時刻tでのボールの座標がx, yともに求まったので、tを消去すれはボールの軌跡が求まることになります。

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ここで、tの分母が0になってしまうθ=90°の場合だけ例外処理しています(ボールを真上に打ち上げる場面を想定)。

 

③のように、yがxの2次関数で表現できました。この性質故に、2次関数のグラフの事を「放物線」と呼ぶのです。

 

簡単に、この放物線の性質を見てみると、

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因数分解を使えば、着地点Lが、

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平方完成を使えば、最高到達高度hが、

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だと分かります。

 

なので、最もボールを遠くまで飛ばそうと思えば、⑤よりsin2θを最大にすればよいと分かります。その時のθはθ=45°です。

 

よって、体力測定などで砲丸投げなどの記録を伸ばしたければ、45°方向に投げることを意識するとよいと思います笑

 

2. ボールが絶対に届かない領域を調べる

 

さて、いよいよボールが絶対に届かない領域を調べます。

 

実際には、「ボールが届きうる領域D」を調べて、それを逆転させたもの、として求めます。

 

ここで、ボールの軌跡を再掲します。

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ここで、「ボールの投げる角度θを変化させた時のこれらの軌跡の通過領域」が、「ボールが届きうる領域」になります。

(※初速v0は投げる人の腕力に依存すると考え、一定とします)

 

曲線の通過領域・・・大学入試でおなじみのテクニックですね。

 

まずは、θがcosとtanとばらばらの関数になってしまっているので、tanθで統一します。

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θ=90°の場合は最後に組み込めばよいので、原則0°<θ<90°で考えます。このとき、tanθはプラスの値をいくらでも取れることになります。

 

ここから、通過領域を以下の2通りで解いていきます。高校数学の復習として追ってみてください。

(1) 逆像法

(2) 順像法

 

(1)逆像法

これは、③’をtanθの2次方程式と解釈して、これがプラスの解を持つようなx.yの条件を求める、という方法です。

 

とりあえず、tanθで整理すると⑦式のようになります。

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登場する文字は全てプラスの数なので、

2次の係数:プラス、1次の係数:マイナス、定数項:プラス

だと分かります。この場合、解と係数の関係から、⑦の解はプラスのモノが2個存在。となるはずです。実数解であればの話ですが。

 

なので、⑦の判別式が0以上でさえあれば⑦はプラスの解を持ちOKとなります。よって、

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この⑧が、放物線③’の通過領域となります。図にすればθ=90°の場合の④もきっちり含んでいることが分かります。

 

(2)順像法

こちらは、xを固定してθを動かしたときのyの範囲を求める、という方法です。

③’をtanθの2次関数と見なして平方完成すれば、

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となるので、yの取りうる範囲は、結局

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となり、当然ながら(1)と全く同じ答えが得られます。

 

つまり、「ボールが届きうる領域」は上凸の放物線の下側、になるわけです。

 

これを逆転させれば、「ボールが絶対に届かない領域」となり、下図のようになるわけです。

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カツオたちは、この斜線部の範囲に窓が収まるような場所で、キャッチボールをすればまず怒られないわけですね笑

 

こんな形で、高校数学で習う「曲線の通過領域」というのが応用できたりするわけです。