ちょぴん先生の数学部屋

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アンテナの形状はなぜ放物面なのか?

皆さん、こんにちは。

 

テレビを設置している家庭とかだと、ベランダなどに小型の受信アンテナが設置されていますね。もちろんラジオ局などであれば、とんでもなく大きなアンテナが設置されています。

 

さて、それらのアンテナは、実は「放物面」という図形で設計されています。放物面とは、放物線を、軸の周りに回転してできる曲面の事です。

 

今回の記事では、アンテナがなぜ放物面で作られているのかを解説します。

 

アンテナに、軸に平行な向きで電波が飛び込んでくる状況を考えます。このとき、電波はアンテナにぶつかって反射します。この反射した電波はどこに飛んでいくかを考えてみましょう。

 

考えやすくするために、座標平面に落とし込みます。

 

アンテナはC: y=ax^2 (a>0)という放物線をy軸周りに回転してできる放物線だと仮定し、電波は直線l0 : x=p(>0)に沿って侵入し、点P(p, ap^2)で反射するとします。このとき、反射した電波の進む直線をl1として、l1の方程式を求めます。

 

(※放物面は回転対称なので、軸を含む平面で切って考えても一般性を失いません)

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それには、l1の傾きmが求まれば十分ですね。傾きが求まれば、Pを通ると分かっているのでl1の式がバッチリ決まります。ということで、この傾きmを調べます。

 

中学校の理科で習うように、電波を含めた光(=電磁波)は、「入射角=反射角」(反射の法則)となるように反射します。今、入射角=反射角=θとして、反射する様子を図にしてみます。

 

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電波が反射する面は現実には曲面なので、「曲面に対して入射角とか反射角とかどう考えればいいんだ!?」となりますが、そこは、Pでの接線Lを考えてあげればOKです。Pのごくごく近くでは「この直線で、曲線が近似できる」とできるのが接線でした。

 

反射の法則に注意すれば、l0とLの成す角はθ、l1とLの成す角もθとなるので、結局l0とl1の成す角は2θとなります。これにより、l1の傾きmはtan(90°-2θ)とθの式で求まります。

 

Lの式は放物線の式を微分すれば、

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となるので、tanθの式は

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と求まります。2倍角の公式を使ってmの式を求めると、

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となります。

 

よって、傾きmが求まったので、l1の式は、

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と求まります。

 

ここで、y切片の値に注目してください。1/4aとなっていてPの位置とは関係のない一定値になっていることに気付きます。

 

これが、何を意味するか?つまりこういうことになります。

 

「軸に平行に入ってきた電波は、どこで反射するかによらず必ず(0, 1/4a)を通過する」

 

放物線にはこんな性質があるのです。

この性質を利用すれば、「電波の受信器をこの定点F(0, 1/4a)に設置しておけば軸並行で入ってきた電波を漏れなく受信できる、というわけです。

 

さらに、電波の進路は逆走できるので、こんな風にも利用できます。

 

「電波の発信機をこの定点F(0, 1/4a)に設置しておけば、そこから発生した電波はすべて反射によって軸と平行な向きに飛んでいく」

 

これらが、アンテナが放物面で作られる理由なのです。

 

この定点Fのことを「焦点(focus)」と呼びます。

レンズに光を通したときに光が一点に集中する場所を焦点と呼んだのと同じ理屈です。

 

 

 

さて、この放物線の「焦点」ですが、上記のような物理的な意味だけでなく、数学的にもちゃんと意味のある点です。

 

そもそも放物線とは、「ある点からの距離と、ある直線からの距離が等しい点の軌跡」という定義なのです。ここに登場する「ある点」こそが「焦点」であり、「ある直線」のことを準線と呼びます。

 

今、焦点F(0, 1/4a)からの距離と、準線l: y=-1/4aからの距離が等しい点Q(X,Y)の軌跡を考えると、

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以下のように放物線y=ax^2となることが確認できます。

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このように、高校で習う図形の知識を応用することで、身近な機械の形状がなせその形状になっているのかを調べることができる場合があるという事です。