先日投稿した、当ブログの記事
に対して、以下のような反論を頂きました。
まずは、takehikoMultiplyさん、当記事をお読み頂いた上でのご返答、誠に感謝いたします。
小生が小学校における算数教育に関しては無知な素人なので、その分野の専門家にとっては結構頓珍漢に聞こえる発言をしてしまっていたかもしれません。大変勉強になりました。
ですが、正直申し上げますと、当該記事は、私の主張に対する真っ当な反論にはなっていないように思いました。
というわけで、ご指摘頂いた点に逐一お返事させて頂きます。
1. 『(掛け算の順番について)20年前よりももっと古い,テスト問題や指導の事例があります』
私が「自分が小学生の頃にはそんな規則はなかった」と書いた部分に関するツッコミですね。
確かに「そんな規則はなかった」と断言してしまったのはマズかったと思っています。事実として私が小学生だった頃も含めてそういう指導事例があるみたいですし。単純にそこは私の知識不足でした。
ただ、少なくとも私の中では、「掛け算の順番について殊更強調して指導された」「掛け算の順番を理由にしてテストで不正解にされた」経験が皆無なんですよ。
先生によっても指導法が異なるということもあるかもしれませんが、小学校時代毎年のように担任が別の人に変わっていたのに、6年間の間でそうした経験は一度たりともありません。学習塾含めてもです。
さらに私自身「1個当たりの人数→個数」の順番で計算しなきゃと意識して小学校のテストで式を書いたこともありません。それでも毎回のように算数のテストは100点を取り続けていました。
これが「私の時代にはそんな規則はなかった」と誤認してしまった理由です。
それでいて、「自分の子供のテストで、掛け算の順番を理由に×にされた」という事例がまとめサイトやtwitterで上がっては毎回かなりの反響になっています。
もし多くの人が「掛け算の順番には意味があるんだから、それを違えたら×で当たり前でしょ」という認識であれば、この話題が毎回バズるはずがないじゃないですか。それ以前に当たり前であれば話題にすらなりません。
少なくない人が「経験上掛け算の順番なんか意味がない」と考えていて、この×は理不尽だ、と思っているからこそ、バズるんです。
昔からそういう指導事例が存在していたからと言って「それが妥当であり正しい」とは限りません。
私の主張は、掛け算の指導法が「昔からそうだった」だろうが「つい最近からそうだ」だろうが関係ありません。
2. 『(掛け算の順番の指導法を理由に算数嫌いになるという)エビデンスは見当たりません』
私は「掛け算の順番の指導法を理由に算数嫌いになる」と断言するつもりも科学的に証明するつもりもなく、自分だったらそんな指導をされたら算数嫌いになっただろうなぁと感想を述べたまでです。だから、わざわざ断言を避け「リスクがある」と表現したのです。
多くの子供たちに算数・数学を好きになって欲しいと思っている私は、少しでも算数を嫌いにさせるような無意味な指導はなくしてほしいと考えているのです。
3. 《<答案A>(椅子の数)×(椅子1個あたりに座れる人数)=6個×7人/個=42人》
~《『「1個あたりの人数」と「個数」を掛け算すれば全体の人数が求まる』という理屈を理解して、実際に計算ができるようになる、という目標が達成できれば十分》
の部分の反論について
反論記事で引用されていた論文
https://www2.sed.tohoku.ac.jp/~edunet/annual_report/2011/11-06_miyata.pdf
の事例は、「掛け算の意味理解が不十分な状態で式の順序だけ守ろうとして式を書くのを躊躇していた」→「『一当たり量』と『いくつ分』の順序を入れ替えると意味が通らなくなることを教えることによって、結果正しく立式できた」
という内容のようですが、私に言わせれば「掛け算の意味理解が十分」であることと「掛け算を順番通りに立式する」こととは直接関係ないだろ、って突っ込みたくなりました。
例えば、論文で例示されている5匹のウサギの耳の数の合計については、
2が「ウサギ1匹が持っている耳の数」
5が「ウサギの数」
ということさえちゃんと理解できていれば、本質的に2×5と書こうが、5×2と書こうが問題ないわけですよ。
その理解を先生がチェックしたければ、式の数字の下に「↑ウサギの数」「↑1匹当たりの耳の数」と数字の意味・注釈を生徒に書かせる、ないし数字の後ろに「匹」「本/匹」のように単位を書かせればわけです。
特に単位を書かせれば、どうして掛け算の答えが「耳の本数」になるのかがより本質的に理解できるようになると思うのですが・・・
はっきり言って、a×bを計算させる場合に自動的に「aは1単位当たりの個数」「bは単位数」と解釈させるのは、小学校教育だけでしか通用しないローカルルールです。それぞれの数字の意味を書かせる手間を惜しんで、「掛け算の順番」を以て数字の意味を理解したか否かを判断しようとする大人の怠慢であり、その大人の怠慢を子供たちに押し付けているだけだと思います。
ということで、逐一突っ込めば、
3-1.《<答案A>(椅子の数)×(椅子1個あたりに座れる人数)=6個×7人/個=42人》→国内では『算数科の教育心理』という1957年の書籍,海外に目を向けると1983年・1988年の書籍で,類似の考え方が示されており,かけ算の導入時に採用されていないことも合わせて知ることができます。
→掛け算の導入時に採用されてないという現状は理解できましたが、だからと言ってその方法が数学的に妥当とは限りませんよね。
3-2.《小学校の指導要領では<答案A>はNGのようなのです》→小学校学習指導要領およびその解説には,どのような答案を正解・不正解とするかは書かれていません。なお,被乗数・乗数の違いは,高学年でも配慮されています。「7人/個」のようなパー書きを使用した式は,(2年の算数の)教科書では採用されていません。
→学習指導要領にどの答案を正解・不正解にするかが書かれてないって、それは「掛け算の順番を(1単位当たりの個数)×(単位数)と書くように指導している」と矛盾してませんか? そんなにその順番に拘るなら、指導要領にも「その順番でない解答は不正解とする」と明記すればいいじゃないですか。
「パー書きを使用した式は教科書には採用されてない」というのも、その現状は理解しましたが、だったら「採用すればいいじゃん」で終了なんですよ。必然性のない掛け算の順番に拘るよりも、パー書きで指導した方がよっぽど本質的な学習ができる、と私は思ってしまうのですが。
3-3. 《「(1個あたりの人数)×(個数)」の順番で掛け算しなさいというルールが、なぜそうなのかを小学校の先生方は子供たちに納得できる形で説明することができますか?》→そうすることで,「7人ずつ,6つ分」と「6人ずつ,7つ分」をそれぞれ「7×6」「6×7」と簡潔に書き分けることができます。それと別に,因数×因数に基づくかけ算の意味づけが,1960年代に米国でなされましたが,「現代化」とともに頓挫し,昔も今も日本では「一つ分の大きさ×幾つ分」で導入がなされています。
→その「簡潔な書き分け」とやらが、ただの小学校の中でしか通用しないローカルルールで何の必然性もないじゃないか、と私は言っているのです。ただの大人側の勝手な都合じゃないかと。そんな説得の仕方で子供たちが納得できるとでも?
3-4.《『「1個あたりの人数」と「個数」を掛け算すれば全体の人数が求まる』という理屈を理解して、実際に計算ができるようになる、という目標が達成できれば十分》→不十分です。掛け算の結果,どうして答えが人数になるのか(を子どもたちが理解し説明できるようになること)が欠落しています。
→掛け算の結果どうして答えが人数になるのかの理解に当たって、「掛け算の順番」は本質的な問題ではないでしょ、と私は終始言っています。上記で提案したように、
・各数字の意味を書かせる
・数字に単位を書かせる(各数字の意味が理解できていないと書けないはずです)
などの方法を取れば、順番に依存せずに掛け算の理屈を理解できると思うのですが。
そもそも、私の『「1個あたりの人数」と「個数」を掛け算すれば全体の人数が求まる』という理屈を理解して』の部分には、当然ながら『どの数字が「1個当たりの個数」に該当して、度の数字が「個数」に該当するのかを把握し、なぜ掛け算の結果が人数になるのかという理由を理解する』一連の過程は、全て含まれています。
「ただ掛け算さえできて答えが求めればお終いである」と解釈されているようなら、大きな誤解です。
3-5.《多少厳密性には欠いていたとしても、直感的でもいいから極限の概念を理解させ、その先の微分積分の楽しさ・有用性を味わってもらう方が、ためになるでしょう》→掛け算も,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」で(多少厳密性を欠いた形で)導入し,5年で「意味の拡張」を行っています。なお,2年でも,直積でモデル化される場面では,a×bとb×aの両方の式が認められています。
→小2の段階でa×bとb×aが両方認められる場面があったりなかったりするのはどうなんでしょうかね?混乱しませんか?
あと、私の単純な知識不足なのですが「直積でモデル化される場面」ってなんですか?具体的にどういう計算をする場面ですか?
30代の大人になった私でも意味不明な概念なのに、まして小2のような小さな子供に「これは直積だから逆もOK」「これは直積じゃないから逆だとNG」なんて区別ができるんですか?
と言ったところでしょうか。
4. 残りの部分の反論について
4-1.《(年数)×(1年あたりの日数)=3×365 = 1095日》→単位の換算と密接に関連します。
だから何?って感想しかないです。普段使われてる単位付きデータは、(単位数)×(1単位当たりの量)の形になっているよね、と言ってるだけなんですけど。
4-2. 《Q. 2yの3倍は何ですか?》→中学数学の学習です。乗法の交換法則と結合法則,それと係数の概念を,いつ学習するとよいかについて,考慮したいところです。
中学数学の内容だと私も明記してます。
で、私がこの例を取り上げた意図は「中学数学の内容と、小学校で習う掛け算の順番に矛盾が生じている→中学数学にスムーズに移行できるように、小学校の教え方を改善するべきなのでは?」というのを指摘するためだったのですが、伝わりにくかったですか?
4-3. 《気体方程式 PV=nRT》→理想気体の体積・圧力・温度の関係を明らかにしたボイル=シャルルの法則を、乗算のみになるよう式変形し,文字はアルファベット順にしただけです。
そんなわけないでしょ笑
言及された書籍https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000297023/takesdiar-22/については読んだことがないので、その書籍に対してどうこう言うつもりはないのですが、「文字はアルファベット順に並べただけ」なんてことは絶対にないです。反例をいくらでも挙げられれます。
例えば、ニュートンの運動方程式はどの教科書でも「F=ma」と書かれていますが、mとaはどう見てもアルファベットの逆順ですよね。
mはMass(質量)の頭文字、aはAcceleration(加速度)の頭文字で理に叶った文字選定です。どうしてわざわざ逆順の「ma」で書くのが一般的なのか?それは「力Fは、加速度aに比例する」というのが、この運動方程式の本質的な意味だからです。質量mは、この比例関係をイコールにするために後付けで考案された概念、比例係数なのです。
同じように、気体方程式も「圧力Pと体積Vの積は、温度Tに比例する」と言うのが法則の本質なので、本質的な物理量である温度Tは一番右に書き、比例係数に過ぎないnRはTの前に書くのが通例なのですよ。Rは1mollあたりの比例係数で、nはmoll数です。
そして、気体方程式には次のような書式もあります。
「PV=NkT」
(※kはボルツマン定数と呼び、気体定数Rをアボガドロ数(1mollに含まれる粒子の個数)で割ったものです。Nは粒子数です。)
これも右辺はアルファベット順ではありませんが、どの教科書でも「NkT」の順番で書かれています。その理由は上で書いた通りです。
5. 全体的に反論記事を読んだ感想
この反論記事を書いて下さった方は、小学校の算数教育に関して物凄く詳しい方、専門家なのだろうと拝察しました。そういった背景や歴史を全く知らない素人の私にとっても参考になる部分は大いにありました。
しかし、小学校での算数指導法に特化しすぎるあまり、その先の中学数学→高校数学→大学数学への連続性の配慮が出来ていないなぁと思いました。
「2年生では○○を教える」「5年生では○○を教える」「今までこういう指導法だった」っていう事実関係を列挙するのはいいのですが、「その方法がそもそも妥当なのか」という観点に乏しく、「既存の指導法は○○の理由で妥当なものであり、掛け算の順番は重要なのだと考える」という意見が見られなかった印象です。
だから、「それって、ただのローカルルールですよね?」という根本的な疑問に答えられていないのだと思いました。まぁ、これはあくまで私一個人の見解なので、絶対そうだとは言いませんがね。
長くなりましたが、反論記事を上げて頂き、誠にありがとうございました。