ちょぴん先生の数学部屋

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平成の東大理系数学 -2012年-

このシリーズでは、平成の東大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。

東大の数学の問題は、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。

(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )

 

8回目の今回は、2012年の問題です。

第1問

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円と直線で切り取られる線分の長さを考える問題です。

 

lの式をy=mxとして、Lの長さを表現し微分するという段取りで解ける、易しめの問題です。

mの範囲は、Dの下端と上端の座標から求めることができます。

 

<筆者の解答>

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第2問

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隣り合う部屋間を移動する状況を題材にした確率の問題で、良問だと思います。

 

最初の数回で実験してみると、(Qの2つ左隣の部屋をRとすると)

・偶数回目:P, Q, Rのどれかにいる

・奇数回目:P, Q, R以外のどれかにいる

ことが分かるかと思います。

よって、この時点でnが奇数の時は求める確率は0になってしまうので、nが偶数の場合だけ考えればいいことが分かります。

 

あとは、n回後にPにいる確率、Qにいる確率、Rにいる確率で漸化式を立ててしまえばよいです。

 

<筆者の解答>

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第3問

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楕円と放物線で挟まれた領域を、x軸周り・y軸周りの2通りで回転してできる立体の体積、そしてその2つの大小を調べる問題です。

 

(1)体積なので、当然積分するわけで、楕円と放物線の交点の情報が必要なのでまずそれを調べましょう。

 

あとは、セオリー通りに積分を実行しましょう。

 

(2)は、(1)の答えから、実質√2の値を使って大小比較する問題に帰着します。

問題文には書いてありませんが、√2の近似値を、「ひとよひとよにひとみごろ」の語呂合わせで覚えている方も多いでしょう。

 

答案では、小数点以下3桁の精度で調べていますが、今夏の問題では、結果論ですが小数点以下2桁の精度で十分です。

 

<筆者の解答>

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第4問

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連続n整数の積がn乗の形で書けないことを証明する整数問題です。(1)はなんとか解きたいですが、(2)は難問だと思います。思いつかなければ即捨てでOKです。

 

(1)は、以前2019年の第4問で紹介した、「互いに素な2つ整数の積が平方数 → 2つの整数それぞれが平方数」という事実を使います。これは別に平方数に限らず、一般のn乗数でも成り立つ話です。

 

また、「となりあう2つの整数は互いに素」という事実も重要です。

 

この2つの事実を使うと、もしM(M+1)がn乗数だったら、Mもn乗数、M+1もn乗数となりますが、n乗数が隣り合うなんてありえないですよね?

 

これを証明すればよいです。

 

(2)は難問です。「n個の整数がすべて互いに素」というわけではないので、(1)のロジックが使えません。ということで、別案を考える必要があります。

 

最初、n個の整数に含まれる最大の素数pの個数がn個未満であればいい、なんていうアイデアが浮かびましたが、素数の分布はそれこそリーマン予想が解けでもしないと皆目わからないので、うまくいかないことが分かり、断念。

 

そこで、背理法です。「もしn乗数で書けちゃったら・・・」という発想ですね。

もし、連続n個の整数の積がm×(m+1)×・・×(m+n-1) = L^n と書けちゃったとすると、

Lはm+1からm+n-2までの数に絞られます。そのなかで、代表としてL=m+kと仮定します。

 

すると、L^nは当然m+kの倍数で、かつm+k-1やm+k-1の倍数にはなりえません。

なぜならm+k±1は、m+kと互いに素だからです。

 

ところが、m×(m+1)×・・×(m+n-1) には、m+k-1やm+k-1が含まれてしまっているので、m×(m+1)×・・×(m+n-1)はm+k±1の倍数、という話になってしまいます。これが矛盾となるわけです。

 

この発想に至るまでにかなりの時間を要してしまいました。。。

 

<筆者の解答>

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第5問

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行列の掛け算に関する問題です。発想力と論理慣れが必要な難問です。

 

条件(D)は、言いかえれば「各成分が整数で、行列式が1か-1になる」となります。

 

(1)は素直に行列の掛け算をして、行列式を計算すれば容易に証明できます。

ここでわかる結論は、「条件(D)を満たす行列であれば、左からBないしB^(-1)をかけても条件(D)を満たす」 ということです。

 

一般にAの行列式をdet(A)と書けば、det(AB)=det(A)det(B)が成立し、今回の場合はdet(B)=1となっているので、当然の結論と言えます。

 

(2) (1)の結果でc=0としてみると、右上の成分だけが変化し、他の成分が変わっていないことに気づきます。しかも右上の成分の変化の仕方も、dが足されたり引かれたりしているだけです。

 

ということは、BやB^(-1)を次々にかけて出来上がる行列は、「右上の成分は、bにdを複数回足したものor引いたもの、他の成分は最初と同じ」であることが分かります。

 

そして、Aが(D)を満たすのですから、ad=±1。a,dは整数なので、aとdの絶対値は1しかありえないです。

 

dの絶対値が1なのですから、bがどんな整数であっても、dを複数回足したり引いたりすれば右上の成分はいつかは0にすることができます。これで証明完了です。

 

(3)は、証明すべき不等式を、いかに簡単にするかが問われています。

 

(1)の結果を使って整理すると、声明すべき式は、

「|a+c|<|a| か|a-c|<|a| のどっちかは必ず成立する(両方成立してもいい)」

となります。

上の式は、cの登場回数が少ないので、cを主人公にして書き換えることができます。

すなわち、

「-a-|a|<c<-a+|a| かa-|a|<c<a+|a|のどっちかは必ず成立する(両方成立してもいい)」

であり、さらに整理すると、

「-2|a|<c<0 か 0<c<2|a| のどっちかは必ず成立する」

となります。証明する式をここまで簡単にすることができました。

 

さて、与えられている条件を確認すると、|a|>|c|>0となっています。

 

これをまた、cを主人公にして書き換えると、

-|a|<c<0 または0<c<|a| となります。

この条件は、まさに「証明したい条件」の中にすっぽり収まってしまうことが分かるわけです。

 

今回証明したいのはあくまで、

「-|a|<c<0 または0<c<|a| ならば、-2|a|<c<0 か 0<c<2|a|のどっちか」

であり、その逆ではありません(ちなみに逆は成り立っていないですね)。この論理構造を見抜けるかが問われていました。

 

<筆者の解答>

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第6問

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まさかの2連続で行列の問題です。これは、発想力よりも、計算のごり押しをどこまで通せるか、という類の問題です。はっきり言って面白くない問題です。

(計算する式にも大して応用上の意味もない上に、Dの成分なんてただの嫌がらせでしかないです。)

 

(1)(2)も基本的には計算のごり押しで、特にコメントはないです。

 

(1)は最後だけ注意です。costに絶対値をつけるのを忘れないように。

(2)は、最後の局面で少し発想が要ります。なんとも名状しがたいa,b,cのごちゃごちゃした式がプラスなので、評価の際はごっそり消すことができます。

 

余談ですが、この問題に登場する、U(t)AU(-t)は、「行列を回転行列とその逆行列でサンドイッチする」という作業で、線形代数の言葉で「ユニタリ変換」と呼ばれます。

(回転行列も一般に「ユニタリ行列」と呼ばれており、今回の問題で回転行列がUで書かれているのは、ユニタリ(unitary)の頭文字だと思われます)

 

ユニタリ変換は、座標軸を回転させるのに不可欠な作業で、コンピュータ上のモデルを自由に回転させるときには、内部でユニタリ変換が行われています。

 

<筆者の解答>

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