皆さま、こんにちは。
大学2年の時、東大駒場キャンパスの教務課で、とある塾の塾講師のアルバイト募集の張り紙があったので試しに応募しようとしたことがあります。
書類を塾に送付すると、しばらくたってこんな問題が送り付けられてきました(実際は細かい誘導が付いていたかもしれませんが、大枠はこんな問題です)。
目を疑いましたね。何このクソムズい問題!?って。東大で出題されたとしても間違いなく難問の部類です。これが解けないと採用しないぞ、っていうことなんでしょう。
ここが、この問題がスラスラ解けるくらいのハイレベルなものが要求される塾なのだと察して、応募するのを止めにしました。結局、地元の中学生を指導する杉並区の学習塾でのバイトに落ち着きました。。。
さて、せっかくなのでこの問題を塾講師さながらに解いてみましょう。
0. 問題の概要
問題を再掲します。
御覧の通り、空間図形に関する問題になっています。
高校数学だと、あまり空間図形の方程式を取り扱わない(せいぜい直線、平面、球面など)ので、馴染みがない問題だと思います。だからこそ、何から手を付けていいのかが難しい問題となっております。
この問題で題材となっているSは、式が比較的シンプルなこともあり応用上有用な曲面となっていて、最も顕著な応用例は、部品設計に使われる「ミーゼス応力」です。
(※この記事には、今回の問題の答えが図で乗っていますのでネタバレ注意)
「応力」というのは、物体に力を加えたときに物体内部に発生する力の事で、押したり引っ張ったり時にその物体が壊れるか壊れないかを調べるために使用されます。応力には色んな見方があるのですが、その中でも一番メジャーなものが「ミーゼス応力」です。
部品を設計するときは、その部品に力が加わった時に発生する応力が壊れる値よりも小さくなるようにするわけです。以上余談でした。
1. 方針立て ~曲面を特徴付ける図形を見つける~
Sの式を展開してzについて整理・平方完成すると以下のような形になります。
z=の式に直しても綺麗な式にならず、何も手掛かりは掴めそうにありません。展開してもあまり旨味がなさそうです。ということで、展開しない元の式の状態で何か手掛かりがないかを探ってみます。
Sの式をよく見ると、x,y,zについての対称式になっていることに気が付きます。
ということは、Sは「平面x=yについて対称」「平面y=zについて対称」「平面z=xについて対称」という性質を持っていることが分かります。
この3つの平面は、1つの直線L: x=y=zで交差します。この直線Lが、Sを特徴付ける直線だと言えそうですね。
Sを特徴付ける直線Lが分かったので、Lに垂直な断面を切って見たくなります。
この断面が何か美しい性質を持ってたら儲けもの。ということで次のセクションでは、この断面の性質を調べます。
2. 実際の回答 ~断面の性質を調べる~
今、直線L: x=y=z上に点P(p,p,p)をとり、Pを通ってLに垂直な平面αを考えます。
このとき、αの法線ベクトルはLと平行で(1,1,1)となるので、αの式は
α: x+y+z = 3pと書けます。
この平面αでSを切った断面を考えます。
このとき、α上の点Q(s, t, 3p-s-t)がS上にもあると仮定すると、Sの式に代入することで、①式が求まります。これがSの断面の満たす方程式です。
これだけだとまだまだ複雑で良く分かりません。
次に、Sの断面の特徴を捉えるために、PQの長さを求めてみます。実際に計算してみると、②式のようになります。
ここでも複雑な式なのですが、よく見てみると、①式そのものが登場していることに気が付きます。
ということは、①式を使えば、PQの長さは、
と綺麗に求まります!
PQの長さはr, つまり、Sのαによる断面上にある点は必ずPから等距離にある、と言うことを意味します。これ即ち、「Sのαによる断面は、Pを中心とする半径rの円である」ということです。
そして、PQの長さがpの値に依存しないことも注目すべき点です。これは、「Sはどこで断面を切っても断面は半径rの円になる+中心はL上の点である」ということです。ということは・・・・?
ここまでくれば、この問題は解けたも同然です。
「どこで断面を切っても中心がL上の点の、半径rの円になる図形」は、円柱(側面)ですよね。
よって、この問題の答えは以下のようにまとめられます。
「曲面Sは、直線x=y=zを中心軸にした、底面半径rの円柱側面である。」
いかがでしたでしょうか?
この解法は、特徴的な直線を見つけて垂直な断面を切る→長さを試しに調べてみる
という割かし発見的なものでマグレ感の強いものになっています。もう少しシステマチックに機械的に解きたい。
次以降のセクションでは、そんな別解を紹介します。
3. 少し高度な回答
Lに垂直な平面αでSを切った断面を考える、という方針自体は前節と一緒です。それ以降の議論をシステマチックにした解法を紹介します。
ずばり、「α上に、Pを原点とする2次元XY座標を作る」です。
上の図のようにXY座標を作ってみると、この座標で(X,Y)とかける点Qは、ベクトルを使って③式のように書けます。
eXはX方向の長さ1のベクトル、eYはY方向の長さ1のベクトルで、お互いに直行しています。
つまり、以下の条件を満たしています。
さて、⑥式は、αの法線ベクトルlとeX, eYが垂直だと読み替えられるので、
が成り立っています。X軸の向きを決めればY軸の向きは自動的に決まりますが、X軸の向きはどの向きでも構わないですよね。
なので、eXを
の形で書けるものに限定して構いません。長さ1という条件からs=1/√2と決まるので、
とX軸の向きが求まりました。
Y軸の向きについては、eYが「lとも垂直」「eXとも垂直」から求めます。eYの成分を文字でおいて解いていけばよいでしょう。
これでY軸の向きも確定できたので、XY座標で(X,Y)とかける点Qは、xyz座標では、
とかけることが分かります。これがα上の点Qの一般的な成分です。
ここで、このQがS上にあると仮定すると、Sの式に代入して計算すれば、
と、最終的にXY座標での「円の式」になりました。
これで、マグレではなく機械的に確信をもって前節と同じ結論が得られました。
とはいえ、自力で座標軸を構築するというハードな作業が求められる難しい解法ですよね・・・
この解法が、私が大学2年当時に思いついた解法になります。
4. 大学数学を使う回答
最後に、大学1年で習う「線形代数」を利用した方法をおまけで紹介します。
使う手法は、以前このブログでも紹介した「行列の対角化」になります。
Sの式を展開すると、以下のように行列の掛け算を使った形に書くことができます。
この真ん中に登場している3×3行列の固有値と固有ベクトルを計算して対角化するというのが解法の流れです。
回答を一気に載せてしまいます。
対角化を使ってうまく座標を変換すると、Sの式がストレートに円柱の式になります。
この対角化の過程で、
・(1,1,1)方向がSの中心軸である
・(1,1,1)に垂直な平面に作った座標の向きが3節と一致する
ことが自動的に分かってしまいます。
4. まとめ
以上3つの解法を紹介しましたが、最も機械的に解けるのが大学数学という体たらくで、高校数学の範囲ではかなり発想力の問われる難問だったと思います。
これを高校生を対象とした塾講師のバイトに要求するとは・・・やはりとんでもないレベルの塾だなと察せると思います。ここでバイトをしなくて正解でした笑