このシリーズでは、平成の東大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。
東大の数学の問題は、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。
(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )
11回目の今回は、2009年の問題です。
第1問
2項係数の最大公約数を考える整数問題です。(3)が難問です。
(1)は、割かしよく出てくるトピックです。mCkを分数の形に書いてみると、素因数mが分子にしかなく、分母には現れません。よってmが約分されることはないので、mCkはmの倍数です。そして、mC1 = mなので、最大公約数はm以下になります。
(2)は、問題文の通りにkについて帰納法を使えば簡単に証明できます。
(3)は、思いつかないとまず無理だと思います。(2)をうまく使いたいですが、どう使えばよいか?
最初、(2)の式を因数分解して、k=2,3など小さい数で検討をつけようかと思いましたが、互いに素かどうかの議論がうまくいかず頓挫しました。。。
(2)では、k^m-kがdmで必ず割り切れることを示しました。たとえ、kがdmと互いに素であったとしても。
そして、(2)の証明時に末尾に1^m-1の形が登場し、このケースでは必ず0でした。しかし、もし末尾(-1)^m-1が出てくるとすれば・・・mの偶奇によって、0ではなく2になる可能性があるわけです。
そこで、k=dm -1とやってみると、k^m-kをdmで割った余りはmが偶数の時2になります。でも(2)によればdmで割り切れるはずです。
この矛盾を回避するには、2がdmの倍数、つまりdmが2の約数になるしかありません。
これで、dmが1か2しかないことが分かりますが、これで終わりにしてはダメです。まだ、「dmが2しかない」「dmが1しかない」可能性を排除できていません。よって、十分性の確認が必要です。
実際小さいmで実験してみると、m=2のときd2=2, m=6のときd6=1 となるので、どっちの値も取りえます。
これで十分性の確認も終わったので、証明完了です。
k=dm -1というアイデアはなかなか浮かんでこないでしょう。。
<筆者の解答>
第2問
行列を用いた極限の問題です。この問題は、「行列の対角化」という概念を背景にしています。関連するキーワードとしては、「固有値」「固有ベクトル」などです。
(1)は素直に計算するだけですが、この計算が、「対角化」の作業そのものになっています。
条件(ⅱ)は「とあるベクトル(r,1)にとある行列Aをかけたら、そのベクトルのs倍になる」というもので、この条件を満たすベクトル(r,1)を「固有ベクトル」、定数倍sを「固有値」と呼びます。原則2×2の行列に対して、2組の固有値と固有ベクトルのペアが存在します。この固有ベクトルを2つ並べて行列を作り、(1)のような計算をすると、Bは、「対角成分が固有値、残りの成分が0」というキレイな行列になります。この作業を、「行列の対角化」と呼びます。
工学の世界では、応力テンソルの固有値を「主応力」と呼んで、部品の強度を検討したりするのに使用されます。。
話が脱線してしまいました・・・
(2)は、(1)の式を使うことで、(zn,wn)を(xn,yn)の式で書くことができるので、証明は簡単です。
(3)は、zn,wnの一般項を求めて、極限を飛ばしたいところです。
Bの左下にcがいるので、B^nの式は簡単には求まりません。ということで漸化式を立てることを考えましょう。
行列で、漸化式を立てるのによく使われるのが、ケーリー・ハミルトンの定理です。
漸化式を解いたら、これが(2)より0に収束しないといけないので、cとaの条件が決まります。
<筆者の解答>
第3問
ガチャポンで出た玉の出方を考える確率の問題です。東大の問題にしては、平易な問題です。
いずれも、4色の出る順番を数え上げる作業に帰着します。
(1)は、最初の5回で、1色だけ2個残り3色が1個ずつ、後半の5回も一緒という出方をすればよいです。
(2)も(1)と同様に、1色だけ2個残り3色が1個ずつ、であればよいです。
(3)は、4色とも最低2個は出ないといけません。あとは残り2個の配分のしかたにより、場合分けです。
・1色だけ4個、残り3色が2個ずつ
・2色が3個ずつ、残り2色が2個ずつ
これだけP3/P1を計算させてますが、何でなんでしょうね?P3の分子分母があまりに巨大な数になっちゃうからでしょうかね。
<筆者の解答>
第4問
おなじみ立体の体積に関する問題です。
この問題が一風変わっているのは、180°回転に留まっている点です。これによって、立体の形状が対称性が崩れた歪なものになるわけです。
(1)は断面を描いてしまえば、ドーナッツの半分なので、積分は簡単です。
問題は(2)です。(1)で断面を描いているので想像がつきますが、x<0の部分がちょびっとしかないので、aが大きくなってしまえば、ほとんどこの部分はゴミみたいになってしまう、つまりx<0の部分の体積は0に収束しそうだと分かります。これを証明します。
まずは、体積を直接計算しようと頑張ってみますが、どうあがいても計算しがたい積分が出現して、直接計算の目途が立ちません。よって、不等式による評価を考えます。
(※V(a)を計算せよ、と訊かれていない時点で察するべきでした。。。)
断面になっている部分より、少しだけ面積の大きい図形をこしらえてあげて、こちらの体積を計算してしまいます。これにより、はさみうちの定理がつかえる形になりました。
<筆者の解答>
第5問
不等式評価の問題です。(2)の発想がテクニカルで難しいです。
(1)は、対数をとって微分して、というお馴染みの流れで解けます。
(2)は、(1)を当然使うんでしょうが、どう使いましょうか?
0.99とか0.9999が出てくるので、x=0.01とかx=0.0001あたりを代入しそうです。x=0.01の方は、指数部分も100になるのでよさげですが、x=0.0001のほうは指数が10000になってしまいダメそうです。ということで、x=0.01の代入の路線で考えましょう。
ですがそうすると、0.9999が出てきません。どうしましょう?
x=0.01であっても、1-x^2の形であれば0.9999を作ることができます。ということで(1)の式の両辺にうまい式を掛け算して1-x^2を作ればいいのでは?と思いつきます。
次に課題になるのは、指数に100は登場できても、相方は101ではなく99になってしまうこと。
この点は、(1)をもう一度見直しましょう。xはマイナスでもOKなんです。ということでx=-0.01を代入すれば指数に101を作ることができます。
このようなアイデア重視の面白い大小比較の問題でした。
<筆者の解答>
第6問
巨大な正三角形の土地の中で、3人が隅からまっすぐ移動してきて、どれだけ近づくことができるか?なんていうシチュエーションを考える問題です。
とにかく出てくる数が巨大で、角度も考えにくく、発想も難しい、このセットの最難問です。
(1)は、P1P2<1という条件をいじくり倒してsinθの不等式に持ち込みます。右辺がごちゃごちゃしているので、邪魔な部分を切り捨てて評価していく必要があります。この切り捨て方に工夫がいるでしょう。
(2)は、(1)で登場したθと、θ1, θ2の関係性を求めるところが山場です。図を描いて、考え抜いてみてください。それができれば、(1)の式を使ってsin関数の不等式を解けばよいです。
(3)は、(2)の事実を使うと、θ1, θ2, θ3は、30°から少しだけ誤差をもった角度ということが分かります。この誤差をδとして、PとOの距離をδの式で書いてしまいましょう。
さすれば、誤差の範囲から不等式で評価という流れになります。
最後の部分で、sin(5α/2)の評価が必要になります。5倍角の公式を使えば原理的にはできるのですが、さすがにそんなことはしたくありません。なので、フラッシュアイデアで、sin(5α/2)<5/2sinαだったらいいな。。と思い、使ってみました。
(αがとんでもなく小さい時には、ちゃんと成立を証明できます。よかった笑)
<筆者の解答>